天然ゴム|ゴムノキ樹液由来の弾性高分子材料

天然ゴム

天然ゴムは、パラゴムノキ(学名 Hevea brasiliensis)の樹皮から採取される乳液を原料とする弾性体である。主成分はシス-1,4-ポリイソプレンで、化学式は(C5H8)nと表される。大きく伸ばしても元に戻る性質と、繰り返し変形させても発熱しにくい性質をあわせ持つ。そのため石油由来の合成ゴムが普及した現在も、大型タイヤや防振部品の分野でほかの材料に置き換えにくい素材となっている。

アマゾンから東南アジアへ渡った歴史

ゴムノキはもともと南米アマゾン流域に自生していた。先住民は古くから樹液でボールや防水布を作っていたが、生ゴムは夏にはべたつき、冬には硬くなるため、工業材料としては扱いにくかった。この欠点を解決したのが、1839年にチャールズ・グッドイヤーが発見した加硫である。生ゴムに硫黄を加えて加熱すると、分子どうしが架橋でつながり、温度による性質の変化が大幅に小さくなる。需要が急増するなか、1876年に英国のヘンリー・ウィッカムがブラジルから約7万粒の種子を持ち出し、キュー王立植物園を経てセイロンやマレー半島へ苗木が送られた。これが東南アジアでのプランテーション栽培の始まりとされている。

分子構造が生む独特の性質

ゴムノキが作るポリイソプレンは、ほぼ100%がシス型である。分子量は100万を超えることも多く、合成したイソプレンゴム(IR)よりも分子鎖の長さに幅がある。注目すべき性質は伸長結晶化である。強く引き伸ばされると分子鎖が向きをそろえて部分的に結晶になり、この結晶が補強材のような役割を果たす。その結果、カーボンなどの補強材を入れない配合でも引張強さが20〜30MPaに達する。

ゴム分以外に、タンパク質や脂質などの非ゴム成分が約5〜6%含まれている点も見落とせない。これらは天然の老化防止剤や加硫促進剤として働く一方、ラテックスアレルギーの原因にもなる。医療用手袋で脱タンパク処理品が使われるのはこのためである。ガラス転移点は約−70℃と低いが、−25℃付近で長期間保管すると結晶化して硬くなる。冬場の倉庫では、加工前に加温して硬さを戻す作業が必要になることがある。

樹液から原料ゴムになるまで

ゴムノキは植えてから5〜7年ほどで採液(タッピング)ができる太さに育ち、その後およそ25〜30年間樹液を採り続けられる。早朝に樹皮を斜めに薄く削ると、白いラテックスが流れ出てくる。採れたばかりの樹液のゴム分濃度は30〜40%ほどである。

主な加工ルート

  • 遠心分離でゴム分を約60%まで濃縮し、アンモニアを加えて保存する濃縮ラテックス(手袋やフォーム製品向け)
  • 酸で固めてシート状にし、燻煙室で乾燥させるリブドスモークドシート(RSS)
  • 固めたゴムを細かく砕いて洗い、熱風で乾燥させてブロック状に圧縮する技術的格付けゴム(TSR)
  • 白く仕上げることを重視した淡色クレープ(色の薄い製品向け)

格付けと品質規格

流通する原料ゴムの等級は、大きく二つの方式で決められている。RSSは見た目で判定する方式で、国際的な等級基準書「グリーンブック」に基づいて1号から5号に分けられる。一方のTSRは、異物量や灰分を測定して分類する方式で、ISO 2000に規格の枠組みが定められている。

区分 代表的な銘柄 格付け方法 主な用途
RSS RSS1、RSS3 色、気泡、カビなどを目視で判定 乗用車タイヤ、一般工業用品
TSR STR20、SMR20、SIR20 異物量、灰分、窒素分などを測定 トラック・バス用タイヤ
粘度安定化TSR SMR CV60 ムーニー粘度を60±5に調整 防振ゴム、精密成形品

受け入れ検査では、ムーニー粘度(JIS K 6300-1、ML1+4 100℃)と可塑度保持指数(PRI)が重視される。天然物なので、同じSTR20でも産地やロットによって粘度が10ポイント以上違うことがある。現場では、複数のロットを混ぜて性質をそろえてから配合する方法がよく使われている。

合成ゴムと比べたときの得失

ゴム材料を選ぶときは、天然ゴム、IR、スチレンブタジエンゴム(SBR)の3種類が比較されることが多い。天然ゴムが優れているのは、破れにくさ、繰り返し曲げても発熱しにくいこと、生ゴムどうしがよくくっつく粘着性である。何層も貼り合わせて成形するタイヤでは、この粘着性が作業のしやすさに直結する。反対に、オゾンや油、熱には弱い。耐熱性の目安は連続使用で70〜80℃程度とされ、エンジン周りのホースやオイルシールにはニトリルゴムやフッ素ゴムが使われる。

耐摩耗性はSBRのほうが有利な場面もある。このため乗用車タイヤのトレッドではSBRが主に使われ、熱がこもりやすい大型タイヤや航空機用タイヤでは天然ゴムの比率が高くなる。

製造現場での扱いと実務上の注意

ブロック状の原料ゴムはそのままでは粘度が高すぎるため、まず素練り(マスチケーション)で分子鎖を切り、加工しやすい柔らかさにする。バンバリーミキサーでは、素練りの温度を140℃前後に管理しないと、練りが足りなかったり逆に柔らかくなりすぎたりする。そのあとカーボンブラックや硫黄、加硫促進剤を加えて練り込む。

調達の面では、価格の変動が大きいことが購買担当者の悩みの種である。天候、産地の作況、原油価格、為替が絡み合い、1年で相場が3割以上動くことも珍しくない。大手タイヤメーカーは、大阪取引所のゴム先物やシンガポール市場の価格を参考にしながら、3〜6か月先までの量を契約しておくのが一般的である。中小の加工業者は、商社を通じて少量をこまめに買うことでロットの在庫を減らしている。

産地の偏りと供給をめぐる動き

世界の生産量は年間およそ1,400万トンで、タイ、インドネシア、ベトナムの3か国で全体の6割以上を占める。近年はコートジボワールが生産量を急速に伸ばしており、アフリカ産のTSRを使うメーカーも増えている。消費量の約7割はタイヤ向けである。

産地が東南アジアに集中していることや、病害(南米葉枯病など)への不安から、代わりとなるゴム資源の研究も進められている。米国南西部に自生する低木グアユールや、ロシアタンポポ(Taraxacum kok-saghyz)の根から採ったゴムは、タイヤに試験的に使われた例がある。さらに、EUの森林破壊防止規則(EUDR)では天然ゴムが対象品目に含まれており、輸出側の農園では位置情報を記録して出荷元をたどれるようにする取り組みが広がっている。こうした流れのなかで、エラストマー材料全体を見渡した調達戦略の見直しが進んでいる。

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