粉末冶金
粉末冶金は、金属の粉末を金型で押し固め、融点より低い温度で加熱して粒子同士を結合させ、部品や素材をつくる加工技術である。英語ではPowder Metallurgyといい、PMと略される。溶かした金属を型に流し込む鋳造や、塊から削り出す機械加工と比べると、材料の歩留まりが95%前後と高い。複雑な形状の部品を、寸法をそろえたまま大量に生産できる点も強みである。代表的な製品は自動車のエンジンや変速機に使われる歯車、スプロケット、軸受などで、国内の焼結機械部品の出荷量のおよそ9割を自動車向けが占める。
古代の鉄から電球のフィラメントまで
粉を固めて金属をつくる発想は古い。インドのデリーにある鉄柱は4〜5世紀ごろのものとされ、炉で還元した海綿状の鉄を鍛えてつなぎ合わせたと考えられている。近代的な技術としての出発点は19世紀前半で、英国のウォラストンが白金の粉末を圧縮・加熱して加工できる白金塊をつくり、1829年にその方法を発表した。転機となったのは1909年である。米国GE社のクーリッジがタングステンの粉末から引き伸ばせる線材をつくり、白熱電球のフィラメントとして実用化した。融点が3400℃を超えるタングステンは溶かして鋳込むことが難しく、粉末から形にするしかなかった。1920年代にはドイツで炭化タングステンとコバルトを焼き固めた超硬合金が登場し、1926年にクルップ社が「ウィディア」の名で売り出した。同じころ米国では油を含ませて使う含油軸受が開発され、日本でも戦後の1950年代以降、自動車産業の成長とともに量産が広がった。
部品ができあがるまでの工程
プレス成形と焼結を組み合わせる方法が最も一般的で、工程は大きく次の5段階に分けられる。
- 原料粉末の製造:溶湯を噴霧する方法や、酸化鉄を還元する方法で粉末をつくる
- 混合:黒鉛粉、銅粉などの合金成分と、潤滑剤のステアリン酸亜鉛などを0.5〜1%ほど加えて均一に混ぜる
- 成形:金型に粉を充填し、上下のパンチで圧縮して「圧粉体」をつくる
- 焼結:保護雰囲気の炉で加熱し、粒子同士を拡散によって結合させる
- 後処理:サイジング(再圧縮による寸法矯正)、熱処理、含油、機械加工などを必要に応じて行う
原料粉末のつくり方
鉄粉の主流は、溶かした鋼に高圧の水を吹き付けて粉砕する水アトマイズ粉と、鉄鉱石やミルスケールを水素や一酸化炭素で還元した還元鉄粉の2種類である。水アトマイズ粉は粒が不規則な形になりやすく、圧縮したときに絡み合うため成形性がよい。不活性ガスで噴霧するガスアトマイズ粉は球形に近く、酸素量も低いので、後述する射出成形や積層造形に向いている。アトマイズ法で得た粉末は、プレス用ならおおむね20〜180μm、射出成形用なら20μm以下に分級して使う。
圧縮と加熱のあいだで粉に起きていること
鉄系部品の場合、成形圧力は490〜690MPa程度が目安になる。これは1cm²あたり5〜7tの力に相当し、圧粉体の密度は6.6〜7.1g/cm³ほどに達する。鉄の真密度は7.87g/cm³なので、相対密度に直すと84〜90%で、内部には10%以上の空隙が残っている計算になる。相対密度は次の式で表される。
相対密度(%)= ρ ÷ ρ0 × 100
ρ:焼結体の見かけ密度、ρ0:材料の真密度
この状態ではまだ指で強く押すと欠けるほど脆い。メッシュベルト炉に通し、窒素と水素の混合ガスや吸熱型変成ガスの中で1120〜1150℃、20〜40分ほど保持すると、粒子の接点に「ネック」と呼ばれるくびれが成長して強固に結びつく。融点の約70〜80%の温度で固体のまま結合が進むことが、溶解を伴う加工との本質的な違いである。銅を2%ほど加えた材料では、銅が溶けて隙間に浸み込む液相焼結も起こり、強度が上がるかわりにわずかに膨張する。
プレス焼結以外の工法との比較
粉末を出発原料とする工法はプレス焼結だけではない。形状、密度、ロット数によって使い分けられており、主な工法を並べると次のようになる。
| 工法 | 相対密度の目安 | 形状の自由度 | 向いている生産量 | 代表的な製品 |
|---|---|---|---|---|
| プレス焼結 | 85〜92% | 上下方向に抜ける形状が中心 | 月数万〜数百万個 | 歯車、スプロケット、軸受 |
| 金属射出成形(MIM) | 95〜99% | 三次元形状、薄肉も可 | 数千〜数十万個 | 時計部品、医療器具、小型ヒンジ |
| 熱間等方圧加圧(HIP) | ほぼ100% | カプセル形状に依存 | 少量 | 工具鋼素材、タービン部品 |
| 金属積層造形 | 99%以上(溶融方式) | 中空や格子構造も可 | 1個〜少量 | 試作品、航空宇宙部品、金型入れ子 |
HIPは100〜200MPaのアルゴンガス圧をあらゆる方向からかけながら1000〜1250℃で処理するため、内部の空隙がほぼ消える。MIMは粉末に樹脂のバインダーを体積で40%前後混ぜ、プラスチックと同じように射出成形したあと、脱脂と焼結を行う。焼結時に15〜20%程度収縮するので、金型はその分を見込んで大きめに作る。
よく使われる材料
機械構造部品では、鉄に銅と炭素を加えたFe-Cu-C系、ニッケルやモリブデンを加えた低合金鋼系が中心となる。国内ではJIS Z 2550で焼結材料の種類と記号が定められており、引張強さや密度の区分が示されている。軸受用には青銅系や鉄-銅系が多い。気孔率を20%前後に設定し、そこへ潤滑油を含浸させることで、給油なしで長時間回転できる自己潤滑性が得られる。磁性材料の分野も大きく、ハイブリッド車や電気自動車のモーターに使われるネオジム焼結磁石は、粉末を磁場の中で成形してから焼結する。高融点金属のモリブデンや、切削工具の超硬合金も、粉末冶金でなければ製造が難しい代表例である。
製造現場から見た使い分けとコスト感
発注側がまず考えるのは金型費との釣り合いである。焼結部品の金型は形状にもよるが数十万〜数百万円かかり、ダイとパンチの摩耗交換も定期的に発生する。そのため年間数千個程度なら鍛造品や削り出しのほうが安く済むことが多く、焼結に切り替える損益分岐はおおむね年1万個以上が目安とされる。逆に量が出る部品であれば、歯形まで一工程で成形できるので、ホブ切りが不要になり1個あたりの単価は大幅に下がる。
現場で見落とされやすいのが空隙の扱いである。めっきをすると液が気孔に入り込み、後から染み出して錆やしみの原因になる。めっきや塗装の前には樹脂含浸で封孔するか、550℃前後の水蒸気処理で表面に四三酸化鉄の皮膜をつくって孔をふさぐ。浸炭焼入れでも、ガスが内部まで浸透して硬化層が深くなりすぎることがあり、溶製鋼と同じ条件では狙いの硬さ分布にならない。
設計段階で押さえたい制約
プレスは上下方向にしか圧縮できないため、高さと直径の比が2〜3を超える部品では中央部の密度が下がりやすい。横穴、ねじ、アンダーカットは成形できず、後加工で追加することになる。肉厚は最小でも1.5〜2mmほど確保し、鋭いエッジには面取りを付けるのが一般的である。焼結後の寸法精度はIT8〜9程度で、サイジングを加えるとIT6〜7まで詰められる。品質確認では、JIS Z 2501に基づく密度・含油率の測定や、軸受の場合はJIS Z 2507の圧環強さ試験が広く用いられている。
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