浄水場|原水を安全な水道水に変える施設

浄水場

浄水場は、河川水や湖沼水、地下水などの原水を取り込み、濁りや有機物、病原微生物を取り除いて飲用に適した水道水をつくる施設である。水道法第4条にもとづく水質基準(2020年4月以降は51項目)を満たすことが法律で義務づけられている。処理を終えた水は配水池に貯められ、そこから管路網を通じて家庭や事業所へ送られる。日本の水道普及率は約98%に達しており、ほとんどの水道水がいずれかの浄水場を経由している。

横浜から始まった近代水道

日本初の近代水道は、1887年(明治20年)に横浜で給水を開始した。設計したのは英国人技師ヘンリー・スペンサー・パーマーで、相模川上流の水を導き、野毛山の浄水場で緩速ろ過を行う方式を採用した。背景にはコレラの流行があり、近代水道は何よりも感染症対策として整備された。東京では1898年に淀橋浄水場が通水している。戦後の高度経済成長期になると都市部の水需要が急増し、狭い敷地で大量の水を処理できる急速ろ過方式が主流になった。

ろ過方式による違い

どのろ過方式を選ぶかは、原水の水質と必要な処理量で決まる。代表的な3方式の特徴を下表に示す。

方式 ろ過速度の目安 前処理 主な除去の仕組み 向いている原水
緩速ろ過 4〜5 m/日 普通沈殿のみ 砂層表面の生物膜による分解・捕捉 濁度が低く安定した水
急速ろ過 120〜150 m/日 凝集沈殿が必要 フロックを砂層で物理的に捕捉 濁度の変動が大きい河川水
膜ろ過 膜の種類と運転条件による 簡略化できる場合がある 精密ろ過膜・限外ろ過膜によるふるい分け 小規模水道、病原性原虫への対策

緩速ろ過は薬品をほとんど使わずに良好な水質が得られるが、ろ過速度が遅いぶん広い用地が必要になる。2000年代以降は、膜分離技術を使った膜ろ過設備が小規模な浄水場を中心に普及した。ユニット化された装置は省スペースで、遠隔監視とも組み合わせやすい。職員の少ない山間部の事業体が更新時に膜ろ過を選ぶケースは多い。

急速ろ過方式の処理工程

国内の大規模施設で最も多い急速ろ過方式では、原水はおおむね次の順に処理される。

  1. 着水井:取水した原水の水位と流量を安定させ、濁度やpHを連続計測する
  2. 薬品混和池:凝集剤を注入し、短時間で急速撹拌する
  3. フロック形成池:ゆっくり撹拌し、微細な粒子を大きなフロックへ成長させる
  4. 沈殿池:横流式なら3〜5時間ほど滞留させ、フロックを沈降させる
  5. 急速ろ過池:砂やアンスラサイトの層で残りの濁質を除去する
  6. 消毒・浄水池:塩素を注入し、送水まで一時的に貯留する

凝集剤の注入率とジャーテスト

凝集剤にはポリ塩化アルミニウム(PAC)や硫酸アルミニウムが使われる。注入率は平常時なら10〜30 mg/L程度だが、台風のあと原水濁度が数百度に達すると何倍にも増える。現場では、採水した原水を複数のビーカーに分け、注入量を段階的に変えて撹拌するジャーテストで最適値を決める。薬品はタンクローリーで定期的に搬入されるため、豪雨が続くと在庫が想定より早く減り、発注を前倒しすることもある。近年は原料費や物流費の上昇によるPACの値上げが続いており、薬品費は中小事業体の運転コストに直接響く項目になっている。

高度浄水処理が導入された背景

1980年代後半、首都圏や近畿圏の水道水でカビ臭やトリハロメタンへの苦情が目立つようになった。カビ臭の原因物質である2-MIBとジェオスミンの基準値は、それぞれ0.00001 mg/Lと非常に厳しい。ところが、この物質は通常の凝集沈殿・ろ過ではほとんど除去できない。そこでオゾンによる酸化と、生物活性炭による吸着・分解を組み合わせた高度浄水処理が開発された。淀川を水源とする大阪の各事業体が先行して導入し、東京都も2013年度に利根川水系の全浄水場で高度浄水処理への切り替えを終えている。消毒副生成物であるトリハロメタンの前駆物質を減らす効果もある。

消毒と残留塩素の管理

最終工程では次亜塩素酸ナトリウムや液化塩素を注入する。水道法施行規則では、給水栓の水で遊離残留塩素0.1 mg/L以上を保持するよう定めている。消毒効果の目安としてよく使われるのがCT値で、次の式で表される。
CT = C × T
ここでCは残留消毒剤濃度(mg/L)、Tは接触時間(min)を表す。もっとも、塩素に強い耐性をもつクリプトスポリジウムは、CT値を高めても十分に不活化できない。1996年には埼玉県越生町で約8,800人が感染する集団発生が起きた。これを受けて、ろ過水の濁度を0.1度以下に管理する指針が示され、2007年には紫外線処理が正式な対策として認められた。

発生土の処理と運営形態の変化

沈殿池やろ過池の洗浄排水から回収される汚泥は、脱水したあと「浄水発生土」として処分される。かつては埋立てが中心だったが、現在は園芸用土やセメント原料への有効利用が広がった。含水率やアルミニウム含有量が取引条件になるため、凝集剤の選び方が引き取り先との契約にまで影響する。また、1970年代に整備された設備の多くが一斉に更新時期を迎えており、耐震化を含めた投資負担は大きい。2018年の水道法改正で、公共施設等運営権(コンセッション)方式を導入できるようになった。宮城県は2022年4月、上水道・工業用水道・下水処理場を一体で民間に委ねる「みやぎ型管理運営方式」を始めている。設計・建設・運転を一括で発注するDBO方式も含め、浄水場の運営は自治体の直営だけに限られなくなっている。

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