振動モード|構造の固有形状と固有周波数理解法

振動モード

振動モードとは、連続体や多自由度系が自由振動するときに現れる空間的な変形パターンと、それに対応する固有振動数の組である。弦や梁、板から複雑な機械構造まで、境界条件が与えられた系には離散的なモードが存在し、各モードは結節(動かない点や線)と腹(最大変位部)を持つ。外力が加わると、応答はすべての振動モードの重ね合わせで表され、共振近傍では該当モードが支配的となる。工学設計では、固有値解析によりモード形と固有振動数を把握し、共振回避、軽量化、騒音・疲労低減などに活用するのが基本である。

数学的定義と固有値問題

多自由度系の運動方程式は一般に M𝘮+C𝘭+Ku=f で表される。自由・無減衰・無外力なら (K−ω²M)φ=0 の固有値問題となり、固有振動数 ω とモードベクトル φ を得る。対称正定な M, K の下では異なるモードは質量行列に関して直交し、質量正規化 φᵀMφ=1 によりモード質量・モード剛性が明確になる。比例減衰ならモード座標への変換で方程式はほぼ独立化し、各モードを単自由度系として扱える。

  • M:質量行列、K:剛性行列、C:減衰行列、φ:モード形、ω:固有円振動数
  • 固有対 (ω, φ) は境界条件と物性に依存し、モード順は周波数昇順で整理する。

モードの性質(結節・腹・次数)

モード次数が上がるほど結節は増え、波長は短くなる。弦では結節が点、梁では点列、板や殻では結節線・結節環として現れる。固定・単純支持・自由などの境界条件は結節配置を決め、同一形状でも境界条件の違いで振動モードは大きく変化する。局所剛性の不均一や付加質量があると、節・腹の位置は偏り、エネルギーが局在化することもある。

モード合成と応答計算

比例減衰系では、変位 u(t) はモード形 φᵢ とモード座標 qᵢ(t) の線形和 u=Σφᵢqᵢ で表される。外力 p に対する各モードの寄与は参加係数と有効質量で定量化でき、上位モードを適切に打ち切るモード縮約で計算効率を高める。周波数応答関数(FRF)では、各極に対応するピークが現れ、ピークの高さと幅から減衰比・モード寄与を読み取れる。

  1. 固有値解析で (ωᵢ, φᵢ) を得る。
  2. モード正規化と直交性を用いてモード座標系へ変換。
  3. 必要次数までで打切り、時刻歴または周波数域で応答を合成。

減衰と複素モード

比例(レイリー)減衰ならモードは実直交し、各モードが独立に減衰する。一方、非比例減衰や粘性と摩擦が混在する場合、系は非直交化し複素モードが必要となる。複素固有値 λ=−ζω±jω√(1−ζ²) は減衰と振動を同時に表し、FRF では隣接モードの相互干渉が強くなるため、実験同定でも非直交性を考慮する。

実験モード解析(EMA)と運転モード解析(OMA)

EMA はインパルスハンマやシェーカで既知加振を与え、加速度応答から FRF を計測して極・零点を同定する。測定点配置は結節・腹を見抜けるよう面内・面外のモード形に合わせるのが要点である。OMA は稼働中騒音や路面入力など未知励振下で相関・確率手法を用いてモードを推定する。モード間の一致度は MAC 指標で評価し、数値解析と照合してモデル更新に用いる。

代表例:弦・梁・板のモード

両端固定弦では整数次の正弦形が現れ、周波数は長さに反比例し張力と線密度で決まる。オイラー・ベルヌーイ梁の両端単純支持では、モード形は正弦、固有周波数は曲げ剛性と密度・長さの関数となる。板では境界条件(SSSS、CCCC など)により結節線の本数と配置が変わり、面外曲げと面内膜効果の競合で高次になるほどモードは複雑化する。

設計への活用と留意点

振動モードを把握すると、危険回転数の回避、補剛位置の最適化、制振材やアクティブ制御の配置、感度の高いセンサ位置決めが体系的に行える。モード間隔が密な領域では打切り誤差が応答に影響しやすく、追加の高次モードまたはモード縮約(Craig–Bampton など)の導入が有効である。また流体連成(FSI)では付加質量により固有周波数が低下し、乾燥時のモードからの外挿は危険となる。製造ばらつきやボルト締結の接触非線形もモードを変えるため、試作段階での EMA/OMA による検証が推奨される。

関連用語と実務の指針

固有振動数(ナチュラルフリークエンシ)、モード形(モードシェイプ)、参加係数、モード有効質量、直交性、比例減衰・非比例減衰、複素モード、FRF、MAC、モデル更新、結節・腹、境界条件などが基礎語彙である。数値解析では FEM により M, C, K を得てモードを計算し、EMA/OMA の実測と MAC で照合、乖離は材料定数・拘束条件・接触剛性の再同定で縮小するのが定石である。