ラッシュアジャスター|油圧でバルブクリアランス自動補正

ラッシュアジャスター

ラッシュアジャスターは、内燃エンジンのバルブ系におけるバルブクリアランス(タペットクリアランス)を自動で補償する機構である。油圧式が一般で、運転中にエンジンオイルを利用して微小な隙間を埋め、常にゼロ付近のクリアランスを維持することで、騒音低減とカム追従性の確保、出力・燃費の安定化に寄与する。構成要素はプランジャ、チェックバルブ(ボールまたはディスク)、スプリング、ハウジングなどで、プランジャ隙間は数μmの精密公差で仕上げられる。エンジンの上部にあるシリンダーヘッド内で、カムシャフトロッカーアームバルブスプリングと連携し、温度や摩耗によるクリアランス変動を自動追従する点が特徴である。

構造と作動原理

ラッシュアジャスターは、停止時には内部スプリング力でプランジャを伸長させ、カム・バルブ系の隙間を埋める。始動後は油路から供給されたオイルがプランジャ室へ流入し、チェックバルブが閉じることで油柱が形成され、実質的に剛体化して力を伝達する。熱膨張によりクリアランスが変化しても、微小なリークと再充填により伸縮してゼロラッシュを維持する。OHC/DOHC系の直打式タペット、ローラーロッカー支点内蔵型、プッシュロッド式リフター一体型などに適用され、HLA(Hydraulic Lash Adjuster)とも呼ばれる。高回転時は油面のエア混入(エアレーション)や供給遅れに注意が必要で、ポンピングアップによる過大リフト・バルブ浮き誘発を避けるため、オリフィス径やリリーフ通路の最適化が行われる。

種類とレイアウト

代表的な形式は、①直打式バケットタペット内蔵型:タペット中心にHLAを配置しコンパクト化、②ロッカーアーム支点内蔵型:アームのピボットにHLAを組み込み質量増加を抑制、③プッシュロッド式油圧リフター:V型エンジンなどで旧来から普及、である。DOHC直打式は高回転適性に優れ、ロッカー内蔵型は摩擦低減のためローラー接触を採ることが多い。いずれもオイル通路の清浄度確保が肝要で、スラッジ堆積はチェックバルブ固着を招く。なお、機械式シム調整は軽量・応答性に利があるが、定期調整を要する。一方ラッシュアジャスターはメンテナンスフリー性が高く量産車に広く採用されている。

利点と設計上の留意点

ラッシュアジャスターの利点は、タペット音低減、バルブタイミングの再現性向上、暖機・熱負荷変動時の安定、整備性の向上である。設計上は(1)プランジャ径と摺動隙間(数μm)のバランス、(2)オリフィス面積とリーク量の調和、(3)油温粘度とポンプ吐出のマッチング、(4)高回転時の補償応答(時定数)とカムプロファイルの整合、(5)質量増によるバルブトレーン慣性の増大抑制、が重要となる。潤滑系ではフィルタ捕集効率、オイル清浄性、気泡分離性を確保し、空気混入によりコンプライアンスが増す現象を抑える。関連部品の材質・剛性(カムシャフトの曲げ剛性、ロッカーアームの剛性、バルブの質量)とも一体で最適化する。

故障モードと診断・整備

代表的な不具合は、始動直後のカチカチ音(エア噛み・油抜け)、温間での断続的打音(内部リーク増大)、高回転域のポンピングアップ(開弁異常・戻り遅れ)、スラッジ固着(チェックバルブ不作動)などである。診断は油圧・油温・回転数依存性の確認、打音周波数の同定、気筒切り分けによる着目などを行う。整備では適正オイル粘度の使用、交換間隔の順守、エンジン分解時のアッシ洗浄・エア抜きが基本で、長期保管後はクランキングで油圧を立ち上げてから始動すると良い。バルブ系の気密・剛性面ではシリンダーヘッドヘッドガスケットの健全性も影響するため、併せて点検する。

他方式との比較観点

機械式(シム/スクリュー調整)は軽量・高応答・高回転に強いが、クリアランス管理の作業負担がある。油圧式ラッシュアジャスターは騒音と保守性に優れ、実用域での性能安定が大きい。高回転・高加速度の競技用途では機械式や軽量バルブトレーン(チタンリテーナ等)を選ぶ場合があるが、量産実用エンジンではHLAの総合バランスが勝る。設計時はカムプロファイル、バルブばね定数、アーム比、質量分布、目標回転域の整合をとり、クリアランスゼロ化が弁座打痕やシール摩耗を助長しないよう、潤滑・冷却の余裕度を見込む。関連する動弁系の相互作用はバルブスプリングのサージやカムスプロケットの位相精度とも密接である。

設計・製造の実務メモ

量産製造ではプランジャ/ボディの真円度・同軸度、表面粗さ、脱脂・防錆、洗浄残渣規制が品質の肝となる。エンジン組立では油路のバリ・異物混入防止と、初期充填によるエア抜き管理を徹底する。サービス現場では適正オイル(粘度・規格)の選定と交換が最良の予防整備であり、打音発生時は初期にオイル劣化・油量不足・フィルタ閉塞を疑う。動弁系の総合最適化においてはエンジン本体の剛性、コンロッドピストンの質量バランスもNVHと回転上限に影響するため、系として捉えることが肝要である。