コンロッド
コンロッド(コネクティングロッド、英: connecting rod)は、ピストン運動をクランク軸の回転運動へ変換する連接機構の中核要素である。小端でピストンピンに、大端でクランクピンに結合し、燃焼圧力と慣性力を受けながら高サイクルで曲げ・圧縮・引張・せん断を繰り返し負担する。量産内燃機関では強度と軽量の最適化、製造容易性、潤滑確保、クリアランス管理、NVH低減を同時に満たすことが要求される。
役割と力学的特性
コンロッドは往復質量の一部として上下死点付近で大きな慣性力が作用する。連接棒比λ=L/r(L:小端―大端中心距離、r:クランク半径)はピストン側スラストや2次振動を左右し、一般乗用車でおおむね2.8〜4.2が用いられる。座屈安全率、ねじり剛性、曲げ剛性をバランスさせ、断面はI形やH形、X形が多い。
構成要素と名称
- 小端部:ピストンピンと嵌合し、ブッシュ(Cu合金など)を圧入する場合がある。
- ロッド本体:首部と胴部で断面最適化を行い、オイル穴やリリーフを設ける。
- 大端部:クランクピンを抱持。キャップ分割はボルト締結。近年はフラクチャースプリットが主流。
材料と熱処理
コンロッドの主材は鍛造合金鋼(例:Cr-Mo系)で、焼入れ・焼戻しにより強度と靭性を確保する。軽量化目的で粉末冶金(PM)やアルミ合金鍛造、チタン合金が選択されることもある。表面強化にはショットピーニング、窒化、表面改質被膜(DLC等)を適用し疲労寿命を延ばす。
製造方法と分割技術
熱間鍛造→トリミング→正火・調質→機械加工→表面処理→組立の順が一般的である。大端はフラクチャースプリット(制御破断)により、相補面が微細破面で唯一無二の位置決めを実現し、ボルト予圧の再現性と同軸度を高める。PM一体成形は歩留まりとコストで利点がある。
潤滑と軸受
大端部は薄肉メタル軸受(Al-SnやCu-Pb系)を用い、オイル穴・オイルスロットで供給を確実化する。ラジアル荷重とミスアライメントを考慮して油膜厚さを設計し、境界潤滑域の摩耗対策に錫めっきや複層メタルを採用する。小端側はブッシュ+油溜まりでピン摺動を安定化する。
設計指標と計算
- 連接棒比λとロッド長L:燃焼圧ピーク時の圧縮、上死点前後の引張慣性を両立。
- 断面二次モーメント:曲げ剛性と質量のトレードオフ最適化。
- 固有振動数:高回転域での共振回避。主として曲げ一次とねじり一次を管理。
- ボルト予圧:大端面圧とすべり防止。疲労破壊回避の要。
締結とボルト管理
キャップボルトは降伏締結を前提に、伸び管理やトルク角法でばらつきを抑える。ねじ部応力集中を避けるためフィレットや座面形状を最適化し、再使用可否は伸び・ネジ山塑性の検査基準で判定する。
故障モードと対策
- 大端メタル焼付き:潤滑不足・油温過昇。オリフィス径・油路見直し。
- ロッド本体の疲労亀裂:応力集中・表面欠陥。ショットピーニング強化、コーナR最適化。
- 小端ブッシュ摩耗:潤滑供給不足と偏荷重。ブッシュ材とクリアランス再設計。
- ボルト破断:締結管理不良。予圧・座面処理・材質アップグレード。
品質検査と計測
中心距離L、真円度・同軸度、幅・厚み、重量ペアリング(ロッド側・キャップ側分離重量)を検査する。大端内径はゲージブロック・内径マイクロで測定し、割面位置決めの再現性はピンゲージで確認する。非破壊検査には磁粉探傷や浸透探傷を用いる。
質量最適化とNVH
コンロッドの軽量化は往復質量の低減につながり、2次慣性振動とベアリング荷重を抑える。位相最適や重量選別でシリンダ間ばらつきを縮小し、アイドル騒音や高回転振動を低減する。形状最適化にはトポロジー最適化や形状パラメトリック設計が有効である。
熱環境と潤滑油管理
油温は80〜120°C程度で管理し、粘度グレードとせん断安定性を考慮する。高負荷エンジンではピストン冷却オイルジェットを併用し小端潤滑の信頼性を高める。油劣化によるラッカー・ワニスはメタル表面を阻害するため定期交換が重要である。
ピストン・クランクとの関係
コンロッド長の設定はピストン側スラストや燃焼の滞留時間、燃費・排出特性にも影響する。クランクシャフトのジャーナル剛性やバランサとの整合、ピストンピンの剛性と表面粗さ管理を含めたシステム最適が必要である。
加工公差とはめあい
大端ベアリングは適正な圧入代とクラッシュ高さを確保し、作動時の油膜厚と熱膨張を見込んで設計する。小端ブッシュはH7/g6などの基準を参考にクリアランスを設定し、面粗さRaと円筒度で油膜形成を助ける。
高出力化とモータースポーツ
高回転・高BMEP用途では鍛造チタン合金やH断面極薄化を採用し、フリクション低減と高剛性を両立する。ボルトは高強度合金鋼でネックダウン形状を用い、伸び計測で確実な降伏締結を行う。
設計実務の留意点
- CAE:弾塑性疲労解析、マルチボディ動力学で荷重時系列を把握。
- 試験:ストレインゲージによる応力実測、回転ベンチで熱機械複合評価。
- 量産:工程能力(Cp/Cpk)管理、重量選別とトレーサビリティ整備。
用語と略記
連接棒(英: connecting rod)、小端(small end)、大端(big end)、ピン(wrist pin)、メタル(bearing shell)、フラクチャースプリット(fracture split)、ショットピーニング(shot peening)などを用いる。本文ではコンロッドを標準呼称として扱った。