プレス機械
プレス機械は、上下に向かい合わせた金型の間に材料を置き、強い力で押しつけて切断、曲げ、絞り、圧縮などを行う機械の総称である。自動車のボディパネルや家電製品の外装から、スマートフォン内部の小さな端子まで、身近な金属部品の多くはこの機械で作られている。加圧力は数kNの卓上機から25,000kNを超える大型機まで幅広い。駆動方式やフレーム形状の組み合わせによって性格が大きく変わる点も、この機械の特徴である。
ねじ式からサーボ式までの歩み
起源をたどると、15世紀のブドウ搾りや活版印刷に使われた手回しのねじ式プレスに行き着く。19世紀に入ると、蒸気機関の動力をフライホイールに蓄え、クランク軸で上下運動に変える機械式プレスが登場し、硬貨や缶の量産が始まった。日本では1950年代以降、自動車産業の成長とともに国産メーカーが力をつけ、1970年代には複数の工程を1台でこなすトランスファープレスが普及している。転機となったのは2000年代初頭である。サーボモーターでスライドを直接動かすサーボプレスが実用化され、速度や停止位置を加工内容に合わせて自由に設定できるようになった。
駆動方式による違い
同じ「1,000kN機」でも、駆動方式が違えば力の出方はまったく異なる。現在主流の3方式を比べると、次のようになる。
| 方式 | 動力の伝え方 | 加圧の特性 | 生産速度の目安 | 得意な加工 |
|---|---|---|---|---|
| 機械式(クランク・リンク) | モーター→フライホイール→クラッチ→クランク軸 | 下死点付近でのみ公称能力を発揮 | 小型高速機で毎分1,000回以上 | 打ち抜き加工、曲げ、順送加工 |
| 液圧式 | 油圧ポンプ→シリンダー | ストロークのどこでも最大加圧が可能 | 毎分数回〜数十回 | 深絞り、圧入、成形 |
| サーボ式 | サーボモーター→減速機・ボールねじなど | 速度と位置をプログラムで制御 | 機械式に近い速度まで対応 | 高張力鋼板、難加工材、精密成形 |
リンク機構の工夫
クランクの代わりにリンクを組み込んだナックルプレスやリンクプレスは、下死点の手前でスライドがゆっくり動く。冷間鍛造やコイニングのように、最後の数mmで大きな力が要る加工に向いている。
フレーム形状で変わる剛性と作業性
フレームは大きく2つに分けられる。C形フレーム(ギャップフレーム)は横から見るとアルファベットのCのような形で、前と左右の三方から材料を出し入れできる。小さな部品の加工には便利だが、荷重がかかると口が開くようにたわむため、おおむね2,000kN以下の中小型機に使われることが多い。これに対し、ストレートサイド形は左右の柱でクラウンとベッドをつなぐ門形の構造で、たわみが少なく偏心荷重にも強い。自動車のボディパネルを加工するタンデムラインやトランスファープレスはほぼこの形式である。精度の評価基準として、機械プレスにはJIS B 6402、液圧プレスにはJIS B 6403が用いられている。
カタログの「能力」をどう読むか
機械式プレス機械の仕様を見るときは、3つの能力を区別して考える必要がある。1つ目は加圧能力(公称能力)で、「2,000kN」のように表示される最大荷重を指す。2つ目はトルク能力で、公称能力を出せるのは下死点の少し上、たとえば下死点上6mmといった「能力発生位置」より下に限られる。3つ目が仕事能力で、1回の加工に使えるエネルギーの上限を示す。フライホイールが蓄えるエネルギーは次の式で表される。
E = 1⁄2 × I × ω2 (I:慣性モーメント、ω:角速度)
現場でよくある失敗は、加工荷重が公称能力の範囲内なのに機械が止まってしまうケースである。深絞りのように長い距離で力をかける加工では、荷重よりも仕事能力が先に足りなくなる。そのため実務では、ピーク荷重を公称能力の70〜80%程度に抑え、さらに加工エネルギーも別に計算して機種を選ぶのが一般的なやり方である。
法令で定められた安全対策
プレス作業は手指の切断事故が起きやすい作業として知られ、日本では労働安全衛生法のもとで次のような義務が定められている。
- 労働安全衛生規則第131条による、身体の一部が危険範囲に入らない措置(光線式安全装置、両手操作式安全装置など)
- 動力プレスを5台以上もつ事業場での、プレス機械作業主任者の選任
- 動力プレスについて1年以内ごとに1回行う特定自主検査
- 「動力プレス機械構造規格」と「プレス機械又はシャーの安全装置構造規格」への適合
海外へ輸出する場合は、国際規格ISO 16092シリーズが求める安全要求も確認しておく必要がある。
導入現場での使い分け
サーボプレスは性能面で有利だが、同じ能力の機械式と比べると導入価格は1.3〜1.5倍程度になることが多いといわれる。そのため、単純な打ち抜きを大量に行うラインでは今も機械式が主力で、高張力鋼板の曲げやスプリングバック対策が必要な工程にだけサーボ機を入れる工場も少なくない。サーボ機は下死点の位置を±0.01mm台で管理できるので、金型の摩耗が抑えられ、研磨の回数が減ったという声もよく聞かれる。一方、液圧式は加圧時間を長く保てる点が板金の試作や少量生産で重宝され、金型のトライアウト用として使われることも多い。どの方式を選ぶかは加工荷重だけでなく、生産数量、金型費、電力コストまで含めて総合的に判断することになる。
日常点検で見落とされやすい箇所
機械式の場合、クラッチとブレーキのライニングが摩耗すると停止距離が長くなり、光線式安全装置の安全距離が足りなくなる。停止性能測定装置で急停止時間を定期的に測っておくことが、プレス加工の現場では基本的な管理項目になっている。
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