エネルギー政策|安定供給と脱炭素を両立する国家戦略

エネルギー政策

エネルギー政策とは、国や地域が電力・燃料などのエネルギーを安定して確保し、経済的かつ環境に配慮した形で供給・利用するために定める方針と制度の総称である。日本では「エネルギー基本計画」を中心に、電源構成の目標、再生可能エネルギーの導入支援、省エネルギー規制、カーボンプライシングなどが組み合わされて運用されている。資源の大半を輸入に頼る日本にとって、これは産業競争力と国民生活の両方を左右する基盤政策といえる。

石油危機から始まった日本のエネルギー政策

戦後の日本は石炭から石油への「エネルギー革命」を急速に進め、1970年代初頭には一次エネルギーの約4分の3を石油が占めていた。1973年の第1次石油危機で原油価格が約4倍に跳ね上がると、この構造の脆さが表面化する。政府は1979年に省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)を制定し、石油代替エネルギーとして原子力発電と液化天然ガス(LNG)の導入を本格化させた。2002年にはエネルギー政策基本法が成立し、同法にもとづいて2003年に初のエネルギー基本計画が策定されている。以後、計画はおおむね3年ごとに見直され、2025年2月に第7次計画が閣議決定された。

基本原則「S+3E」

日本のエネルギー政策は、安全性(Safety)を大前提に、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)の3つを同時に満たすことを原則としている。これを「S+3E」と呼ぶ。2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて「S」が明示的に加えられた経緯がある。第7次計画ではこの原則を維持しつつ、ロシアのウクライナ侵攻による燃料価格高騰を踏まえ、安定供給を第一とする姿勢が強調された。

エネルギー自給率という指標

安定供給の度合いを測る代表的な指標がエネルギー自給率で、次の式で表される。

エネルギー自給率(%) = 国内で産出した一次エネルギー ÷ 一次エネルギー国内供給 × 100

資源エネルギー庁によると、日本の自給率は1970年度に15.3%、2010年度に20.2%まで上がったものの、原発停止の影響で2023年度は再び15.3%に戻っており、OECD加盟38か国中2番目に低い水準である。化石燃料の輸入額は2024年に約24兆円に達し、貿易収支を大きく圧迫している。

第7次エネルギー基本計画の電源構成

第7次計画は、初めて2040年度のエネルギー需給見通しを示した点に特徴がある。データセンターや半導体工場の新増設、いわゆるDX・GXの進展によって電力需要は増えると見込まれ、発電電力量は2023年度の約9,854億kWhから1.1〜1.2兆kWh程度に拡大すると想定された。そのうえで、再生可能エネルギーと原子力を「最大限活用」する方針が明記され、従来の「原発依存度を可能な限り低減する」という表現は削られている。

電源 2023年度(速報値) 2040年度見通し
再生可能エネルギー 22.9% 4〜5割程度
 うち太陽光発電 9.8% 23〜29%程度
 うち風力発電 1.1% 4〜8%程度
原子力 8.5% 2割程度
火力発電 68.6% 3〜4割程度
エネルギー自給率 15.2% 3〜4割程度

温室効果ガスは2013年度比で73%削減を目標とする。ただし技術革新が想定どおり進まない場合のリスクシナリオ(61%削減)も参考値として併記された。複数シナリオを幅で示す手法は、不確実性への配慮である反面、発電事業者にとっては長期投資の目安が見えにくくなったとの指摘もある。

再エネ導入を支える制度

再エネ拡大の起点となったのは、2012年7月に始まった固定価格買取制度(FIT)である。電力会社が再エネ電気を一定期間・固定価格で買い取り、その費用を賦課金として電気料金に上乗せする仕組みで、太陽光を中心に導入量が急増した。しかし国民負担の増大が問題となり、2022年4月からは市場価格にプレミアムを上乗せするFIP制度が導入された。FIPでは発電事業者が需給を見ながら売電するため、蓄電池との併設や発電予測の精度が収益を左右する。

GX推進法とカーボンプライシング

カーボンニュートラル実現の柱として、2023年にGX推進法が成立した。同法のもとで、まず2023年度から企業の自主参加による排出量取引制度(GX-ETS)が始まり、2026年4月施行の改正法によって、CO2の年間直接排出量が10万トン以上の事業者は参加が義務化された。対象は300〜400社程度で、国内排出量の約6割をカバーすると見られている。2028年度からは化石燃料の輸入事業者などに課す化石燃料賦課金も予定されており、炭素に価格を付ける仕組みが段階的に整えられつつある。

製造業の現場から見たエネルギー政策

製造業にとって、政策の変化はコストと設備計画に直結する。省エネ法では年間のエネルギー使用量が原油換算1,500kL以上の事業者を「特定事業者」に指定し、エネルギー管理統括者の選任や中長期計画の提出、年平均1%以上の原単位改善を求めている。2023年の改正では非化石エネルギーへの転換目標も報告対象に加わった。

実務では、まずコージェネレーションや高効率ボイラー、インバーター制御のモーターといった設備更新から着手する工場が多い。LNG輸入価格は2010年度の1トン当たり約4.9万円から2023年度には約9.8万円へとほぼ倍増しており、熱源を電化するかガスを維持するかの判断は、燃料単価だけでなく契約電力の上昇分やデマンド料金まで含めて試算しないと誤りやすい。工場管理の国際規格であるISO 50001(エネルギーマネジメントシステム)を取得していると、取引先から求められるScope3排出量の開示対応がスムーズになる、という声も現場では聞かれる。GX-ETSの直接の対象外である中小の部品メーカーでも、大手の発注元からCO2排出データの提出を求められる場面は確実に増えている。

政策をめぐる論点

論点は多岐にわたるが、代表的なものを挙げると次のとおりである。

  • 原子力の再稼働とリプレースの進め方、放射性廃棄物の最終処分地の選定
  • 太陽光・風力の出力変動に対応する送電網の増強と蓄電池の普及
  • FIT賦課金やカーボンプライシングによる電気料金の上昇と産業競争力への影響
  • 2040年に向けた発電所の建て替えが進まない場合の供給力不足
  • 水素エネルギーやアンモニア混焼など、脱炭素技術の実用化のスピード

第7次計画の案には過去最多となる約4万件のパブリックコメントが寄せられた。原子力を最大限活用する方針を評価する産業界の意見がある一方、消費者団体や環境団体からは脱原発と再エネの一層の加速を求める声も強い。電力広域的運営推進機関(OCCTO)が2025年7月に公表した将来の需給シナリオでは、2040年・2050年の夏の夜間に供給力が不足する可能性も示されており、どの電源をどれだけ確保するかという議論は今後も続く見通しである。

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