降伏点|材料が塑性変形を始める応力の値

降伏点

降伏点とは、金属材料に引張荷重を加えたとき、荷重をほとんど増やさなくても変形が急に進み始める点の応力をいう。英語ではyield pointと呼ぶ。この点を超えると、荷重を取り除いても元の形に戻らない塑性変形が残る。構造物や機械部品の設計では、部材にかかる応力をこの値より十分低く抑えるのが基本の考え方であり、引張強さと並んで材料選定の基準となる数値である。測定方法は日本ではJIS Z 2241「金属材料引張試験方法」に定められている。

引張試験で現れる「段差」

軟鋼の試験片を引張試験機にかけ、応力-ひずみ曲線を記録してみる。はじめのうち、応力とひずみは比例し、グラフは直線になる。この傾きがヤング率で、鋼ではおよそ205GPaである。直線部分が終わると、曲線はある応力で小さく落ち込み、その後しばらく応力がほぼ一定のままひずみだけが増えていく。この平らな区間を降伏伸びと呼ぶ。降伏伸びの大きさは軟鋼で1〜3%程度になることが多い。応力は試験荷重Pを試験片の元の断面積A0で割って求め、σ = P / A0で表す。

上降伏点と下降伏点

落ち込む直前の最大応力を上降伏点、平らな区間での最小応力を下降伏点という。上降伏点は試験片の形状や引張速度に左右されやすい。これに対して下降伏点は比較的安定した値を示すため、材料規格で「降伏点」と書かれている場合、実務上は上降伏点を採用する規格と下降伏点を採用する規格があるので、ミルシートを読むときは注記を確認しておきたい。JIS Z 2241では上降伏強さReH、下降伏強さReLという記号を用いる。

なぜ軟鋼には明瞭な降伏点が出るのか

理由は鋼中に溶け込んだ炭素や窒素の原子にある。これらの小さな原子は結晶中の転位のまわりに集まり、転位を動きにくくする。1949年にA.H.コットレルとB.A.ビルビーが提唱したこのモデルは、コットレル雰囲気と呼ばれている。転位が雰囲気から抜け出すには大きな力が要るが、一度抜け出すと小さな力でも動き続ける。上降伏点から応力が急に落ちるのはこのためである。

降伏点がはっきりしない材料

アルミニウム合金、銅合金、ステンレス鋼、高強度鋼などでは、応力-ひずみ曲線がなめらかに曲がるだけで段差が現れない。こうした材料では、除荷後に0.2%の永久ひずみが残る応力を「0.2%耐力」と定め、降伏点の代わりに使う。曲線上で、弾性直線と平行で横軸の0.2%を通る線を引き、曲線との交点を読み取る方法をオフセット法という。厳密には弾性限度とも比例限度とも別の量である点に注意が要る。

代表的な鋼材の値

構造用鋼材の規格値を比べると、同じ引張強さの区分でも用途によって条件が違うことがわかる。

鋼種(規格) 降伏点または耐力(N/mm2) 引張強さ(N/mm2) 主な用途
SS400(JIS G 3101) 245以上 400〜510 一般構造物、機械フレーム
SM490A(JIS G 3106) 325以上 490〜610 溶接構造物、橋梁
SN490B(JIS G 3136) 325〜445 490〜610 建築の柱・梁
SUS304(JIS G 4304) 205以上(0.2%耐力) 520以上 耐食部品、配管

値はSS400とSM490Aが板厚16mm以下、SN490Bが板厚12mm以上40mm以下の場合で、板厚が増すと規格値は段階的に下がる。SN材だけ上限値まで決められているのは、次に述べる降伏比を管理するためである。

降伏比と建築構造

降伏比YRは、降伏点σyを引張強さσBで割った値で、YR = σy / σB × 100(%)と表す。降伏比が低い鋼は、降伏してから破断するまでの余裕が大きい。地震で柱や梁が大きく変形しても、すぐには壊れずにエネルギーを吸収できる。こうした考え方から、建築構造用のSN490B・SN490Cでは降伏比80%以下が規格で定められている。逆に高張力鋼は降伏比が85〜95%と高いものが多く、自動車部品の軽量化には向くが、耐震部材として使うときは設計上の扱いが変わる。建築基準法で使う基準強度F値も降伏点をもとにしており、SS400ではF = 235N/mm2、長期許容応力度はF/1.5である。

結晶粒の大きさと温度の影響

結晶粒を細かくすると降伏点は上がる。この関係はホール・ペッチの式で、σy = σ0 + k d−1/2と表される。dは平均結晶粒径、σ0とkは材料定数である。制御圧延や熱処理で粒径を数μmまで小さくした細粒鋼は、合金元素を増やさずに強度を高められるため、溶接性を損ないにくい。

温度が上がると値は下がる。一般の炭素鋼では600℃付近で常温の半分程度にまで落ちる。耐火鋼(FR鋼)はモリブデンなどを加え、600℃でも常温規格値の2/3以上を保つように作られている。耐火被覆を薄くできるので、駐車場ビルや倉庫の鉄骨で採用例が多い。材料単価は普通鋼より高くなるが、被覆工事の費用と工期を合わせて比べると、総額で有利になる案件も少なくない。

プレス現場で問題になるリューダース帯

降伏伸びのある鋼板をプレス成形すると、表面に「ストレッチャーストレイン」と呼ばれる筋状の模様が出ることがある。降伏が試験片全体で一度に起こらず、帯状の領域(リューダース帯)として順に広がるためである。外観部品では塗装後も模様が目立つので不良になる。対策として、製鉄所では焼なまし後に伸び率0.5〜2%程度の調質圧延(スキンパス)をかけ、降伏伸びを消してから出荷している。ただし低炭素鋼板は保管中に時効が進み、数か月で降伏伸びが戻ってしまう場合がある。外板用の材料は入荷後早めに使い切る、あるいは成形直前にレベラーを通すといった運用が現場では取られている。

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