軸力|ボルト締結で生じる引張方向の締付力

軸力

軸力とは、ボルトを締め付けたときにボルトの軸方向に生じる引張力のことである。締付け力、予張力、プリロードとも呼ばれ、被締結部材同士を押し付ける圧縮力と釣り合っている。締結部の信頼性はほぼこの値で決まる。そのため、自動車や建設機械、プラントの配管フランジなど、ねじを使うあらゆる製品で管理の対象になっている。単位はN(ニュートン)またはkNで表す。

ボルトはなぜ緩むのか

ボルトの緩みや脱落事故の原因を調べると、多くは締付け不足に行き着く。締め付けたボルトは引っ張られて伸びたばねのような状態にあり、元に戻ろうとする力が軸力として部材を挟み込んでいる。外から振動や繰返し荷重が加わっても、接合面の面圧が十分に残っていれば面は滑らず、ねじ山も逆回転しない。反対に軸力が足りないと、わずかな横すべりをきっかけにナットが回り始める。疲労破壊についても同じことがいえる。十分に締め付けた継手では、ボルトが受け持つ変動荷重は外力の一部にとどまり、一般的な鋼製継手の内力係数は0.1〜0.3程度である。締付けが弱い継手ほど早く壊れるという、直感に反する現象は、この荷重分担の仕組みで説明できる。

締付けトルクと軸力の関係

現場で軸力を直接測ることは少ない。通常はトルクレンチで与えたトルクから間接的に管理し、両者の関係は次の簡易式で表す。

T = K × d × F
T:締付けトルク[N·m] K:トルク係数 d:ねじの呼び径[m] F:軸力[N]

トルク係数Kは潤滑状態やめっきの種類によって変わる。無潤滑の鋼製ボルトではおよそ0.2、二硫化モリブデン系の潤滑剤を塗ると0.12前後まで下がる。同じトルクで締めても、潤滑剤の有無だけで軸力が1.6倍以上変わる計算になる。図面にトルク値を書くときは、潤滑条件も必ず書き添えたい。この考え方はJIS B 1083「ねじの締付け通則」にまとめられており、トルク係数の試験方法はISO 16047で定められている。

トルクの大部分は摩擦に消える

締付けトルクのうち、軸力を生むのに使われるのは約10%にすぎない。残りは座面の摩擦に約50%、ねじ面の摩擦に約40%が使われる。摩擦係数がわずかに変わるだけで軸力が大きくばらつくのは、このためである。

適正な軸力の目安

強く締めるほど良いわけではない。ボルトが降伏点を超えて塑性変形すると伸びが元に戻らず、再使用時に強度不足を招き、最悪の場合は締付け中に破断する。トルク法では、ボルトの耐力の70%前後に当たる応力を狙うのが一般的である。例として、強度区分10.9(JIS B 1051/ISO 898-1)のM10並目ボルトで計算する。耐力は940MPa、有効断面積は58.0mm²なので、70%を狙うと目標軸力は約38kNになる。トルク係数0.2を当てはめると、締付けトルクは約76N·mとなる。実際の設計ではばらつきを見込んで、最も低い軸力でも必要な締付け力を確保できるかを確認する。この確認手順はドイツのガイドラインVDI 2230に詳しく、国内の機械設計者にも広く参照されている。

締付け方法による軸力精度の違い

締付け方法によって、軸力のばらつきは大きく変わる。代表的な3つの方法を比べると、おおよそ次のとおりである。

方法 管理する量 軸力のばらつき(目安) 設備コスト 主な用途
トルク法 締付けトルク ±25%前後 低い 一般機械、組立ライン全般
回転角法 ナットの回転角 ±10〜15%程度 中程度 建築鉄骨の高力ボルト、シリンダヘッド
トルク勾配法 トルク-回転角曲線の傾き ±10%以内 高い(専用ナットランナ) 自動車エンジンなどの量産重要部位

量産ラインで全ての箇所を高精度な方法にすると、サーボ制御のナットランナは1軸で百万円を超えることも珍しくなく、設備費がかさむ。そのため実務では、シリンダヘッドやコンロッドのような重要保安部品だけを勾配法や塑性域回転角法で締め、カバー類はトルク法で済ませる使い分けが一般的である。塑性域まで締めたボルトは原則として再使用しない。このことは整備マニュアルにも明記しておく必要がある。

軸力の測定方法

開発段階や締付け条件の検証では、軸力を直接測る。主な方法は次のとおりである。

  • ボルトの軸部にひずみゲージを埋め込み、伸びから算出する方法
  • 座面にワッシャ型ロードセルを挟み、圧縮荷重として読み取る方法
  • 超音波がボルト内を往復する時間が、伸びと応力によって変わる性質を利用する超音波軸力計
  • 締付け状態を表示するインジケータを組み込んだ専用ボルト

ロードセルは手軽だが、座面の剛性が実機と変わるため、測定値が数%ずれやすい。超音波法は締付け前後のエコー時間の差を測るだけなので、実機に組み付けたまま計測できる。M36〜M72級のボルトを多数使う風力発電機のタワーフランジでは、定期点検での抜き取り確認に使われている。

締付け後に起こる軸力低下

締め付けた直後の軸力が、そのまま保たれるとは限らない。座面やねじ山の細かな凹凸がつぶれる「初期へたり」によって、数時間から数日のうちに5〜10%程度下がるのが普通である。塗装面やガスケットを挟む継手ではさらに大きく下がるため、配管フランジでは24時間後に増し締めする手順を定めている工場も多い。高温環境では応力緩和も起こるので、蒸気配管などではSNB7(JIS G 4107)のような高温用ボルト材を選ぶ。振動による逆回転の起こりやすさは、ISO 16130やDIN 65151に定められた横振動試験(ユンカー試験)で評価でき、緩み止めナットや座金の効果の比較に使われる。ナットの緩み止め対策を選ぶときも、まずは必要な軸力が確保できているかを確かめることから始める。

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