距離センサ
距離センサは対象物までの空間的な隔たりを非接触で測る計測デバイスである。方式は光学式(レーザ三角測距・飛行時間法〈ToF〉・位相差)、音波式、電磁波式など多岐にわたり、短距離のミリ級から屋外の数十メートル級までカバーする。産業オートメーション、ロボット、AGV/AMR、工作機械、スマートフォンのカメラ補助、建機や物流の接触防止など応用は広い。要求仕様は測定範囲、分解能、直線性、繰返し性、応答時間、視野角、反射率依存性、温度・照度耐性、IP等級、インタフェースなどで整理し、用途に合致する距離センサを選定する。
測定原理の概要
距離センサの原理は大別して、幾何学(三角測距)、時間(ToF)、位相(連続波の位相差)、相関(ステレオ視・構造化光)、波動伝搬(音波・電磁波)である。音波を用いる方式は超音波センサと呼ばれ、広い対象に安定する一方で温度や風の影響を受けやすい。遮光スリットと光源で通過・遮断を検出する方式はフォトインタラプタに近いが、連続量としての距離を得るには三角測距やToFが用いられる。反射率・入射角・背景光は測定誤差に直結するため、原理ごとの特性を理解して適用範囲を見極めることが要点である。
主要方式
- レーザ三角測距:投光点の受光位置シフトから距離を幾何的に算出する。短〜中距離で高分解能、鏡面や黒色で誤差が増えやすい。
- ToF(パルス):発光と反射戻りの時間差を測る。広範囲・高速応答が可能で、直射日光下ではSNR確保が鍵。
- 位相差(連続波):変調光の位相差から距離を推定する。高繰返し性だが多重反射でバイアスが乗りうる。
- ステレオ・構造化光:視差や投影パターンの歪みから距離を再構成する。テクスチャの乏しい対象で誤りやすい。
- 超音波:音速とエコー時間から距離を算定する。柔らかい素材や多孔質で減衰が大きい。
性能指標と用語
- 測定範囲・デッドゾーン:最短測定距離と最大測定距離、近接側の非測定域。
- 分解能・直線性・精度・繰返し性:最小変化量、理想直線からの偏差、真値への近さ、同一条件での再現度。
- 応答時間・更新レート:制御系の帯域に整合させる。高速化はノイズ増を招きやすい。
- 視野角・スポット径:距離とともに拡大し混入物の影響を受けやすい。
- 反射率依存・背景光耐性:黒色・傾斜面・太陽光でのSNR低下を評価する。
誤差要因と対策
- 反射率/入射角:ターゲットの材質・色・表面粗さで戻り光が変動する。拡散テープやターゲット板で基準化する。
- 多重反射・ハレーション:光学バッフル、時間窓(ゲーティング)、背景差分で抑制する。
- 温度・気流:音速や屈折率が変わるため温度補償を実装する。筐体の熱設計も重要。
- 機械振動・共振:取り付け剛性を確保し、必要に応じて振動センサで監視する。
- 姿勢変動・動揺:センサフュージョンで加速度センサやジャイロセンサと統合する。
信号処理とフィルタリング
距離センサの安定化には、移動平均・中央値・外れ値除去、IIR/FIR低域通過、微分での速度推定とその平滑化、カルマンフィルタや粒子フィルタによる時系列推定が有効である。ToFではヒストグラム化やピーク検出、時間ゲーティングでマルチパスや背景光を抑える。環境光センサで露光を自動調整し、受光ゲインのオートレンジングを組み合わせるとダイナミックレンジが拡大する。
設計・選定のポイント
- 対象と環境:材質・色・サイズ・表面性状、照度・粉塵・ミスト・温湿度、屋内外、IP等級を事前評価する。
- 必要性能:範囲・精度・応答・視野角・スキャン必要性(単点かライン/面)、自己診断の有無。
- インタフェース:I2C・SPI・UART・4-20mA・パルス出力。上位制御との電気的適合とEMC対策を行う。
- 光学・機構:ウィンドウ材のARコート、迷光対策、アライメント治具、熱膨張を見込んだ保持設計。
- 安全:レーザはクラス管理とインターロックを備える。人的接触のある設備では失効安全を考慮する。
実装とインタフェース
距離センサは位置決めや追従制御の一要素として、エンコーダやリミットスイッチと併用される。回転や直動の正確な位置はエンコーダで計測し、対象との相対距離は距離センサが補う構成が一般的である。ソフトウェアでは非線形換算、温度・反射率テーブル、フェイルセーフ動作(タイムアウト時の停止など)を実装する。フィールドではノイズ、グラウンドループ、ESD/サージに耐える配線・シールドが不可欠である。
用途例
- 産業ロボット・協働ロボット:ピック&プレースの高さ合わせ、衝突回避、ティーチングの簡素化。
- AGV/AMR:減速ゾーン・停止距離の管理、ドッキング精度向上。圧力・流体制御と組み合わせる場合は圧力センサも用いる。
- 加工・検査:ワーク有無、反り・うねり、厚み・段差測定。荷重監視にはロードセルを併用する。
- 建設・物流:フォークの差し込み高さ、接触防止、屋外での長距離検出。
- 民生機器:スマートフォンのToF補助AF、ロボット掃除機のマップ化、家電の近接操作。
校正・評価・保守
距離センサの校正は基準ターゲットとゲージブロック、既知距離の治具で複数点補正を行う。生産では端点校正と温度スイープでオフセットとスケールを補正し、受光飽和・SNR・視野角の実力を試験する。保守では光学窓や振動・緩みを点検し、粉塵や油膜を定期清掃する。ログの自己診断(信号強度・エラー率)を監視し、異常増加時はフィルタ詰まりやアライメントずれを疑い、早期是正につなげる。
現場チェックリスト(補足)
- 取り付け剛性と基準面の直角度を確認する(ジグで角度再現)。
- 近距離側のデッドゾーンと遠距離端の余裕を確保する。
- 環境光・粉塵の擬似反射対策として遮光とエアパージを用意する。
- 制御側の異常時動作(通信断・飽和)のフェイルセーフを実機で検証する。