角ねじ|大きなトルクと高剛性を支えるねじ

角ねじ square thread

角ねじは、ねじ山の断面が長方形(正方形)のねじのことである。英語ではSquare Threadと呼ばれ、工業製品や機械要素の一部として、主に大きなトルク伝達や直線運動の正確な制御が求められる場面で利用される。を軸方向に押すを発生する装置として使われる。一般にセラース標準角ねじが使われる。一般的な三角ねじ(メートルねじやウィットねじなど)と比べ、ねじ山同士の接触面積が広く、摩擦損失を低減できるため、高効率に動力伝達や位置決めが行える点が大きな特徴である。また、三角ねじに比べてねじ山の角度が鋭くないため、横方向の力を安定して受け止める構造になっている。しかしながら、四角形断面のねじ山を高精度かつ安定的に成形するには切削や研削技術が難しく、工数やコストが増大しやすい点が難点でもある。そのため、現代では角ねじに類似しながらも製造性を考慮して改良が加えられた台形ねじやAcmeねじが多用される。一方で、高精度かつ大きなトルク伝達が不可欠な分野においては依然として有力な選択肢となっている。ねじプレス、万力、ジャッキなど、大きな力が働く機械に用いられる。

構造と特徴

角ねじの最大の特徴は、そのねじ山形状がほぼ直角に近いことである。ねじ山の頂角部分が水平・垂直方向に近い形をなしており、荷重を受け止める際の面圧が低く抑えられる。結果として、摩耗や熱の発生が比較的小さく、大きな軸方向力を確実に伝達できる。加えて、ねじ山同士の接触面が平坦かつ広いため、ねじ自体の弾性変形を抑えられ、ねじのバックラッシ(がたつき)を低減するのに適した構造である。こうした高い効率や高剛性が得られる一方、山と谷の形状が直線的であるがゆえに製造時の切削抵抗や工具磨耗が大きく、三角ねじほど量産しやすい形状ではない。

角ねじのねじ山

角ねじのねじ山は長方形(正方形)になっており、ねじ面が軸線に対して直角であるため、の働く方向が軸線と平行になる形状をしている。

角ねじの山形の断面

製造と加工

角ねじを製造する際には、旋盤やフライス盤を用いたねじ切り加工が一般的だが、ねじ山が大きく切削抵抗も大きいため、安定した工作機械と刃具が必要となる。特に高精度でねじ山の平面度合いを維持しながら加工する場合、剛性の高いチャックや固定治具を用いて振動を極力排除することが重要である。また、仕上げ工程では研磨やバリ取りに時間がかかるため、最終コストが他のねじより高くなるという現実的な制約がある。ただし、うまく加工できれば優れた疲労特性と長寿命を実現できるため、大きな力学負荷が連続的にかかる用途では依然として検討の価値が高い。

用途と利用場面

大きな荷重やトルクを扱う産業機械や装置において、角ねじは往復運動や昇降機構のコア要素として活躍する。例えばジャッキやリフター、プレス機械のアクチュエータ部など、押し引きの力に安定性と効率が求められる用途でよく用いられる。また、ねじのねじれ剛性が高く設定できるため、高精度を要するリードスクリューとして採用されるケースもある。ただし近年では、加工性やコスト面で有利な台形ねじやAcmeねじへ移行する企業も多く、角ねじを使用する事例は特定の要求特性を満たす場合に限られる傾向がある。

類似形状との比較

台形ねじやAcmeねじは、ねじ山角度をやや傾斜させることで製造性を高めつつ、ねじ山強度と効率を維持するように設計されている。これらのねじ形式は、その名のとおり台形状や台形に近い勾配のあるねじ山を採用し、切削や転造による量産がしやすい利点を持つ。一方で、角ねじのようにねじ山の角がほぼ直角であるほど面圧を分散しやすく、効率性とトルク伝達能力において優位性がある。また、角ねじの方がバックラッシが抑えやすい点も、高精度かつ高荷重対応の設計においては依然として魅力的な要素である。

応力分布の優位性

ねじ山の両側面がほぼ垂直となる角ねじでは、軸方向の力が正面衝突する形で受け止められるため、部材同士の接触面における応力分布が安定する。これによって極端な応力集中を回避し、ねじ山の破断や塑性変形を抑制しやすい。一方、刃具が正面から材質を削るため、加工時の摩耗や発熱が大きいという課題もつきまとう。こうした利点と課題の両面を理解した上で、必要とされる性能や生産性に応じて採用の可否を判断するのが一般的である。

セーラス標準角ねじ(単位mm) 10 – 56

セーラス標準角ねじ

呼び径 d1 N
10 10 7.2 9
12 12 8.8 8
14 14 10.8 8
16 16 12.4 7
18 18 14.4 7
20 20 15.8 6
22 22 17.8 6
24 24 19.8 6
26 26 20.9 5
28 28 22.9 5
30 30 24.9 5
32 32 26.4 4.5
36 36 30.4 4.5
40 40 33.6 4
44 44 37.6 4
48 48 41.6 4
52 52 45.6 4
56 56 48.7 3.5
呼び径 d1 N

セーラス標準角ねじ(単位mm) 60 – 190

セーラス標準角ねじ

呼び径 d1 N
60 60 52.7 3.5
65 65 57.7 3.5
70 70 62.7 3.5
75 75 66.5 3
80 80 71.5 3
85 85 76.5 3
90 90 81.5 3
95 95 85 2.5
100 100 90 2.5
110 110 100 2.5
120 120 110 2.5
130 130 120 2.5
140 140 128 2
150 150 138 2
160 160 148 2
170 170 158 2
180 180 165 1 2 3
190 190 175 12 3
呼び径 d1 N

Note

表中Nは25.4㎜についてのねじの山数。

メンテナンスと寿命

角ねじは高負荷や長期使用に耐えうる反面、摩擦や潤滑に関しては注意を要する。大きな接触面積があるため潤滑不足が続くと表面損傷や焼き付きが起こりやすく、ねじ山が削れてしまう恐れがある。定期的にグリースやオイルを塗布し、異常摩耗がないか点検することで、ねじ自体の精度と寿命を確保することができる。また、異物混入や錆の発生も精密部品としての機能を損なう原因となるため、稼働環境に合わせた保護カバーやシール構造の導入が望ましい。

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