細菌
細菌は、核膜で囲まれた核をもたない原核生物のうち、古細菌(アーキア)を除いた生物群の総称である。英語ではbacteria(単数形bacterium)と呼ばれ、多くは直径0.5〜5μm程度の単細胞として存在する。土壌1gには108〜109個もの細菌が含まれるとされ、地球上のほぼあらゆる環境に分布している。病原体としての側面がよく知られているものの、発酵食品やアミノ酸、医薬品の製造、排水処理など、産業を支える存在でもある。
発見と研究の歩み
最初に細菌を観察したのは、オランダのアントニ・ファン・レーウェンフックである。1676年、自作の単式顕微鏡で歯垢や雨水を観察し、動く微小な生物を「微小動物」として報告した。その後200年近く、微生物が病気や腐敗の原因になるという考えは広まらなかった。転機となったのは19世紀後半である。ルイ・パスツールは1861年に白鳥の首フラスコの実験で自然発生説を否定し、ロベルト・コッホは1882年に結核菌を発見して病原体と疾患を結びつける「コッホの原則」を示した。1928年にはアレクサンダー・フレミングがアオカビからペニシリンを見いだし、抗生物質の時代が幕を開ける。
細胞の構造
真核生物と比べると、細胞の中身はきわめて単純である。遺伝情報を担うDNAは環状で、細胞質の中に核様体として凝集している。タンパク質合成を担うリボソームは70S型で、真核生物の80S型とは大きさも構成も異なる。この違いを利用して、ヒトの細胞には作用せず菌だけを狙い撃ちにする抗菌薬が設計されてきた。染色体とは別にプラスミドと呼ばれる小さな環状DNAをもつ菌も多く、薬剤耐性遺伝子がこのプラスミドを介して菌どうしで受け渡される現象は医療上の大きな問題となっている。外側はペプチドグリカンを主成分とする細胞壁で覆われ、種によっては運動用の鞭毛や付着用の線毛を備える。
グラム陽性菌とグラム陰性菌
1884年にデンマークのハンス・クリスチャン・グラムが考案した染色法は、現在でも細菌を見分ける最初の手がかりとして使われている。染色結果の違いは細胞壁の構造に由来する。
| 項目 | グラム陽性菌 | グラム陰性菌 |
|---|---|---|
| 染色後の色 | 紫色 | 赤色 |
| ペプチドグリカン層 | 厚い(20〜80nm) | 薄い(数nm程度) |
| 外膜 | なし | あり(リポ多糖を含む) |
| 代表例 | 黄色ブドウ球菌、枯草菌、乳酸菌 | 大腸菌、サルモネラ、緑膿菌 |
増え方と増殖曲線
増殖は、1個の細胞が2個に分かれる二分裂によって進む。条件がそろえば増え方は非常に速い。大腸菌は37℃の好適な培地で約20分ごとに分裂するため、n回分裂した後の菌数Nは、初期菌数をN0として N = N0 × 2n で表される。計算上、1個の菌が10時間後には約109個に達する。もっとも、栄養や空間には限りがあるので、閉じた容器で培養すると菌数の推移は次の4段階をたどる。
- 誘導期:新しい環境に適応する準備期間で、菌数はほとんど増えない
- 対数増殖期:一定の世代時間で指数関数的に増える
- 定常期:栄養の枯渇や代謝産物の蓄積により、増加と死滅がつり合う
- 死滅期:生菌数が減少していく
製造現場で有用物質を取り出す場合、目的物によって収穫のタイミングが変わる。菌体そのものや増殖に連動する産物なら対数増殖期の後半、抗生物質のような二次代謝産物なら定常期に入ってから回収するのが基本となる。
温度と酸素への適応
生育温度で分けると、15℃以下を好む低温菌、25〜40℃を好む中温菌、45℃以上で生育する高温菌がある。米国イエローストーン国立公園の温泉から1969年に分離されたThermus aquaticusは70℃前後で生育し、その耐熱性DNAポリメラーゼはPCR法の実用化に欠かせない酵素となった。酸素との関係もさまざまである。酸素がないと生きられない偏性好気性菌、酸素があると死んでしまう偏性嫌気性菌、どちらの環境でも生育できる通性嫌気性菌に大別される。ボツリヌス菌は偏性嫌気性で、真空包装やレトルト食品の殺菌条件はこの菌の芽胞を基準に設計されている。
産業での利用
人類は微生物の存在を知る前から、発酵という形でその力を借りてきた。ヨーグルトやチーズには乳酸菌、納豆には枯草菌の一種である納豆菌が使われる。工業的な転機となったのは1956年で、日本の協和発酵工業がコリネバクテリウム・グルタミカムによるグルタミン酸の直接発酵法を確立した。この技術は世界のアミノ酸産業の礎になっている。1982年には遺伝子組換え大腸菌でつくるヒトインスリンが米国で承認され、バイオ医薬品の量産が始まった。環境分野でも、下水や工場排水の有機物を微生物群に分解させる活性汚泥法が、100年以上にわたって主流の処理方式であり続けている。
培養設備と雑菌汚染対策
研究段階の数Lのジャーファーメンターから、生産用の100m³を超える大型発酵槽へ移す際は、撹拌動力や酸素移動容量係数(kLa)を合わせ込むスケールアップ検討に時間がかかる。現場で最も恐れられるのは雑菌の混入、いわゆるコンタミである。1バッチの汚染で培地費と稼働日数の両方が失われるため、配管は流体が滞留するデッドレグを減らし、ASME BPE規格の目安であるL/D比2以下に収める設計が多い。接液部にはSUS316Lの電解研磨仕上げを用い、内面粗さをRa0.4μm以下に抑えることで菌の付着を防いでいる。
設備トラブルと品質管理
役に立つ菌がいる一方で、設備を傷める菌もいる。硫酸塩還元菌は嫌気環境で硫化水素を生成し、炭素鋼配管やタンク底部に孔食を引き起こす。こうした微生物腐食(MIC)は、通常の腐食対策だけでは防ぎきれない。冷却塔や熱交換器では、菌が分泌する多糖類の膜であるバイオフィルムが伝熱効率を下げ、レジオネラ属菌の温床にもなる。食品工場ではHACCPに基づき加熱工程などを重要管理点として監視し、医薬品や半導体の工場ではISO 14644-1で清浄度を等級分けしたクリーンルームで浮遊菌数を管理する。
主な滅菌法の比較
医療機器や医薬品では、無菌性保証水準(SAL)10-6、つまり100万個に1個以下の生残確率を達成することが滅菌の基準とされる。対象物の耐熱性や材質によって方法を選び分ける。
| 方法 | 代表的な条件 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 高圧蒸気滅菌 | 121℃、15〜20分 | 培地、金属器具、発酵槽 |
| 乾熱滅菌 | 160℃で2時間、または180℃で30分 | ガラス器具、粉体 |
| 放射線滅菌 | γ線25kGy | 樹脂製の使い捨て医療機器 |
| ろ過滅菌 | 孔径0.22μmのメンブレンフィルター | 熱に弱い薬液、ガス |
芽胞を形成する枯草菌やボツリヌス菌は100℃の煮沸では死滅しにくく、高圧蒸気滅菌の条件がその基準になっている。実務では、樹脂部品の多いシングルユース設備にはγ線、ステンレス製の固定設備には定置蒸気滅菌(SIP)を組み合わせることが多い。どちらを選ぶかは、初期投資とバリデーションにかかる工数のバランスで判断されるのが一般的である。
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