炭素鋼
炭素鋼は一般には鋼(はがね)と呼ばれ、鉄に0.02~2.06%の炭素を含ませたFe-C元合金である。鉄を主成分に製造工程で炭素(C)、ケイ素(Si)やマンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)に加えて、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ボロン(B)の元素を添付している。一般的にはSS400やS45Cなどで知られる。炭素鋼は安価で製造でき、熱処理(加熱・冷却など)やニッケル、クロム、モリブデンを添加することによって、機械的な性質を改良することができる。ボルトやナットなどの機械部品、自動車、船舶、飛行機などの機械、ビルやタンカーといった構造物に幅広く使われている。
機械構造用炭素鋼
機械構造用炭素鋼の材料記号は、S45CやS25Cなど、原則S(Steel)から始まり、S□□C(機械構造用炭素鋼鋼材)(□は数字)の形式で表される。数字の意味は炭素の量(含有量)の代表値CはCarbonを表す。たとえば、S45Cの数字の45は炭素の量を表し、およそ0.45%の炭素を含有することを示している。熱処理をすることが基本で、熱処理(焼きなましや焼入れ、焼き戻しなど)により所望の特性を得ている。一般に炭素量が多いと硬いがもろくなる傾向にあり、おおむね0.3%C以上は溶接に不向きである。機械部品や自動車の高精度部品などの材料に使用される。
一般構造用圧延鋼材
SS□□(一般構造用圧延鋼材 JIS G 3101)は、圧延した鋼で入手性が良く安価でバランスがよい。頭文字のSSはSteel Structural(構造用鋼)を表し、数字はメーカーが保証する最低引張強さ(おおよそ400~510N/mm2)を表している。例えば、SS400であれば引張強さ400MPaを保証するものである。なお、SS400は低炭素鋼で炭素量が0.3パーセント以下である。炭素量が少なくリムド鋼で不純物が大きいことから、熱処理しないで使用され、溶接性に優れている。用途としては建築や橋、船舶車両など大型の構造物に使われている。機械部品としてはフランジ、ピン、ボルト、ナット、軸、歯車などに用いられている。
冷間圧造用炭素鋼線
冷間圧造用炭素鋼線(SWCH6R)は、リムド鋼の線材(炭素量が0.08%以下、マンガン量が0.6%以下の材料)を冷間引き抜きによって線に加工した材料である。引張強さが340N/mm2以上、絞りが45%以上という機械的性質をもっている。
冷間圧造用ボロン鋼線
冷間圧造用ボロン鋼線(SWCHB223)は、キルド鋼の線材(炭素量が0.20~0.26%、マンガン量が0.60~0.90%、ボロン量が0.0008%以上の材料)を冷間加工した材料である。引張強さが750N/mm2以下、絞りが45%以上の機械的性質をもっている。
炭素量
一般に炭素量が多くなると硬くなるが、もろくなるデメリットがある。実用的な引張強さや硬さ、粘り強さを兼ね備えている炭素鋼は、炭素を0.6%以下含んだものであるとされている。そのため一般に普通鋼と呼ばれる。0.6~2.14%Cの炭素鋼は延性が小さく加工が難しい。
炭素含有量(質量パーセント濃度)
- 低炭素鋼:0.25%以下(SS400,SM400,SM490)
- 中炭素鋼:0.25 – 0.6%(S35C,S45C)
- 高炭素鋼:0.6%以上(S55C)
軟鋼と硬鋼
なお、炭素鋼は炭素量に応じて軟鋼と硬鋼に分けられ、さらに細分される。
- 極軟鋼(炭素量0.12%以下)
- 軟鋼 (炭素量0.12~0.20%)
- 半軟鋼(炭素量0.20~0.30%)
- 半硬鋼(炭素量0.30~0.40%)
- 硬鋼 (炭素量0.40~0.50%)
- 至硬鋼(炭素量0.50~0.80%)
- 最硬鋼(炭素量0.80以上%)
製造方法
鉄鋼材料の原料は、鉄鉱石、石炭、石灰石である。製造方法は原料を焼き固めて焼結鉱を作る原料工程、高炉で不純物を取り除く製銑工程、炭素を取り除き鋼を取り除く製鋼工程を経て、スラブ(厚板)やブルーム(太い棒)などの形にする成形の工程に入る。
熱処理
200-300°C付近で炭素鋼の引張強さや硬さが増加する一方、伸び、絞りが減少してもろくなる。青い酸化皮膜が表面に形成されることから青熱と呼ばれる。また一般に300℃超えると、著しく強度が低下する。熱により変質する性質を利用して特定の性質を持たせることを熱処理という。
硬度と引張試験
熱処理は、焼き入れ焼き戻し等に加え、調質、高周波、浸炭、窒化SUSなどがあるが、硬度が高くなればなるほど、引張強さも高くなる。通常の切削加工ではHRC45までがバイトで加工可能で、それ以上の硬度となると研削やワイヤカットなど特殊な加工となる。
溶接
炭素鋼は溶接が可能な素材であるが、炭素量が0.3%以上では溶接には不向きな素材となる。したがって炭素量0.025%以下のSS材が溶接する機会が多い。
Fe-C系平衡状態図
炭素鋼は、炭素量によって性質や組織が変化するが、Fe-C系平衡状態図で表される。縦軸は温度[℃]、横軸は炭素[%]の割合を示している。温度と炭素量によって、フェライト、オーステナイト、セメンタイト、パーライトなどにわかれる。
フェライト
フェライト(αーFe)とは、純鉄や極低炭素鋼とよばれ、炭素(C)が少ない鋼である。Fe-C系平衡状態図の左側に位置し、α固溶体の組織を持つ。純鉄では911°C以下の温度領域で変態する体心立方格子でできた組織であり、炭素量が、多くても0.02%以下と少なく、鉄鋼の中で最も軟らかく、延性も大きい。また、フェライトは通常、強磁性体(磁性を有する素材)であり、腐食しやすいという欠点がある。
オーステナイト
オーステナイトは、フェライトが911°Cを超えると、y固溶体の組織になったときの炭素鋼である。
セメンタイト
セメンタイト(Fe3C)は、常温においてフェライトよりも炭素量が多い素材で、初析はFeとCの化合物Fe3Cとなる。非常に硬くてもろい組織をもつが、腐食しにくい特徴がある。
共析変態
0.77%Cのγ固溶体を冷却していくと、727°Cでフェライトとセメンタイトを同時に析出するが、これを共析変態(A1変態)という。
- 共析鋼:0.77%Cでの炭素鋼
- 亜共析鋼:0.77%C未満
- 過共析鋼:0.77%Cより多い
パーライトとなるのは、共析鋼だけであり、亜共析鋼は初析フェライトとパーライト、過共析鋼は初析セメンタイトとパーライトからなる。ここで初析とは、変態において最初に現れる、結晶粒界にあまりCを固溶しないフェライトやセメンタイトということを意味する。
パーライト
パーライトとは、共析変態で析出したフェライトとセメンタイトの細かな層状に重なった状態である。金属顕微鏡で観察するとパール(真珠)色に見えるため、パーライトとよばれる。
亜共析鋼の変態と組成
オーステナイトから徐冷していくと、まず温度t1で、線と交わってフェライトが析出し始める。さらに、温度が下がるにつれて、フェライトの量が増加して、残りのオーステナイトの炭素量が増加する。そして温度t2、すなわちA1変態の温度に達すると、初析フェライトと共析組織のオーステナイトとなり、この温度でオーステナイトはパーライトに変わる。よって、これ以下の温度では、初析フェライトとパーライトの組織になる。
過共析鋼の変態と組成
オーステナイトから徐冷していくと、まず温度でAcm線と交わるとセメンタイトが析出し始める。温度が下がるにつれて、セメンタイトの量が増加して、残りのオーステナイトの炭素量が減少し、A1変態の温度に達すると、初析セメンタイトと共析組織のオーステナイトとなり、この温度でオーステナイトはパーライトに変わる。よって、これ以下の温度では、初析セメンタイトとパーライトの組織になる。