純鉄
純鉄とは、炭素(C)など不純物をほとんど含まない鉄元素のことである。一般的に市販される鉄鋼材料は炭素やその他の合金元素が添加されているのに対し、純鉄は極力不純物を除去した高純度の鉄を指す。化学式はFeであり、周期表上では第8族に分類される遷移金属にあたる。古くから人類にとって重要な金属であり、鋼材をはじめとする多彩な合金材料のベースにもなる。工業用の意味では、フェライト(αーFe)常温でα鉄からなる、高純度99%の鉄と定義されるが、工業用途で流通する鉄は炭素や他の元素を含むため、実際のところ純鉄を厳密な定義は困難である。強度や耐食性などは合金に比べて劣る場合もあるが、高い磁性や加工性など興味深い特性を有している。
純鉄の特徴
純鉄の最大の特徴は、その優れた磁性特性にある。雑多な元素が含まれていないため、磁気的歪みが少なく安定した磁区を形成しやすい。また、延性が高く塑性変形に対しても比較的抵抗が少ないことが挙げられる。ただし、純度が高いぶん酸化されやすく、空気中や湿度の高い環境では錆び(酸化鉄)が発生するリスクが高い。そのため、保管や扱いには適切な防錆処置が求められる。また、合金に比べると強度は低い傾向にあり、機械的な荷重に耐える部品というよりは電磁部品や学術研究、特殊用途などで重視されている。
次は純鉄50個…
これ以外に面倒くさい。マシニング工程まで受けなかったけど、そうとう歩留まり悪いみたい。
沢山NGが出てるのでリピート品。
マシニング受けなくて良かった😅
図面みてヤバさ100%だったしね。 pic.twitter.com/5VKpBCiI7q— 加工屋のガンがるおっさん@メガワークス【公式】のカルロスはお切削大明神 (@megaworksco) September 4, 2022
利用
純鉄の性質は、引張強さは弱く、極めて軟らかく、のびが大きく展延性に優れている。そのため、一部で絞り加工した製品(ドリンクの缶など)や、箔にして珍しい切手に使用した例はあるが、日常ではほとんど使われていない。工業用では磁性材料として、電磁石の芯材やトランスコア、センサー部品など、高い透磁率と低損失が要求される用途に適している。高付加価値でニッチな利用方法である。
製造と精製
鉄鉱石から鉄を取り出す際には、高炉や電炉などを用いて酸素や不純物を除去しながら溶融・還元する工程を経る。しかし、工業的に生産される鉄鋼には炭素や各種元素が含まれるため、さらに精製工程を重ねないと純鉄にはならない。高純度化のためには、溶融塩電解や化学蒸着といった技術が利用されることが多い。これらの工程では微量元素を取り除いて極限まで純度を高めることができるが、大掛かりな設備とコストが必要である。近年では、高真空中での再溶融や電子ビーム溶解など先端技術も用いられ、ppm(part per million)あるいはppb(part per billion)のオーダーで不純物を抑えた純鉄が製造可能になっている。
純鉄、加工やさんが嫌がるから自分でやってん。確かにむっちゃねばいけど普通に加工できるやん❗ pic.twitter.com/3L1lI6UTcR
— 竹中啓悟 @ 若者が集まる小さな鉄工所!2代目 (@takenaka_ke) September 8, 2020
具体的な製造方法
- **電解鉄**:原料として良質の鉱石、鉄屑、ルッペ、海綿鉄を用い、電解による方法で製造する
- **カーボニル鉄**:熱分解法という方法で製造する
- **アームコ鉄**:塩基性平炉で溶解した屑鉄から製造する
- **錬鉄**:鍛造で鍛えて炭素(C)や不純物を絞り出して製造する
- **真空溶解**
- 粉末冶金**
物理的性質
純鉄は融点がおよそ1538℃、沸点がおよそ2861℃であり、密度は約7.87g/cm³である。結晶構造は室温付近では体心立方(bcc)構造をとり、高温下では面心立方(fcc)構造に変化する。この変態温度は約912℃から1394℃の間で起こり、鉄鋼における熱処理や強度設計において重要な役割を果たす。また、鉄は硬度が比較的低く、靭性は高いとされるが、純度が高いほど脆性を示す場合もあるため、扱いには注意が必要である。
結晶構造
純鉄は、条件に応じて複数の異なる結晶構造を特徴としている。純鉄を融液の状態から温度を下げていくと、1535°Cで凝固し、このときの結晶構造は体心立方格子である。さらに温度を下げていくと、1394°Cで結晶構造が面心立方格子に変化する。これをA4変態といい、純鉄はδ鉄からγ鉄になる。さらに鉄はα鉄になる。このように固相の中で状態が変化することを同素変態という。金属は加熱すると膨張するが、結晶構造が変化するA4点とA3点では、より大きな変化が生じる。すなわち、鉄になるときには大きく収縮し、その後も少しずつ収縮を続けるが、γ鉄がα鉄になるときには再び膨張する。

純鉄の同素変態
化学的性質
鉄の化学的性質は、酸化されやすい性質が最もよく知られている。空気中で容易に酸化鉄(Fe3+)を生成し、いわゆる錆として認識される。一方、還元環境下ではFe2+や金属鉄として安定する。特に純鉄は他元素による保護効果がないため、腐食に対して脆弱といえる。ただし、pHや酸化還元電位などの環境因子を適切に制御すれば、長期間腐食を抑制できる。合金元素を添加しない分、錆の発生は純粋な酸化反応のメカニズムで進むため、研究材料としても利用価値が高い。
磁気変態
純鉄(Fe)は磁石に引き寄せられることが知られているが、磁化(磁性をもつこと)の強さは温度の影響下にある。常温では強磁性体であるが、加熱していくと約770°Cで常磁性体(外部からの磁場がないと磁性を持たない)性質に変化する。

磁気変態
高純度化の意義
高純度化された純鉄は、結晶粒界に不純物がほとんど存在しないため、特性が理想的な形で発現しやすい。特に磁気特性の向上や、学術研究における標準物質としての利用価値が上がる。また、不純物によって引き起こされる局所的な腐食や相変態挙動が抑制されることから、腐食の研究や材料科学の基礎研究において欠かせない存在となっている。半導体業界においても、製造装置の部品に用いることで微量金属汚染を抑える取り組みが行われている。