化学気相成長
化学気相成長は、気体の原料を反応容器に送り込み、熱やプラズマのエネルギーで化学反応を起こして、基板の表面に固体の薄膜を堆積させる技術である。英語名Chemical Vapor Depositionの頭文字をとってCVDと呼ばれ、化学蒸着と訳されることもある。成膜温度は方式によっておよそ200℃から1100℃まで幅があり、膜厚は数nmから数十μmの範囲で調整できる。半導体の絶縁膜や配線、切削工具の硬質被膜、太陽電池など、利用される分野は広い。
開発の歴史
起源は19世紀末にさかのぼる。1890年代には、白熱電球のフィラメントを丈夫にする目的で、炭素やタングステンを気相から析出させる試みがすでに行われていた。工業技術として大きく伸びたのは1960年代である。トランジスタの量産が始まると、シリコンウェーハ上に結晶をそろえて積み上げるエピタキシャル成長に化学気相成長が使われるようになった。1970年代にはプラズマを利用する方式が実用化され、アルミニウム配線が耐えられない高温を避けながら絶縁膜を形成できるようになる。1980年代以降は有機金属を原料とする方式が広まり、2014年のノーベル物理学賞の対象となった青色発光ダイオードの研究でも、窒化ガリウム結晶を育てる中核技術として使われた。
膜ができるしくみ
原料ガスは、水素や窒素などのキャリアガスと一緒にチャンバーへ導入される。基板の近くまで拡散してきた分子は表面に吸着し、熱分解や還元といった反応を経て固体になる。不要になった副生成物のガスは表面から離れ、排気系へ運ばれていく。代表的な例として、モノシランからシリコン膜を得る反応と、窒化ケイ素膜を得る反応を示す。
SiH4 → Si + 2H2
3SiH4 + 4NH3 → Si3N4 + 12H2
成膜速度を決める要因は温度で変わる。低温側では表面での反応の速さが速度を左右する「表面反応律速」となり、速度はアレニウスの式 k = A exp(−Ea / RT) に従って温度とともに急に上がる。高温側では、ガスが基板まで届く速さが追いつかなくなる「供給律速」に切り替わる。膜厚の均一性を重視する量産ラインでは、温度のわずかなばらつきの影響が小さい条件をあえて選ぶことが多い。
方式による分類
反応にエネルギーを与える方法と、チャンバー内の圧力の違いによって、いくつかの方式に分けられる。代表的なものを次の表にまとめる。数値はあくまで目安で、装置や膜の種類によって変わる。
| 方式 | 圧力の目安 | 温度の目安 | 主な成膜対象 |
|---|---|---|---|
| 常圧CVD(APCVD) | 約101kPa | 300〜500℃ | 酸化ケイ素膜 |
| 減圧CVD(LPCVD) | 10〜100Pa | 550〜850℃ | 多結晶シリコン、窒化ケイ素 |
| プラズマCVD(PECVD) | 10〜数百Pa | 200〜400℃ | 保護膜、アモルファスシリコン |
| 有機金属CVD(MOCVD) | 数kPa〜常圧 | 500〜1100℃ | GaN、GaAsなどの化合物半導体 |
原子層堆積との関係
原子層堆積(ALD)は、化学気相成長から派生した手法である。2種類の原料を同時に流すのではなく、交互に供給して表面反応を1層ずつ完結させる。1サイクルで積もる厚さは約0.1nmと非常に薄く、成膜に時間はかかるものの、膜厚を原子レベルで管理できる。2007年ごろから、先端ロジック半導体のゲート絶縁膜に使う酸化ハフニウムの形成で採用が進んだ。
物理気相成長と比べたときの特徴
スパッタリングや真空蒸着に代表される物理気相成長(PVD)は、固体の材料から原子を物理的に飛ばして基板に付ける。これに対し、CVDは気体の化学反応で膜をつくるため、凹凸のある表面でも回り込むように膜が付く。深い溝の底や側面まで均一な厚さで覆える性質は「段差被覆性」と呼ばれ、配線の微細化が進んだ半導体ではとくに価値が高い。その反面、毒性や可燃性のある原料ガスを扱う必要があり、高温方式では基板の材質が限られる。どちらを選ぶかは、膜の種類だけでなく基板の耐熱性や設備の安全対策も含めて判断される。
切削工具コーティングでの使い分け
機械加工の分野でも化学気相成長は欠かせない。超硬合金製のスローアウェイチップには、約1000℃の熱CVDで炭化チタン、窒化チタン、酸化アルミニウムを多層に重ねた被膜が施される。膜厚は10〜20μm程度と厚く、耐熱性と耐摩耗性に優れるため、鋼や鋳鉄の荒加工・重切削に向く。ただし高温処理によって刃先がわずかに丸みを帯びやすい。そのため現場では、旋削の荒加工にはCVD被覆品、エンドミルや仕上げ加工のように鋭い刃先が必要な切削工具には500℃前後で処理できるPVD被覆品、という使い分けが定着している。工具カタログの材種記号でも両者は区別されており、選定時に被膜の種類を確かめることは加工トラブルを減らす基本となる。近年はメタンと水素から多結晶ダイヤモンド膜を析出させる方式も、アルミニウム合金やCFRPの加工用として普及している。
量産現場で直面する課題
半導体向けの量産装置は1台あたり数億円規模になることが珍しくなく、稼働率がそのまま製造コストに響く。チャンバーの内壁にも膜は付着するため、堆積物がはがれて生じるパーティクルが歩留まりを下げる原因となる。多くの工場では、一定の処理枚数ごとにフッ素系ガスによるクリーニングを行い、内壁の堆積物を除去している。ガスの使用量、クリーニング周期、メンテナンス時間をどう配分するかが、装置メーカーとユーザー企業のあいだでたびたび議論になる点である。
原料ガスの安全管理
CVDで使うガスには危険性の高いものが多く、日本では高圧ガス保安法などの規制を受ける。工場で一般的にとられる対策は次のとおりである。
- 空気に触れると自然発火するモノシランは、排気機能付きのシリンダーキャビネットに収納する
- アンモニアやホスフィンなどの有毒ガスには、許容濃度に応じたガス検知警報器を設置する
- 排ガスは燃焼式や吸着式の除害装置を通し、無害化してから大気へ放出する
- 配管の継手部は定期的にリークチェックを行い、交換作業時は窒素パージを徹底する
コメント(β版)