モラトリアム(精神分析学) moratorium
E.H.エリクソンの提案した精神分析学の用語。青年期にはそれまで親の保護の下の一定のルールの中から抜け出し、未来の可能性の中から自分の進路を選択していかなければならない。職業や結婚など人生のかなり永続的な選択をすることを猶予され、自分の生き方を模索試行し、大人への準備をする期間を、モラトリアムという。本来は戦争や災害などの緊急時に、銀行などの金融機関が預金の支払いを猶予することをさすが、エリクソンが青年は社会への参加を一時的に免除または猶予されていることを表す用語として使った。青年は、職業や結婚などの社会人としての義務や社会的責任を猶予され、その間に様々な役割を担うことを通じて、自らの可能性を試し、社会の特定の分野に自分に適した生き方を探し出す。このような青年の自己探求のための期間を、エリクソンは心理・社会的モラトリアムと呼んだ。これに対して精神分析学者の小此木啓吾は、人生の選択をさけて、いつまでも猶予状態にひたりつづける青年をモラトリアム人間(moratorium personality)と呼び、自己選択ができない現代青年の未熟さを分析した。その背景には,社会の変化が加速度的であり,アイデンティティを見つけきれないという現実があるといわれる。
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モラトリアム人間
年齢では大人の仲間入りをするべき時に達していながら、精神的にはまだ自己形成の途上にあり、大人社会に同化できずにいる人間。小此木啓吾が提案した用語。
青年期の延長傾向
青年期は産業革命後のヨーロッパで発見されたというが、それは継承すべき知識や高度化・多様化したため、それに見合う教育期間もまた高度化・多様化したことにある。教育・訓練期間が制度化するに伴い、大人になる期間もまた訓練期間が必要となった。現在も未だ産業社会の更なる進展に伴い、青年期は長期化する傾向にある。この社会的責任を猶予されるモラトリアムの期間に青年は様々な役割・責任を担うことによってアイデンティティを確立しなければならない。(エリクソン)