パース CharlesSandersPeirce
パース(1839.9.10-1914.4.19)は、プラグマティズムを創始したアメリカ合衆国の数学者、物理学者、哲学者、思想家である。主要論文『いかにしてわれわれの観念を明晰にするか』。物理学や数学では天文台の測量、論理学などで成果を上げた。また、形而上学クラブでは、科学的実験の方法を実生活に適用することを重視し、プラグマティズムを提唱した。プラグマティズムはアメリカ独自色の強い哲学に育ち、後生に多大なる影響を与えた。
パースの生涯
1839年にアメリカ、マサチューセッツ州ケンブリッジに生まれる。父親は当時数学で名をはせていたベンジャミン・パースであり、幼い頃から知的であったパースは英才教育を受ける。ハーバード大学で数学・物理学を学んだ。卒業後はアメリカ合衆国の沿岸測量所の技師として働き、1869年から6年間にわたり、ハーバード大学の天文台に勤め、測光を行った。仲間たちと形而上学クラブを作り、研究を重ね、数学・論理学・哲学に関する専門的な論文をつぎつぎと学術雑誌に発表した。この形而上学クラブには心理学者・哲学者ウィリアム・ジェームズがいる。書物は出版しなかったが、パースの死後、既刊の論文や草稿が全集として出版されると、彼の学術上の成果に注目が集まった。
プラグマティズム
プラグマティズムはパースによって生み出され、ウィリアム・ジェームズによって広まった思想である。プラグマとはギリシア語で、「行為」または「行動」を意味し、すべての観念の源泉は行動にあるとして、その立場をプラグマティズムと名づけた。この思想の代表者は、パースを筆頭に、ジェームズ、ジョン・デューイ、G.H.ミード、イギリスのシラーなどである。
形而上学クラブ
1870年代に、ハーバード大学のパースらによって立ち上げられたグループである。西欧の伝統的な抽象的・観念論な哲学(形而上学)を離れ、新たな思想を作り出そうとしていた。代表的な会員としてはパースの他、心理学者・哲学者で著名なウィリアム・ジェームズがいる。ダーウィンの進化論とキリスト教との対立の折衷に苦心する中で、実生活の行動と結びついた思想を模索していく。なお、形而上学クラブという名前は、形而上学に対する皮肉と挑戦が込められている。
『いかにしてわれわれの観念を明晰にするか』
『いかにしてわれわれの観念を明晰にするか』とは、パースがはじめてプラグマティズムを定義した論文で、1877年に雑誌に発表された。パースは書籍を出さなかったため、注目されなかったが、約20年後に心理学者・哲学者の巨匠ウィリアム・ジェームズが講演で紹介すると、脚光をあびるようになった。この論文では、ある概念の意味を明瞭化するためには、その概念が対象におよぼす効果を考えよという、プラグマティズムの格率がとなえられている。概念の意味を観念的に考えるのではなく、その概念に従って行動したときに、もたらされる実際の結果によって明確にしなければならない、という主張である。
『いかにしてわれわれの観念を明晰にするか』からの引用
「ある対象の概念を明晰にとらえようとするならば、その対象が、どんな効果を、しかも行動に関係があるかもしれないと考えられるような効果をおよぼすと考えられるか、ということをよく考察してみよ。そうすれば、こうした効果についての概念は、その対象についての概念と一致する。