エンペドクレス Empedokles,前490頃~前430頃
エンペドクレスとは、ソクラテス以前の哲学者で自然について考察する自然哲学者の一人である。アクラガス出身。万物の根源(アルケー)を「土」「水」「火」「空気」の四元素をあげ、これらが愛と憎しみを原理として混在、分離をして機械的に世界が生まれているとした。また、アリストテレスによれば、詩や悲劇、政治論、弁論術なども残したと言われている。
万物の4つの根(リゾーマタ)
エンペドクレスは宇宙には4つの「根」(リゾーマタ)がある。4つの「根」(リゾーマタ)とは「土」「水」「火」「空気」であり、根本的な実体として、不生・不滅・不変の恒久的な存在である。つまり、土と水と火と空気の4元素が混ざったり分離したりして、あらゆるもの(万物、世界、宇宙)が作られる。生成と消滅を4つの「根」(リゾーマタ)の混合と分離に置き換える。
万物の4つの根(リゾーマタ)の断片
「すべて死すべきもの(現象)には何ものへの生誕もなく、また呪うべき、死の終末もない。 むしろ、ただ混合と混合させられたものの分離があるだけである。」
万物の4つの根(リゾーマタ)愛と争い
エンペドクレスは、混合と分離の生ずる原因を、愛と争い(ネイコス)とした。エンペドクレスは、世界の初め、これらの四元素(土、水、火、空気)は完全に結合して球体をなしていたが、そこに憎しみがが入り込み、この四元素は完全に分離してしまう。やがて愛がふたたび力を得て、再び結合状態に戻る。このようにエンペドクレスは、世界は、(1)愛が完全支配する時期、(2)憎しみが侵入する時期、(3)憎しみが支配する時期、(4)愛が再来する時期に分かれながら再び永遠に繰り返す。そして、われわれの生きるこの時間は(2)の時期を意味し、世界に憎しみが侵入し、(3)憎しみが支配する時期に移行する過程に入っていく、とした。
機械論的説明
エンペドクレスの4つの根(リゾーマタ)は、分離や結合は愛と争いを原因にして起こるが、一度起こった以上は、そのものの固有の法則によって動くとした点で機械論的説明といえる。エレア的有(つまり、実在は不生不滅の有のみ)とヘラクレイトス的有(万物の生成や変化に注目して世界を説明)に近い世界の説明と言える。
機械論的説明のまとめ
(1)愛が完全支配する時期(すべて混合)
(2)憎しみが侵入する時期(分離が生ずる)
(3)憎しみが支配する時期(すべて分離)
(4)愛が再来する時期(統一と調和)
アリストテレスからの引用
他方エンペドクレスは上述のもの〔水、空気、火〕に第四のもの、土を加えて、これらの四つを原理とする。すなわちこれらは常に存続しつづけ、生成することはないのであって、ただ多さや少なさの点でひとつに結合したり、ひとつから分離したりするだけなのである。エンペドクレスのいっていることもこのようなことであるように思われる。すなわち彼は「愛」と「争い」が交互に支配し、運動をもたらすが、その中間の時には静止ということが事物に必然的に属すというのである。(アリストテレス『形而上学』)
宗教思想
オルフェウス教的宗教思想をベースに持ち、魂の不死・原罪・転生・浄め、償いによる救済が特徴的である。