酸化還元反応|電子の授受で物質が変わる化学反応

酸化還元反応

酸化還元反応は、物質どうしの間で電子がやり取りされ、一方が酸化され、もう一方が還元される化学反応の総称である。酸化と還元は必ず同時に起こり、どちらか一方だけが単独で進むことはない。燃焼や金属の錆び、電池の放電といった身近な現象から、製鉄、精錬、めっきなどの工業プロセスまで関わる範囲は広い。化学工学や材料工学では、最も基礎的な反応形式の一つとして扱われている。

酸素のやり取りから電子のやり取りへ

「酸化」という言葉は、もともと物質が酸素と結びつく現象だけを指していた。1770年代、フランスの化学者アントワーヌ・ラヴォアジエは、燃焼が空気中の酸素との結合であることを定量実験で示し、当時有力だったフロギストン説を退けた。やがて水素を失う反応も酸化に含められるようになる。20世紀初頭に原子の構造が明らかになると、定義は電子の移動を軸に整理し直された。電子を失う変化が酸化、電子を受け取る変化が還元である。酸素や水素が登場しない反応、たとえば金属ナトリウムと塩素からの塩化ナトリウム生成も、この定義なら同じ枠組みで説明できる。

酸化数で反応を追う

複雑な反応式を前にしたとき、どの原子が電子を失い、どの原子が受け取ったのかを見分ける道具が酸化数である。反応の前後で酸化数が増えた原子は酸化され、減った原子は還元されたと判定する。銅線を硝酸銀水溶液に浸す反応 Cu + 2Ag+ → Cu2+ + 2Ag を例にとると、銅は0から+2へ、銀は+1から0へ変化する。銅原子1個から銀イオン2個へ、合計2個の電子が移ったと読み取れるわけである。

酸化数の主な決め方

IUPACの規則をもとに、実用上よく使う決まりを4つ挙げる。

  • 単体中の原子の酸化数は0とする
  • 化合物中の水素は+1、酸素は−2を基本とする(過酸化水素H2O2中の酸素は例外的に−1)
  • 単原子イオンの酸化数はイオンの電荷に等しい
  • 化合物全体では酸化数の総和が0、多原子イオンでは総和がその電荷に等しくなる

酸化剤・還元剤の強さを比べる

相手を酸化する物質を酸化剤、相手を還元する物質を還元剤と呼ぶ。酸化剤は自身が還元され、還元剤は自身が酸化される点に注意したい。両者の強さを数値で比較する尺度が標準電極電位である。25℃、1気圧、活量1の条件で、標準水素電極を0 Vとしたときの電位で表す。値が大きい物質ほど電子を受け取りやすく、強い酸化剤になる。金属のイオン化傾向は、この並びを定性的に表したものと考えてよい。

半反応 標準電極電位(V) 主な関わり
Li+ + e− → Li −3.04 リチウムイオン電池の負極側
Zn2+ + 2e− → Zn −0.76 乾電池、亜鉛めっき
Fe2+ + 2e− → Fe −0.44 鋼材の腐食
2H+ + 2e− → H2 0.00 基準電極
Cu2+ + 2e− → Cu +0.34 銅の電解精錬
MnO4− + 8H+ + 5e− → Mn2+ + 4H2O +1.51 酸化還元滴定
F2 + 2e− → 2F− +2.87 最強クラスの酸化剤

濃度と温度で電位はずれる

表の数値は標準状態での値にすぎない。実際の溶液では、イオン濃度や温度によって電位が変わる。この関係を表すのがネルンストの式で、E = E0 − (RT / nF) ln Q と書く。Rは気体定数8.314 J/(mol·K)、Tは絶対温度、nは移動する電子数、Fはファラデー定数96485 C/mol、Qは反応商である。25℃(298.15 K)では係数がまとまり、E = E0 − (0.0592 / n) log Q という扱いやすい形になる。電池の起電力が残量とともに下がる理由も、この式で説明がつく。

製造業を支える酸化還元

工業規模の酸化還元反応で代表的なのは製鉄である。高炉では、コークスから生じた一酸化炭素が鉄鉱石を還元し、Fe2O3 + 3CO → 2Fe + 3CO2 の反応で鉄が取り出される。炉の下部では約1500℃の溶銑となって流れ出す。銅の場合は電気分解を利用し、純度約99%の粗銅を陽極に、純銅を陰極に置いて硫酸銅水溶液中で通電する。陽極で溶け出した銅が陰極で還元され、99.99%以上の電気銅が得られる。アルミニウムもホール・エルー法により約950℃の溶融塩中で電解還元される。

表面処理での使われ方

めっきは、溶液中の金属イオンを陰極側の製品表面で還元し、薄い金属膜として析出させる技術である。逆に陽極側で素材自身を酸化させるのがアルマイトで、JIS H 8601に皮膜の等級が定められている。設計の現場で見落とされやすいのは寸法の変化である。アルマイト皮膜は一部が素地の外側へ成長するため、はめあい部やねじ部では処理後の寸法を見込んで公差を決めておかないと、組立時に入らないという不具合が起こる。膜厚の指定が厚くなるほど処理時間が延び、加工単価も上がる傾向にある。

腐食という望まない反応

鉄の錆びは、製造業にとって最も身近で厄介な酸化還元反応といえる。水と酸素がある環境では、アノード部で Fe → Fe2+ + 2e−、カソード部で O2 + 2H2O + 4e− → 4OH− が進み、局部電池が形成されて腐食が広がる。ステンレスのボルトでアルミ部材を締結すると、電位差によってアルミ側が先に溶ける異種金属接触腐食も起こりうる。対策としての防食には、塗装による遮断のほか、鉄より電位の低い亜鉛を被覆する溶融亜鉛めっき(JIS H 8641)や、犠牲陽極を取り付ける電気防食がある。いずれも、どちらの金属が先に電子を手放すかという原理を逆手に取った方法である。

現場で注意したい薬品の組み合わせ

酸化剤と還元剤は、混ざった瞬間に急激な発熱やガス発生を起こすことがある。工場の洗浄工程では、次亜塩素酸ナトリウム系の漂白剤と塩酸系の酸性洗浄剤を混ぜると塩素ガスが発生する事故が後を絶たない。消防法では、過マンガン酸カリウムなどの酸化性固体を第1類、過酸化水素や硝酸などの酸化性液体を第6類の危険物に分類している。金属粉のような可燃性固体(第2類)と同じ棚に置かないこと、廃液タンクを用途別に分けることは、現場の安全管理で基本となる。SDSの「混触危険」欄を確認する習慣をつけておけば、多くのトラブルは未然に防げる。

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