フックの法則
フックの法則(Hooke’s law)とは、力学や材料力学などの工学分野において、固体材料に外力を加えた際に生じる変形量(ひずみ)が、加えられた力(応力)に正比例するという基本的な物理法則である。1678年にイギリスの科学者ロバート・フックによって提唱された。この法則に厳密に従う理想的な材料は線形弾性体と呼ばれ、外力を完全に取り除けば遅れなく元の形状や寸法に復元する性質を持つ。最も単純で身近な例として、コイルばねの伸びや縮みが加えた荷重に比例して増減することが挙げられる。現代の製造業において、各種機械部品の剛性設計や建築構造物の安全性を評価する強度計算を行う際、このフックの法則は最も根幹となる物理的原理として広範に活用されている。本記事では、一次元的なばねの挙動から、連続体における応力・ひずみの関係、および多軸応力状態への一般化について詳述する。
力と変形の基礎概念とばね定数
最も初等的なフックの法則の表現は、ばねの伸長や圧縮に関する一次元的な数式である。ばねに加わる外力を F、自然長からの変位量を x、ばね固有の硬さを示す比例定数を k(ばね定数)とした場合、関係式は F = kx と記述される。この方程式は、ばねを2倍の長さに伸ばすためには正確に2倍の引張力が必要になるという、極めて直感的な事実を数学モデルとして定式化したものである。ばね定数 k の数値が大きいほど、そのばねは変形に対して強い抵抗を示し「硬いばね」と評価される。この基本原理は、自動車のサスペンション機構から精密機器内部の微小な接点部品に至るまで、多岐にわたる工業製品のメカニズムに応用されている。
連続体への適用とヤング率の導入
実際の設計現場においては、単なるばね部品だけでなく、一般的な金属、樹脂、セラミックスなどの連続体材料に対してもフックの法則を拡張して適用する。この場合、加わる力は物体の単位断面積あたりに作用する内力である応力(σ)として、変形量は元の基準長さに対する変位の比率であるひずみ(ε)として再定義される。一次元の引張あるいは圧縮状態において、連続体におけるフックの法則は σ = Eε という簡潔な式で表現される。ここで現れる比例定数 E はヤング率(縦弾性係数)と呼称され、材料そのものの変形しにくさを示す極めて重要な材料物性値である。鉄鋼材料やアルミニウム合金など、採用する材質によってヤング率は一桁以上異なるため、適切な材料選定が製品の力学的性能を根本から決定づける。

フックの法則
フックの法則は次式で表される。ヤング率Eは(縦弾性係数)を表し、εは縦ひずみを示す。

ヤング率(縦弾性係数)
ヤング率(縦弾性係数)は垂直応力と縦ひずみとのフックの法則における比例定数である。次のグラフで表されるようにヤング率Eが大きければ大きいほど、「ひずみ難い材料」であるといえ、大きな応力にも耐えることができる。トーマス・ヤング(1773―1829)が現在のヤング率に相当する量(ヤング率と断面積との積)を測定している。単位は109[N/m2]=1[GPa]。

せん断応力とせん断ひずみ
フックの法則と同じように、せん断応力とせん断ひずみの間にも比例関係が成立する。

せん断弾性係数(横弾性係数)
Gは、せん断弾性係数(横弾性係数)といい、材料の持つ固有の値である。
ポアソン比
ポアソン比(Poisson’s ratio)とは、縦ひずみと横ひずみ比である。また、その逆数をポアソン数 (Poisson’s number)という。ポアソン比は材料固有の値であるが、たいていの金属材料では1/4から1/3の間で収まり、比例限度内では、一定の値になる。
縦弾性係数・せん断弾性係数・ポアソン比
縦弾性係数・せん断弾性係数・ポアソン比の間には次式の関係がある。

主な材料の縦弾性係数・せん断弾性係数・ポアソン比
| 材料 | E[Gpa] | G[Gpa] | ポアソン比ν |
|---|---|---|---|
| 軟鋼 | 206 | 82 | 0.28-0.3 |
| 硬鋼 | 200 | 78 | 0.28 |
| 鋳鉄 | 157 | 61 | 0.26 |
| 銅 | 123 | 46 | 0.34 |
| 黄銅 | 100 | 37 | 0.35 |
| チタン | 103 | – | – |
| アルミニウム | 73 | 26 | 0.34 |
| ジュラルミン | 72 | 27 | 0.34 |
| ガラス | 71 | 29 | 0.35 |
| コンクリート | 20 | – | 0.2 |
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