バラモン教 Brahmanism
バラモン教(紀元前1500ころ-)は、インドを中心に進行される、氏族主義(ヴァルナ)と身分制度を基盤とした民族宗教である。紀元前15世紀ごろ、アーリア人は、中央アジアからインドに侵入したが、そこに住むアーリア人は氏族制と身分制(ヴァルナ)を基礎とした農耕社会と宗教性の強い独自の文明を作り上げた。おおよそ前10世紀ごろと言われている。
キリスト教やイスラム教に見られるような開祖もなく、教義に基づく伝道 (布教) もない。多神教で天、地、太陽、風、火などの自然神を崇拝する『リグ・ヴェーダ』(ヴェーダ)を聖典とし、司祭階級であるバラモンによる神々を祀る祭祀を中心に発達した。バラモン教は、インド古来の河川崇拝、沐浴、断食などの民間信仰や風俗と結びつき、ヒンドゥー教や仏教に大きな影響を与えた。
バラモン教の経緯
紀元前1000年以後、アーリア人がインダス川からガンジス川流域に移住し、バラモン(司祭)を頂点とした社会が成立した。バラモン(司祭)が神々に歌をささげ、神を祀る祭式を基盤に発展し、職業の世襲化やヴァルナ制度を生み出した。このヴァルナ制度が後のカースト制度に発展する。
『リグ-ヴェーダ』
祭典『リグ-ヴェーダ』は、アーリア人の最古の文献であり、前1200年ごろから形成されてきたと伝えられている。
- 『リグニヴェーダ』:神がみに対する賛歌集。
- 『サーマーヴェーダ』:詠法集。
- 『ヤジュル=ヴェーダ』:祭式集。
- 『アタルヴァ=ヴェーダ』:呪法書集。
四姓制度(ヴァルナ制度)
四姓制度(ヴァルナ制度)は、バラモン (司祭者階級)、クシャトリア (王族)、ヴァイシャ (庶民)、シュードラ(奴隷)の階級制度でのちにカースト制度と呼ばれる身分制度となる。なお、この4種の階級にもはいらない不可触民とよばれる差別された最下層の人々がいる。身分制度の頂点にたつバラモンは、神格性を持ち、神々を讃える聖典『ヴエーダ』に基づく儀式と難解な哲学をもつ。バラモン教の教義は、奥義『ウパニシャッド』に記され、無限に生死をくリ返す「輪廻」とその原因となる行為である業(カルマ)がその思想の中心であるが、教義の難解性はバラモンの知の独占と神格性を高めた。
- バラモン:司祭階層。
- クシャトリヤ:武士・貴族階層で政治・軍事を担う。
- ヴァイシャ:一般庶民階層。
- シュードラ:隷属民階層。農業や牧畜がシュードラの職業とされた。
- 不可触民(ダリト・ハリジャン):4種の四姓制度の中に入れない最下層の階層。
業(カルマ)
業(カルマ)とは、人間がなす様々な「行為」を意味する。
輪廻
輪廻とは、善悪の「業」によつて現世、来世が決定される、脱出不可能な苦しみが永遠に循環するという思想である。いわゆる生まれ変わりの思想である。バラモン教では、輪廻の不安から逃れ、よりよく生まれるために善行を積むことが説かれたが、後に輪廻の循環からの「解脱」が求められるようになった。
解脱
解脱とは、無限に生死をくリ返す輪廻の苦しみから解き放たれ、生死を超えた絶対の境地に至ることである。この思想は仏教にも反映されている。
さて、この世においてその素行の好ましい人々は好ましい母体に、すなわち、婆羅門(バラモン)の母胎か王族(クシャトリア)の母胎か、庶民(ヴァイシャ)の母胎にはいると期待される。しかしこの世において、その素行の汚らしい人々は、汚らわしい母胎にすなわち、犬の母胎か豚の母胎か選民の母胎にはいると予測されるのである。
また、何度でも生きかえってくる、これらの下等動物たちはこの二道(神の道と祖霊の道)のいずれをも通って行かない。「生まれよ」「死ね」と(いとも簡単に)いわれる、これが第三の立塢である。
・・・それ故に人は素行を慎むようになるべきである。
梵我一如
梵我一如とは、ウパニシャッド哲学における宇宙の絶対不変の最高原理である[ブラフマン(梵)]と生まれ変わっても変化しない生命活動の中心的な霊魂である[アートマン(我)]が同一であるという考え方。ウパニシャッド哲学の真理であり哲学書『ウパニシャッド』では真実の自己であるアートマンの自覚により、ただちに絶対的なブラフマンとの合一が実現し、人間は輪廻の苦しみから解脱できると説かれた。
実にこのアートマンを知って婆羅門たちは息子を得たいという願望、財産をえたいという願望、(天上の)世界を得たいという願望から離脱して、乞食の遊行生活をするのである。
愚者であることをも識者であることをもいとうとき、彼は聖者となる。聖者でないことも聖者であることもいとうとき、彼は(真の)婆羅門(すなわち宇宙の最高原理ブラフマンに合一した人)となるのである
インドラ
中心的な神は雷を司るインドラで、雷を象徴する武器であるヴァジュラ(金剛杵)を持ち、のちに仏教では帝釈天と呼ばれ、仏の守護神とされた。
形式化
四姓制度はカースト制度によって身分が固定化する。それにともない、バラモン教は形式化し、祭式万能主義となる。バラモン階級の宗教的権威は絶対的であったが、諸王国の統合が進み、大国家が成立、経済が手工業や商業を中心に発達すると、クシャトリヤやヴァイシャの実力が高まり、バラモンの支配が低下していく。バラモン教を踏襲しながらも、深い哲学思想をもったウパニシャッド哲学が誕生するようになる。
ウパニシャッド哲学
ウパニシャッド哲学は、バラモンの権威は非常に大きかったものの、社会の安定や都市の勃興とともない、思想にも変化が見られるようになり、現世の幸せだけではなく輪廻からの解脱に関心が高まるようになる。バラモン教からはしだいに離れていき、奥義書『ウパニシャッド』の哲学が形成されるようになる。ウパニシャッド哲学哲学では、精神統一によって梵我一如の心理を自覚し体得すれば解脱できると説かれたが、この考え方はインド思想の源流として後世に受け継がれていった。