デフォー|市民社会と冒険を描く

デフォー

デフォーは17〜18世紀イングランドを代表する作家・政治パンフレット作者であり、近代英文学史上「英語小説の父」とも呼ばれる人物である。代表作『ロビンソン・クルーソー』は、冒険物語であると同時に、商業社会の自己形成やプロテスタント的勤勉さを描き出し、のちの市民社会文学に大きな影響を与えた。ロンドンを中心に発展した商業・金融・出版の世界と結びついたデフォーの活動は、18世紀の成長する市民と文化を理解するうえで重要な位置を占めている。

生涯と社会的背景

デフォーはおよそ1660年頃、ロンドンの商人の家に生まれた。国教会から距離を置く非国教徒(ディセンター)の家庭で育ち、教会・国家のあり方に批判的な宗教環境の中で教育を受けた。若い頃は商人としてヨーロッパ貿易に携わるが、事業の失敗と破産を繰り返し、その経験が後年のリアリズム豊かな作品世界に反映されることになった。

  1. 1660年前後 ロンドンに生まれる。

  2. 1680年代 商業活動と政治への関心を深める。

  3. 18世紀初頭 ジャーナリスト・作家として本格的に活動。

  4. 1731年 ロンドンで没する。

政治パンフレットと宗教的立場

デフォーは名声を得る以前から、王権・議会・宗教政策などをめぐる政治パンフレットの執筆で知られていた。名高い風刺パンフレット『最も簡単なディセンター処理法』では、表向きは非国教徒弾圧を擁護する体裁をとりながら、その過激さゆえに逆に弾圧政策の不当さを暴き出した。この作品によって投獄も経験したが、こうした体験は、イングランド革命期の遺産を受け継ぐバンヤン天路歴程の世界と同様、信仰と良心の自由というテーマを強く印象づけている。

小説『ロビンソン・クルーソー』

1719年に発表された『ロビンソン・クルーソー』は、遭難した主人公が無人島で生き延びる物語であり、18世紀英文学を代表する作品である。日記風の文体や具体的な数字・作業手順の描写は、読者に事実報告のような印象を与え、近代小説における写実性のモデルとなった。孤島での労働・貯蓄・道具の改良を通じて造られる生活は、市民階級の勤勉・節制・合理性を体現している。

  • 冒険物語としての娯楽性

  • 信仰の回復と内面的改宗の物語

  • 商人としての計算と労働倫理の強調

その他の作品と文学的特徴

デフォーは『モル・フランダース』や『ジャーナル・オブ・ザ・プラーグ・イヤー(ペストの年の日記)』など、多数の長編・短編を残した。犯罪者・娼婦・貧民など周縁に生きる人々を主人公に据えながら、詳細な生活描写と心理描写によって読者にリアルな世界像を提示する点に特色がある。同時期の宗教的叙事詩失楽園の作者ミルトンが壮大な宇宙的構図を描いたのに対し、デフォーは日常生活と社会の現実を細部から描き出した。

18世紀市民社会・文化との関係

18世紀ロンドンでは、商人や職人、知識人が集うコーヒーハウスが情報交換と世論形成の場となり、新聞・雑誌・パンフレットが急速に普及した。デフォーはこうした印刷・談話空間と結びつき、政治評論から小説まで多彩なジャンルを手がけた作家である。また、植民地貿易の拡大に伴い、コーヒーや茶(ヨーロッパ)といった嗜好品が市民文化を彩り、同時代にはオランダの画家レンブラントや、宗教音楽で知られるバッハなどがヨーロッパ文化を担った。デフォーの作品は、こうした広がりゆく商業世界と宗教・道徳観の変化を物語形式で表現し、市民社会の自己理解に貢献した点で、近世から近代への移行期を象徴する存在といえる。