シロキサン
シロキサンは、ケイ素と酸素が交互に結合したSi–O–Si結合(シロキサン結合)を骨格に持つ化合物の総称である。ケイ素原子に有機基が結合したものは有機シロキサンと呼ばれ、工業的にはシリコーンの名で広く流通している。代表的な構造単位は[R2SiO]nで表され、Rがメチル基の場合はポリジメチルシロキサン(PDMS)となる。耐熱性、撥水性、電気絶縁性に優れ、オイル、ゴム、樹脂、離型剤など形態を変えて自動車、電機、建築、化粧品の各分野で用いられている。
Si–O–Si結合が持つ特異な性質
シロキサン結合の結合エネルギーは約452kJ/molで、有機ポリマーの主鎖をなすC–C結合(約348kJ/mol)より大きい。耐熱性や耐候性の高さはこの差に由来する。Si–O結合の長さは約0.164nmとC–C結合の0.154nmより長く、Si–O–Siの結合角も約143°と広いうえに、130°から180°近くまで容易に変形する。主鎖が柔らかく回転しやすいため、PDMSのガラス転移温度は約−125℃と極めて低い。低温でも硬くなりにくいのはそのためである。
| 結合 | 結合エネルギー(kJ/mol) | 結合長(nm) |
|---|---|---|
| Si–O | 約452 | 約0.164 |
| C–C | 約348 | 約0.154 |
| C–O | 約358 | 約0.143 |
| Si–C | 約318 | 約0.189 |
MDTQ表記で読み解く分子構造
ケイ素1個に結合する酸素の数によって、構造単位は4種類に分けられる。業界ではそれぞれをM・D・T・Qの記号で表すのが慣例である。M単位は酸素1個を持つ末端基(R3SiO1/2)、D単位は鎖を伸ばす2官能基(R2SiO2/2)を指す。T単位(RSiO3/2)は枝分かれをつくり、Q単位(SiO4/2)は三次元網目となる。Q単位だけで構成された極限の姿がシリカであり、T単位が多いものはシリコーンレジンやシルセスキオキサンに分類される。直鎖オイルは「MDnM」、環状4量体は「D4」と書けば構造が一目でわかるため、技術資料や仕様書では化学名よりこちらの略号が多用される。
製造法の確立と工業化の歩み
英国のF. S. Kippingが1901年に「silicone」の語を用いたことが、有機ケイ素化学の出発点とされる。ただし当時は実験室規模にとどまった。転機となったのは1940年代にE. G. Rochowが開発した直接法である。金属ケイ素と塩化メチルを銅触媒の存在下、約280〜300℃で反応させ、ジメチルジクロロシランを得る。この中間体を加水分解するとシラノールが生じ、それが脱水縮合してシロキサン結合を形成する。
反応式は次のように表される。
(CH3)2SiCl2 + 2H2O → (CH3)2Si(OH)2 + 2HCl
n(CH3)2Si(OH)2 → [(CH3)2SiO]n + nH2O
高分子量品を得るには、加水分解で生じた環状体D4を酸やアルカリ触媒で開環重合させる方法が主流となっている。国内では1950年代に信越化学工業が工業生産を始め、現在も世界有数の供給国となっている。
環状シロキサンをめぐる規制
D4(オクタメチルシクロテトラシロキサン)、D5、D6といった環状体は揮発性があり、さらさらとした使用感から化粧品の基剤に重宝されてきた。しかし環境中での残留性と生物蓄積性が問題視され、欧州ではREACH規則のもとで2018年に高懸念物質(SVHC)へ指定された。2020年からは洗い流す化粧品で0.1wt%以上の含有が制限され、2024年には規則(EU) 2024/1328により対象が消費者向け・業務用製品の広い範囲へ拡大している。欧州へ製品を輸出する部品メーカーでは、ゴムやグリースに残留する環状体の含有量証明を顧客から求められる場面が増えた。
電子部品で問題となる低分子シロキサン
製造現場で厄介なのが、硬化後のシリコーン製品から徐々に揮発する低分子成分である。D3〜D10程度の低分子シロキサンは密閉筐体内を漂い、リレーやマイクロスイッチの接点に付着する。開閉時のアーク熱で酸化されると絶縁性の二酸化ケイ素が析出し、接触抵抗の上昇や導通不良を招く。ポッティング材や放熱グリースを選ぶ際は、通常品より割高でも「低分子シロキサン低減品」を指定するか、使用前に150〜200℃で数時間のポストキュアを行って揮発分を追い出すのが実務上の定石となっている。
バイオガス設備での障害
下水汚泥の消化ガスには、シャンプーなどに由来するシロキサンが数〜数十mg/m3含まれることがある。ガスエンジンで燃焼すると白色のシリカが燃焼室や点火プラグに堆積するため、活性炭吸着塔による前処理が組み込まれる。
形態ごとに異なる主な用途
同じ骨格でも、分子量と架橋の度合いによって性状は大きく変わる。代表的な形態と用途を挙げる。
- シリコーンオイル:消泡剤、作動油、離型剤。粘度は0.65〜100万mm2/s程度まで幅広い
- シリコーンゴム:ガスケット、電線被覆、医療用チューブ。試験方法はJIS K 6249に規定される
- シリコーンレジン:耐熱塗料、電気絶縁ワニス、LED封止材
- シランカップリング剤と組み合わせた表面処理剤:ガラス繊維やフィラーの界面改質
シリコーンゴムの連続使用温度はおおむね−50〜200℃とされ、汎用のEPDMやNBRでは対応しにくい高温部位に採用される。コスト面ではEPDMの数倍に達することも多く、耐熱要求が150℃を下回る箇所では有機ゴムで代替されるケースが少なくない。塗装工程の近くではシリコーンの付着が「はじき」の原因になるため、同じ工場内でも使用エリアを分けて管理する事業所がある。重縮合の条件や末端基の設計を変えれば、粘着剤から硬質樹脂まで一つの化学で作り分けられる点に、シロキサン材料の工業的な強みがある。
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