OHT
OHT(Overhead Hoist Transport、天井吊下式搬送装置)は、半導体製造工場のクリーンルーム内において、天井に設置された軌道レールを走行し、ベルト駆動のホイスト機構でウェーハ搬送容器を昇降・移動させる自動搬送システムである。300mmウェーハ対応ファブの普及とともに主力のAMHS(Automated Material Handling System:自動材料搬送システム)として広く定着し、今日では工程内搬送のみならず工程間・工場間搬送にも活用されている。床面積を専有しないためクリーンルームのスペース効率を最大化し、人手を介さない無人搬送によって汚染リスクを最小限に抑える点が最大の特長である。
定義と名称
OHTはOverhead Hoist Transportの頭文字をとった略語であり、「天井搬送システム」「吊り下げ式搬送装置」「空中搬送システム」など複数の呼称が存在する。類似システムとしてOHS(Overhead Shuttle、天井シャトル式)やOHV(Overhead Hoist Vehicle)があるが、OHTはホイスト機構を備えた走行車を指す点で区別される。広義にはAGV(Automated Guided Vehicle)の一形態として分類されることもあるが、軌道が天井に固定されている点でフロア走行型のAGVとは本質的に異なる。日本の産業界ではダイフクや村田機械が代表的なサプライヤーとして知られており、グローバルにはSFA Engineering CorporationやMirle Automationなどが主要プレーヤーとして市場を構成している。
システム構成と動作原理
OHTの基本構成は、天井に敷設された走行レール、レール上を自走する台車(ビークル)、台車下部に搭載されたベルト駆動式ホイスト機構、および搬送容器であるFOUP(Front Opening Unified Pod)からなる。台車はリニアモーターや摩擦駆動モーターによって走行し、ターゲット装置のロードポート上方に到達すると停止する。続いてホイスト機構がベルトを繰り出し、FOUPのフランジ部をグリッパで把持したまま降下させ、ロードポートのテーブル上へ精密に載置する。標準的なシングルトラック型では最大走行速度が約1.2 m/s、1回のポート移載サイクル時間は約28秒、最大可搬荷重は25 kgと規定される。シングルトラックとデュアルトラックの2種があり、デュアルトラックは高密度ベイレイアウトで双方向フローに対応する。
FOUPとの関係
OHTが搬送する主要な対象はFOUPである。FOUPはウェーハを密閉収納する前面開口型の専用プラスチック容器であり、天板部にはOHTのグリッパが把持するためのフランジが設けられている。FOUPは1990年代中頃の300mmウェーハ製造導入とともに標準化され、SEMI規格によって機械的互換性が担保されている。OHTがFOUPを装置のロードポートに降ろすと、ロードポートがFOUPをクランプ・ドッキングしてドアを開放し、内部のウェーハが製造装置へと投入される。この一連のフローにより、クリーンルームの外気にウェーハが暴露される時間を極限まで削減し、パーティクル混入による歩留まり低下を防ぐ。
SMIFとの比較
200mmウェーハ時代にはSMIF(Standard Mechanical Interface)ポッドがウェーハ搬送の主流であったが、300mmウェーハの大型化・重量増に伴いFOUP+OHTの組み合わせへ移行した。SMIFではポッドを横方向から装置に挿入する方式であったのに対し、FOUPはロードポートの上方から降ろされ前面でドッキングする構造となっており、OHTとの親和性が高い設計になっている。この変化はクリーンルームのミニ環境化を促進し、ファブ全体の空調コスト削減にも貢献した。
クリーンルームへの設計上の効果
OHTは天井空間を走行路として活用することで、作業員の歩行通路や製造装置の設置エリアを圧迫しない。高さ2.7 m程度の低天井ファブにも対応可能な機種も存在し、既存建屋への後付け導入も実現されている。また、パーティクル発生量を抑えるために駆動部の低発塵設計・低振動化が徹底されており、走行中の振動がFOUP内ウェーハの破損を招かないよう加速度管理が厳格に規定されている。複数台のOHT車両が同一レール上で運用される場合、走行経路上の交差・追い越し時の振動増大リスクを管理システムが制御することで、搬送品質を安定に保つ設計が求められる。
制御システムとMCS
OHTの運行は上位のMCS(Material Control System)またはAMHSインテグレータと呼ばれる管理システムによって統制される。MCSは各OHTの位置・状態をリアルタイムで把握し、搬送要求に応じて最適な台車を割り当て、ルーティングや交通制御を行う。工程内搬送設備・工程間搬送設備・ストッカのそれぞれが固有のコントローラを持ち、SEMI標準通信規格(IBSEM等)を介してMCSと通信する。近年はAIベースのトラフィック最適化モジュールの採用が進んでおり、2024年時点での新規インストールの36%以上にこの機能が組み込まれ、スループット改善効果が報告されている。予測保全ソフトウェアとの統合によって予定外のダウンタイムを低減させる取り組みも広がっている。
市場規模と主要メーカー
半導体OHT市場は半導体製造の大型投資サイクルとともに成長している。世界の半導体OHT市場規模は2024年時点で約7億8,100万米ドルと推計され、2025〜2031年の年平均成長率(CAGR)は9.6%と予測されている。製品形態ではシングルトラック型が市場の約80%を占める主力カテゴリーである。主要サプライヤーにはダイフク・村田機械(日本)、SFA Engineering Corporation・SYNUS Tech(韓国)、Mirle Automation(台湾)などが名を連ね、グローバルなファブ建設の増加に伴い受注競争が激化している。日本国内でも半導体前工程ファブへの大型投資が相次いでおり、OHT需要の拡大が見込まれている。
技術動向
半導体の微細化・大口径化が進む中、OHTにも新たな技術要件が課されている。従来の300mmウェーハ向けFOUPであればOHTによる搬送に十分対応できたが、600mm角の大型インターポーザーは重量が約100 kgに達するため、床面搬送型AMRへの移行が検討されている。一方で、モジュラー設計の採用によりファブが搬送経路を迅速にスケールアップできる柔軟なOHT構成が注目を集めており、2023年に新設されたファブの27%がこうした拡張可能トラック設計を採用したとされる。また、リアルタイム追跡機能を備えたシステムが標準化しつつあり、新規導入OHTの92%超でトレーサビリティ機能が実装されている。エネルギー効率の改善も進んでおり、2020年比で12%の省エネを達成したモデルも登場している。
関連システムとの比較
クリーンルーム内の搬送手段として、OHTのほかにAGV(床走行型自動搬送車)、コンベアシステム、AMR(自律走行搬送ロボット)がある。それぞれの特性を以下に整理する。
| 方式 | 走行空間 | 軌道 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| OHT | 天井 | 固定レール | 工程内・工程間FOUP搬送 |
| AGV | 床面 | 磁気テープ等 | 重量物・後工程搬送 |
| AMR | 床面 | 軌道不要(自律走行) | ストッカ〜装置間フレキシブル搬送 |
| コンベア | 床面・天井 | 固定ライン | FOUP大量搬送・工程間接続 |
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