MPEG|世界標準の映像・音声圧縮規格を策定

MPEG

MPEG(Moving Picture Experts Group)は、動画や音声データの圧縮と符号化技術に関する国際標準規格を策定するための専門家グループである。ISO/IECのワーキンググループとして1988年に設立されて以来、デジタル映像・音声の取り扱いを飛躍的に効率化する各種規格を生み出してきた。DVDやBlu-ray、デジタル放送、インターネット動画配信など多くのメディアがMPEGの成果を基盤とし、世界的に普及した。本稿では、その代表的な規格や技術背景、応用分野、そして今後の展望を概説し、マルチメディア社会における重要性を整理する。

登場の背景

動画や音声をデジタルデータとして扱う場合、そのデータ量は膨大になる。初期のコンピュータや通信ネットワークでは、映像・音声を扱ううえでの帯域や記憶容量が極めて限られていたため、高い圧縮率と品質を両立する符号化技術が強く求められた。そこで国際標準として策定が進められたのがMPEG規格であり、各国の研究者・技術者が集まり、自然な動画と音声を効率的に伝送・保存するためのさまざまな符号化方式を開発する枠組みが生まれた。

代表的な規格

MPEGは複数の世代・用途に合わせた規格群を提供しており、下記はその代表例である。

  • MPEG-1: CD-ROM時代に動画を扱うために策定された初期規格。MP3(MPEG-1 Audio Layer III)というオーディオ圧縮方式が世界的に普及した。
  • MPEG-2: DVDやデジタル放送に採用された規格で、標準解像度からフルHDレベルまで対応し、多様な放送・ディスクメディアの基盤技術となった。
  • MPEG-4: 高効率化やストリーミングを重視した規格。Visual、AAC(Advanced Audio Coding)などの要素が含まれ、インターネット動画配信やモバイル用途を後押しした。
  • MPEG-4 AVC/H.264: ITU-Tと共同で策定された高圧縮規格で、Blu-rayやインターネット配信の主流コーデックとして大きな成功を収めた。
  • HEVC/H.265: 4Kや8Kの高解像度映像に対応するための圧縮技術。H.264からさらに1.5~2倍程度の圧縮効率向上を実現した。
  • MPEG-H: 3DオーディオやVR(仮想現実)など新しいメディア体験を視野に入れた規格で、音場再現やインタラクティブ性に関する要素が含まれる。

これらの規格は、圧縮効率・解像度・応用範囲などの要件に合わせて使い分けられている。

技術的特徴

動画圧縮においてMPEG規格が用いる代表的手法は、フレーム間予測とフレーム内予測を組み合わせる「時間方向・空間方向の圧縮」である。前後フレームとの動きベクトルを算出することで冗長データを大幅に削減する一方、変換コーデック(DCTやDSTなど)を用いて周波数成分ごとに量子化する仕組みを組み合わせ、空間的な重複を圧縮している。オーディオ側では、人間の聴覚特性を活かして不要な周波数成分を削減し、可変ビットレートなど柔軟な符号化を行う。

応用分野

MPEG規格はDVDプレーヤーやテレビ放送受信機器、Blu-rayプレーヤー、そしてパソコンやスマートフォンの動画再生ソフトなど、あらゆる映像・音声の再生環境に組み込まれている。オンライン動画配信サービスやSNSの動画投稿機能でも多くがMPEGのコーデックを採用し、ネットワーク帯域を節約しながら高画質を実現している。最近ではAR/VRコンテンツや動画会議システム、自動運転車の車内映像処理など新しい領域で活用範囲が拡大しており、マルチメディア技術の発展をけん引し続けている。

特許とライセンス

MPEGの規格には多くの特許が関連するため、実装や商用利用にはパテントプールやライセンス管理団体を通じた契約が必要になる場合がある。H.264やHEVCに関しては特許プールが複数存在し、ライセンス条件の交渉が複雑化するケースが指摘されている。このように、技術的優位性とライセンスビジネスの兼ね合いがマルチメディア市場の競争に影響を及ぼす要因ともなっている。

今後の展望

動画配信のさらなる高画質化、インタラクティブ化、大規模データ処理が進む中で、MPEG規格もVR/AR、360度映像、低遅延ストリーミングなどを視野に改良が続けられている。将来規格ではAI技術との融合による高効率符号化や動的適応配信などが検討されており、映像品質と帯域使用効率の両立を目指したイノベーションが期待される。既存のAVC/H.264やHEVC/H.265を補完する形でAV1やVVC/H.266といった新たなコーデックも台頭しつつあり、エコシステム全体でのコーデック選択と競争が続く見通しである。

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