LTPS(低温多結晶シリコン)|レーザー結晶化で高移動度を実現する低温ポリシリコン技術

LTPS

LTPS(低温多結晶シリコン)(Low Temperature Poly-Silicon)は、低温でポリシリコン層を形成する技術であり、主にモバイル端末などに用いられる高精細ディスプレイのバックプレーンとして注目されている。通常のアモルファスシリコンよりもキャリア移動度が高く、画素スイッチングを高速化すると同時に消費電力を低減できる利点がある。さらに、回路部品をガラス基板上に集積しやすくなるため、部品点数の削減やディスプレイの薄型化にも貢献し、多様な用途で採用が進んでいる。

技術の背景と特徴

従来のアモルファスシリコンでは結晶構造が乱れており、電子の移動度が低いことが課題とされていた。一方、LTPSではポリシリコンをガラス基板上に堆積後、レーザーアニールなどを利用して低温で結晶化させるため、結晶粒が大きく形成される結果、移動度が格段に向上する。これにより高解像度かつ低消費電力なディスプレイを実現できるだけでなく、同一基板上にドライバICを形成して回路を集積化しやすい点も魅力である。モバイル機器の高精細化や省電力化が求められる現代において、LTPSの技術革新はディスプレイ分野の進化を促進している。

製造プロセス

LTPSの製造は、まずガラス基板上にアモルファスシリコンを堆積し、レーザー光を照射してポリシリコンを形成する工程が中核となる。代表的な手法としてエキシマレーザーアニール(ELA)があり、照射時にアモルファスシリコンが瞬間的に溶融・結晶化する。基板温度が高くならないように制御しながら結晶化を進めるため、ガラス基板を用いた製造が可能である。続いて、形成されたポリシリコン層上に薄膜トランジスタ(TFT)を作り、画素スイッチング回路や制御回路を一体化する。工程の複雑化は避けられないが、高い移動度と回路集積性によってディスプレイ性能を向上させるメリットは大きい。

特性とメリット

LTPSはアモルファスシリコンTFTと比較して10倍以上の移動度を確保できる場合が多い。その結果、高速スイッチングによる高リフレッシュレート表示や、電圧を低く抑えた省電力駆動が可能になる。さらに、ゲートドライバや一部の駆動回路を基板に直接形成できることから、外付け部品を削減しながら狭額縁デザインや高い画素密度を実現しやすい。また、トランジスタ特性が安定しやすいこともあり、表示品質の均一化や耐久性向上に寄与する点でも評価が高い。ただし、製造コストが上昇しやすいことが最大の課題であり、量産効率の改善が継続的に求められている。

応用分野と市場動向

近年のスマートフォンやタブレットでは、高解像度ディスプレイが標準的になりつつあるため、LTPS技術の需要は依然として高い。加えて、有機EL(OLED)ディスプレイの駆動にもポリシリコンTFTの優位性が活用されるケースが増えており、モバイル分野はもちろんのこと、ウェアラブル機器や車載ディスプレイなどにも用途が広がっている。さらに、高生産性を実現するための大型基板対応技術が進む一方、相対的にコストの高いアモルファスシリコンからLTPSへ移行するメーカーの動きも活発化している。ただし、従来のアモルファスシリコンラインの設備転用が容易でない点や、より新しいOxide TFTとの競合もあり、市場では各社が最適な技術選択を探り合っている。

課題と今後の展開

LTPSは従来技術より優れた特性を持つものの、レーザーアニールなどの装置が高価であり、生産工程が複雑になるため量産コストが課題とされる。そのため、より低コストで結晶化を実現するレーザープロセスの改良や、フラッシュランプアニールなど代替手法の研究が進められている。また、大型パネル向けには、基板が広くなるほどレーザー照射に伴うむらや結晶品質のばらつきが生じやすい問題があり、均一な結晶を安定的に形成するためのプロセス制御がポイントになる。今後は大型ディスプレイでもLTPSのメリットを活かす動きが加速し、高解像度・高リフレッシュレートが求められる市場での競争力が一段と高まると予想される。

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