鉱油
鉱油とは、原油を蒸留・精製して得られる炭化水素系の油の総称である。英語ではmineral oilと呼ばれ、動植物から採る油脂や、化学的に合成した合成油と区別される。主成分はパラフィン系、ナフテン系、芳香族系の炭化水素で、それぞれの比率によって粘度や低温での流れやすさ、酸化に対する強さが変わる。潤滑油の基油として最も多く使われており、ほかにも絶縁油、作動油、切削油、化粧品・医薬品用の流動パラフィンなど、幅広い用途がある。
灯油ランプから工業用潤滑へ
石油を工業的に利用する流れは、1859年に米国ペンシルベニア州でエドウィン・ドレークが機械掘りの油井を成功させたことから本格的に始まった。当初の主な製品は照明用の灯油で、重い留分は使い道の少ない残りものとして扱われていた。ところが蒸気機関や紡績機が広まると、それまで主流だった鯨油や菜種油では、供給量にも耐熱性にも足りなくなった。そこで重質留分から作る鉱油系潤滑油の需要が急速に増えた。20世紀に入ると減圧蒸留や溶剤精製が実用化され、品質のそろった基油を大量に作れる体制が整った。
炭化水素の組成と基油グループ
同じ鉱油でも、原料となる原油の産地と精製の方法によって性質は大きく異なる。パラフィン分が多いものは温度が変わっても粘度が変わりにくいが、低温では固まりやすい。ナフテン分が多いものは低温でも流れやすく、添加剤もよく溶ける。こうした違いを整理するため、米国石油協会(API)は飽和分の量、硫黄分、粘度指数をもとに基油をグループ分けしている。
| 区分 | 飽和分 | 硫黄分 | 粘度指数 | 主な精製法 |
|---|---|---|---|---|
| グループI | 90%未満 | 0.03%超 | 80〜120 | 溶剤精製 |
| グループII | 90%以上 | 0.03%以下 | 80〜120 | 水素化精製 |
| グループIII | 90%以上 | 0.03%以下 | 120以上 | 水素化分解・異性化 |
グループIIIは鉱油が原料であるにもかかわらず、市場では「合成油」と表示されることがある。カタログで「合成」と書かれていても、中身がPAO(ポリアルファオレフィン)とは限らない点は覚えておきたい。
粘度指数の求め方
粘度指数(VI)は、温度による粘度の変わりやすさを表す数値で、JIS K 2283に計算方法が定められている。40℃での動粘度をUとし、100℃で同じ粘度をもつ2種類の基準油の40℃動粘度をL(VI=0)、H(VI=100)とすると、次の式で求められる。
VI = (L − U) ÷ (L − H) × 100
パラフィン系とナフテン系の比較
現場でよく話題になるのは、パラフィン系とナフテン系のどちらを選ぶかという問題である。一般的な機械潤滑やタービン油には、酸化に強く粘度指数も高いパラフィン系が向いている。寒冷地で動かす機械や、低い流動点が必要な冷凍機油、変圧器用の絶縁油ではナフテン系が選ばれる。ただし、ナフテン系に適した原油は世界的に産出量が少ない。そのため調達先が限られ、価格が変わりやすいという弱点もある。
工業用途と規格
用途ごとに求められる性能は大きく異なる。
- 工業用潤滑油:JIS K 2001(ISO 3448に対応)の粘度グレードで管理され、ISO VG 32、46、68がよく使われる
- 電気絶縁油:JIS C 2320で規定されており、変圧器や遮断器で絶縁と冷却の役割を担う
- 油圧作動油:ポンプの摩耗を防ぎ、水と分離しやすい性質が求められる
- 金属加工油:不水溶性切削油の基油として、極圧添加剤と組み合わせて使われる
- 流動パラフィン:高度に精製した白色油で、食品機械や化粧品にも使われる
ISO VGの数値は40℃での動粘度の中心値(mm²/s)を表しており、VG46なら41.4〜50.6 mm²/sの範囲に入る。設備が同じでも、夏と冬でグレードを変える工場は珍しくない。
合成油との使い分けとコスト感
鉱油が今も主流である最大の理由は価格にある。PAO系の合成油と比べると、基油の単価はおおむね3分の1から5分の1程度で、ドラム缶(200L)単位で大量に買うユーザーほど差額が大きくなる。一方で、100℃を超える高温が続く条件では酸化劣化が早まり、交換の周期が短くなる。結果として、油代は安くても交換作業や設備の停止時間を含めた総コストが逆転することがある。射出成形機や油圧プレスのように使う油量が多い設備では鉱油系、高温のチェーンや長寿命が必要な減速機では合成油系というように、設備ごとに使い分けるのが現実的な判断となる。
取り扱いと消防法上の区分
鉱油系製品の多くは、消防法で危険物第4類に分類される。引火点が70℃以上200℃未満のものは第3石油類、200℃以上250℃未満のものは第4石油類に当たる。指定数量は、非水溶性の第3石油類が2,000L、第4石油類が6,000Lである。その5分の1以上を保管すると、市町村の条例による少量危険物の届出が必要になる。複数の油種を同じ倉庫に置く場合は、それぞれの数量を指定数量で割った値を合計して判断するため、作動油と切削油を合わせて基準を超えてしまう例がよくある。
劣化の見分け方
使用中の油は、全酸価、水分、動粘度の変化率で管理するのが一般的である。タービン油では全酸価が新油より0.3 mgKOH/g程度上がった時点を交換の目安とする場合が多い。色が濃くなったり、焦げたようなにおいがしたりするのは酸化が進んだサインであり、添加剤が消耗していることも考えられる。
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