ブレーキパイプ
ブレーキパイプは、マスターシリンダで発生した油圧を各車輪のキャリパまたはホイールシリンダへ伝達する金属配管である。高圧下でも体積変化や伸びが極小であること、熱・腐食・振動・石跳ねに耐えること、車体取り回しに応じて精密に曲げ加工できることが要求される。一般に車体下部やエンジンルームの壁面、フロアトンネル沿いにクランプ固定され、可動部直前はゴム製のブレーキホースへ接続してサスペンションのストロークに追従させる。
役割と油圧伝達の基本
ブレーキパイプは油圧損失を抑えて応答遅れを最小化する導管である。直径や内面粗さ、配管長、曲げ半径は圧力降下と流動抵抗に影響し、ペダルフィールや制動力の立ち上がりに関わる。パイプは剛性が高く膨張が少ないため、ゴムホース主体の系に比べ熱影響下でも踏力に対する制動力の比例関係を保ちやすい。
材料と表面処理
- 二重管構造の低炭素鋼(ダブルウォールスチール)が一般的で、耐圧と成形性のバランスに優れる。
- 耐食性向上のため亜鉛系や合成樹脂(PVF)被覆を施す。塩害地域では銅ニッケル合金が選ばれる場合がある。
- エンジン近傍では熱シールドを併用し、長期にわたり内外面の劣化を抑制する。
寸法と成形
ブレーキパイプの外径は乗用車でおおむね4.75mm級が多く、用途により肉厚・径を選定する。配索では最小曲げ半径や干渉、整備性、排気・路面熱からの距離を検討し、専用ベンダと冶具で再現性の高いRを付ける。クランプ間隔は共振や擦れを避けるよう等間隔で設定する。
継手・フレア形状とねじ
端末はダブルフレアやバブルフレアで成形し、座面とナットで密封・保持する。ねじは車種・地域でメートル細目やUNFが使われ、相手側のブレーキマスターシリンダ、比例弁、分岐ブロック、キャリパのポート規格と一致させる必要がある。再使用時は座面傷と雌ねじの摩耗を点検する。
系統構成と安全設計
現代車は2系統以上に分割したデュアル回路とし、一系統の損失時でも残余制動を確保する。ABSユニットやESCユニットが介在する場合、モジュール入出力間もブレーキパイプで接続され、リターンラインやアキュムレータとの配管長・容積が制御応答に影響する。
腐食・損傷と保守
- 飛び石や錆の進行でピンホールが生じると急激に油圧低下する。アンダーカバー脱落やクランプ欠落は早期劣化の原因となる。
- 塩害地域では被覆損傷部から腐食が進むため、清掃と防錆塗布、定期点検が不可欠である。
- 交換後は確実なエア抜きを行い、ペダルストローク・漏れ・継手トルクを検査する。
製造・整備で用いる工具
量産ではNCベンダと端末フレア加工機を用いて高精度に一体成形する。整備現場ではハンドベンダ、フレアリングツール、チューブカッタ、デバリング工具、トルクレンチを使用する。ナット固着時はラスペネやヒートガンを併用しつつ、相手部品のねじ山を損なわないよう対向レンチで反力を取る。
取り回しとNVH
配管は高温源・可動部・角部から離し、フローティング支持で共振を避ける。車室侵入位置はグロメットで気密・防水を確保し、ボディ剛性や振動モードに応じてクランプ剛性と間隔を最適化する。これによりペダルの微振動や作動音の伝播を低減できる。
関連部品との関係
ブレーキパイプは踏力入力源であるブレーキペダル、負圧補助のブレーキブースター、圧力源のブレーキマスターシリンダ、可動部接続のブレーキホースと連携する。操舵系のクリアランス確保ではラックアンドピニオンやタイロッドの動きも考慮し、干渉と熱影響を避けて配索する。
不具合例と診断
- ペダルが軽く踏み代が増大する:漏れや継手ゆるみ、腐食孔が疑われる。
- 偏った制動:片系統の漏れ、ABSモジュール近傍の詰まり、フレア不良。
- 滲み跡:クランプ付近の擦れ、石跳ね、被覆剥離部の点錆。
設計上の留意点
熱・腐食・機械的損傷の三要因を同時に低減するレイアウトを基本とし、工程差異を吸収できる公差設計と再現性の高い加工図を整備する。車種派生や地域仕様差に応じて材料・被覆・継手規格をモジュール化し、品質保証では耐圧・パルス・塩水噴霧・耐石はねなどの試験を組み合わせて耐久性を検証する。