ブレーキブースター
ブレーキブースターは、運転者の踏力を増幅し、マスターシリンダ内の油圧を効率よく立ち上げる補助装置である。主流は吸気負圧を利用する真空式で、ディアフラムの圧力差によりペダル踏力を数倍に増幅する。近年はターボ車や電動化の進展に伴い、電動ポンプや電動アクチュエータを用いる電動式(いわゆるe-booster)も普及している。ブレーキブースターの設計は、ペダルフィール、初期応答、制動距離、安全性(冗長性)に直結し、ABS/ESCとの協調制御や騒音・振動(NVH)対策も重要となる。
構造と作動原理
ブレーキブースター(真空式)は、前後2室に分かれたハウジング、柔軟なディアフラム、プッシュロッド、バルブ機構、反応ディスクで構成される。エンジンの吸気負圧または電動バキュームポンプにより両室を負圧に保持し、ブレーキペダル操作でバルブが開くと大気圧が一方の室に導入され、圧力差が膜を押してロッドを前進させる。これによりマスターシリンダのピストンが押し出され、油圧が上昇する。チェックバルブにより逆流を防ぎ、エンジン停止時も一定の負圧を保持する。
反応ディスクとアシスト比
ペダルからの機械力とディアフラムからの補助力は反応ディスクを介して合成される。ディスクの硬度やバルブの開度特性を最適化することで、初期の「効き始め」から強い制動まで連続的なペダルフィールを得る。アシスト比は主として直径(有効面積)、負圧量、レバー比で決まり、車種ごとに狙いの踏力(例:500〜700N相当)と制動Gに合わせて定義する。
種類と特徴
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真空式ブレーキブースター:構造が簡潔で信頼性が高い。吸気負圧源が乏しいダウンサイジングターボやHEV/EVでは電動ポンプ併用が一般的。
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油圧式(ハイドロブースター):パワステポンプ圧を利用し高いアシストを得る。大型車や補機負荷の大きい車両で有効だが、ステアリング系統の健全性に依存する。
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電動式(e-booster):モータ+ボールねじ等で直接マスターを加圧し、ECUがトルク指令でアシストを制御する。真空不要で、ACC/自動緊急ブレーキや回生協調との統合に優れる。冗長回路や機械バックアップを備え、ISO 26262に適合させる。
性能指標と設計要件
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ペダルフィール:初期応答、剛性感、線形性、ヒステリシス。反応ディスク、バルブ流量、レバー比が主因である。
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アシスト能力:圧力立上り速度、到達圧、連続作動時の熱影響。FMVSS 135やECE R13Hの制動性能要件を満たすこと。
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NVH:吸気導入音、ポンプ作動音、ハウジング共鳴の抑制。ブラケットやバルクヘッドの剛性も寄与する。
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パッケージング:直径・長さ・取付角度。衝突時の後退量制限、エンジン/バッテリー搭載スペースとの干渉回避。
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機能安全・冗長:電動式では電源二重化、DTC監視、フェイルサイレント/フェイルオペレーショナル設計が要件となる。
診断と故障モード
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負圧漏れ:アイドル不調、シューッという吸気音、ハードペダル、制動距離悪化。ホース破断やチェックバルブ不良が典型。
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バルブ/ディアフラム不良:初期応答遅れ、踏力の段付き、戻り不良。内部シール損耗や膜破れを点検する。
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油圧式異常:ポンプ吐出低下でアシスト喪失。ステアリングが同時に重くなることが診断手がかりである。
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電動式異常:センサ異常やモータ過熱でDTC発生。フェイルセーフで機械アシストへ遷移し、踏力増大で継続走行可能とする。
保守・交換・適合
ブレーキブースター交換時は、プッシュロッド長の基準化、バルクヘッドへの締結トルク、ロッドとマスターの同軸度を確保する。真空ラインは耐油・耐熱ホースとし、ワンウェイバルブの流向を厳守する。電動式ではECUの初期化・学習が必要となる場合がある。整備後はライン内の残留空気や作動点のずれを点検し、ABS/ESC動作下での再評価を行う。
関連部品・システムとの関係
ブレーキブースターはブレーキペダルのレバー比、マスターシリンダ径、パッド摩擦係数、タイヤ路面μと総合的に最適化する。油圧式ではパワステポンプと負荷配分が関係し、電動式では車両の12V/48V電源設計や回生協調制御に関与する。ステアリング系ではラックアンドピニオン、タイロッド、ナックル、操舵柱であるステアリングコラムなどのレイアウトがブースターのパッケージに影響する。電動化車両ではEPSモーターの省エネ化と併せて真空依存からの脱却が進む。