ABSユニット|車輪ロックを防ぎ制動を最適化

ABSユニット

ABSユニットは、急制動時に車輪がロックして操舵性と安定性を失うことを防ぐ制御装置である。油圧回路を内蔵したHCU(Hydraulic Control Unit)と演算処理を担うECU、駆動源となるポンプモータと各輪の電磁ソレノイドバルブ、圧力センサやリレー等で構成され、車輪速センサからの信号に基づきブレーキ液圧を高速に増圧・保持・減圧する。これにより路面μが低下した場面やμ差の大きい路面でも、ステアリング応答を保ちながら制動距離の悪化を抑えることができる。実装はエンジンルーム付近が一般的で、耐熱・耐振・耐水性能が求められる。

構成要素と役割

  • ECU:各輪の滑り率を推定し、バルブとポンプをPWMで指令する演算中枢である。
  • HCU:油圧通路、インレット/アウトレットバルブ、アキュムレータ等を一体化した油圧モジュールである。
  • ポンプモータ:減圧時にリターンしたフルードを再加圧し、ペダルフィールの安定に寄与する。
  • 車輪速センサ:各輪の回転速度を高分解能で検出する。磁気式やアクティブ式が主流である。
  • 配線・リレー・ヒューズ:電源品質と安全遮断を担い、過電流や短絡から回路を保護する。

作動原理

ABSユニットは、車輪速から計算される滑り率がしきい値を超えると介入する。基本動作は「減圧→保持→増圧」の3段階で、各輪のバルブを高速に開閉して圧力を微細制御する。周期はおおむね10〜20Hzで、路面状況に応じてフィードバックゲインとデューティ比が適応される。μスプリット路では左右制動力の差を抑え、直進性を維持するよう制御が組まれている。

制御チャネル構成

  1. 4チャネル独立制御:各輪を個別に制御する方式で、乗用車で主流である。
  2. 3チャネル制御:前輪独立+後輪一括制御。構造簡素で小型商用等に採用例がある。
  3. 1または2チャネル制御:原付・軽量車両や特殊用途で採用され、コストとスペースを優先する。

関連機能との統合

ABSユニットはEBD(電子制動力配分)、TCS(トラクション制御)、ESC(横滑り防止)とハード・ソフトを共有する。ESCではヨーレートセンサや横加速度センサを加え、各輪の制動力配分で姿勢を安定化させる。統合化により制御パラメータの一貫性と診断性が高まり、配線・重量の最適化も図れる。

設計・規格・安全

機能安全ではISO 26262に準拠してASILを割り当て、故障モード・影響解析(FMEA/FMEDA)と安全機構(ウォッチドッグ、電源監視、冗長チェック等)を設ける。法規・評価は各市場の基準(例:制動性能規則、耐環境試験規格)に適合させる。自己診断はDTCで管理し、通信はCANを用いるのが一般的である。

診断とメンテナンス

  • スキャンツール:DTC読出し、作動テスト、エア抜きモード起動等を実施する。
  • 配線点検:ハブ付近のハーネス断線やカプラ腐食は頻出不具合である。
  • センサギャップ:取付ずれや鉄粉付着は信号歪みの原因となる。
  • ブレーキフルード:DOT3/4の交換管理を行い、吸湿による沸点低下を防ぐ。

故障モードと症状

ABSユニットの故障では、警告灯点灯とフェイルセーフによりベースブレーキのみで走行可能となる。低速時のジャダー感、作動時のモータ作動音、ペダル反力の脈動は仕様上の挙動であるが、継続点灯や圧漏れ、偏った介入は点検を要する。リビルトや交換時にはコーディングや初期学習が必要な場合がある。

選定・搭載時の注意

搭載では高温部からの距離、排熱経路、振動モード、配管最短化、NVH対策を考慮する。ブラケットは固有振動数の分離を図り、共振を避ける。コネクタは逆挿し防止と防水性(IP等級)を確保し、液溜まりや水打ちを避ける配置とする。配管取り回しはエア噛みを抑える緩やかな立上りを基本とする。

製造・評価

  • EOL試験:漏れ、作動圧、応答時間、電流値、ノイズ等を全数検査する。
  • 耐環境:熱衝撃、湿熱、塩水噴霧、耐振、耐落下等で信頼性を検証する。
  • HILS:車両モデルで制御ロジックを事前検証し、車両テストの負荷を低減する。

用語と略語

HCU(油圧制御ユニット)、ECU(電子制御ユニット)、PWM(パルス幅変調)、DTC(診断故障コード)、EBD(電子制動力配分)、TCS(トラクション制御)、ESC(横滑り防止)、μスプリット(左右路面摩擦差)、スリップ率(相対滑り量)、キャビテーション(急減圧時の気泡化)を指す。これらの相互理解がABSユニットの設計・整備品質を左右する。