適応制御|不確かさに応じゲインを自動調整

適応制御

適応制御は、被制御系のパラメータや外乱が時間とともに変化・不確かでも、オンライン推定と制御則の更新により所望の性能を維持する手法である。モデル不確かさが大きい実機、試作段階の装置、劣化や摩耗が進む機械に有効で、固定ゲイン設計が直面しがちな性能劣化や過大な安全余裕の付与を抑える点に特徴がある。

定義と狙い

適応制御の狙いは、未知または変動するパラメータの下でも安定性と追従性能を両立することである。閉ループの枠組みはフィードバック制御に属するが、制御器パラメータをオンラインで更新する点が決定的に異なる。代表的には参照モデルを用いる方式と、プロセス同定に基づき制御器を再設計する方式がある。

基本構成(直接法と間接法)

直接法では制御器(例:適応ゲイン)を誤差から直接更新する。一方、間接法ではオンライン同定(ARXなど)でプラントのパラメータを推定し、その推定値を用いて制御器を再計算する。前者は更新則が簡潔で高速、後者は物理解釈や制約の組込みが容易という利点をもつ。

代表法1:モデル規範型(MRAC)

MRACは望ましい応答を与える参照モデルを定め、出力誤差がゼロに収束するように適応則を設計する。MIT規則やLyapunov法に基づく適応則が広く用いられる。正規化や投影などの修正を加えることで、スケール依存や推定値の暴走を抑制することができる。

代表法2:自己チューニングレギュレータ(STR)

STRは離散時間でのオンライン同定(RLS等)によりプラントモデルを更新し、その都度、極配置や最小分散制御などの設計則で制御器を再計算する。測定ノイズ下でも実装しやすく、実プロセスのデジタル制御に適する。

パラメータ推定と同定(RLS/LMS)

RLSは忘却係数で古いデータの影響を減らしつつ高速収束を実現する。LMSは計算負荷が軽く、低リソース環境で有効である。投影法により推定値を物理的妥当範囲に拘束し、正規化で入力スケールの違いによる更新の不安定化を緩和する。

安定性解析と適応則(Lyapunov, MIT規則)

Lyapunov関数を構成し、その時間微分が負半定となる更新則を導くと、信号有界性や誤差収束の性質を議論できる。MIT規則は感度最小化の観点から更新を定めるが、スケーリングに敏感であるため正規化やσ修正の併用が実務上重要である。

実装上の課題と対策(正規化・投影・σ修正)

実装では、ノイズや外乱で推定が漂遊しないよう、更新にデッドゾーンやσ修正を入れる。パラメータ制約は投影法で扱う。演算飽和にはアンチワインドアップを併用し、サンプリング周期とフィルタの位相遅れを見積もって設計に反映する。

持続的励起(PE)と収束性

パラメータ同定の一意性や収束速度には、入力信号が十分に情報量を含むこと(PE条件)が重要である。必要に応じて微小な探査信号を重畳し、作業点周りの興奮度を確保する。PEが欠ける場合、追従はするが推定収束は保証されないことがある。

飽和・外乱・ノイズへの配慮

アクチュエータ飽和は等価的な非線形性を生み、誤差増大と推定の偏りを招く。アンチワインドアップ、出力制限、ロバスト修正を組み合わせる。周波数領域の検証にはボード線図ナイキスト線図を用い、ゲインマージン位相余裕を確認する。

実用例(ロボット・航空・プロセス・電力変換)

適応制御はロボットの負荷変動、サーボモータの摩擦変動補償、航空機の空力係数変動、化学プロセスの時変特性、電力変換器のパラメータ温度依存に適用される。位置・速度制御ではPID制御を基盤に適応ゲインを付与する応用も多い。

設計フロー(手順)

  1. 性能仕様(整定時間、オーバーシュート、定常偏差)を定め、基準となる参照モデルを選ぶ。
  2. 直接法か間接法かを選択し、測定できる信号と演算資源を見積もる。
  3. 同定法(RLS/LMS)や適応則(Lyapunov/MIT)を決め、正規化・投影・σ修正・デッドゾーン等の保護を設計する。
  4. 飽和・量子化・遅延をモデル化し、アンチワインドアップやフィルタを組み込む。
  5. オフライン検証で周波数応答を評価し、フィードバック制御の安定余裕を確認する。
  6. 実機試験で安全域から段階的に広げ、必要なら入力の興奮度を高める。

ゲインスケジューリングとの違い(補足)

ゲインスケジューリングは作業点ごとにゲイン表を用意し補間で切替える。一方適応制御は運転中に推定・更新を行い、未知の時変や未経験領域にも連続的に追従できる。実務では両者を組み合わせ、スケジュールを初期値とし適応で微調整する構成が多い。なお可搬ロボットやステッピングモータ駆動でも同様の考え方が用いられる。