PID制御|フィードバックで高精度位置決め

PID制御

PID制御は、比例(P)、積分(I)、微分(D)の3要素を組み合わせて偏差を逐次補正する代表的なフィードバック制御である。目標値とプロセス値の差である偏差を入力とし、Pで即応性、Iで持続的な偏差の解消、Dで変化の予見的抑制を担う。単一の制御対象から多変量プロセスまで広く適用でき、温度・流量・速度・位置などのプロセスにおいて、実装容易性と調整容易性、ロバスト性のバランスが良い点が強みである。またデジタル実装が標準化し、PLCやマイコン、ドライブ装置に標準機能として搭載される。

基本概念

PID制御の3要素は役割が明確であり、Pは偏差に比例した操作量を生成し、Iは偏差の累積に基づき定常偏差を除去し、Dは偏差の傾きに応じてオーバーシュートや振動を抑える。各ゲインは相互作用するため、Pを上げると応答は速くなるが振動しやすく、Iを強めると定常誤差は減るがオーバーシュートを招きやすい。Dは雑音増幅を避けるために微分フィルタ(1次ローパス)と併用するのが通例である。

  • P:比例動作。感度と速応性を規定する。
  • I:積分動作。オフセット除去と負荷外乱抑制を担う。
  • D:微分動作。予見的制動でオーバーシュートを抑える。

数式表現と離散化

連続系では、操作量u(t)=Kp{ e(t)+1/Ti∫e(τ)dτ+Td de(t)/dt }で表す。実機ではサンプリング周期Tsで離散化し、位置形や速度形で実装する。速度形は操作量の増分を計算するため、アクチュエータの飽和時に有利であり、アンチワインドアップも適用しやすい。微分はd(e)/dtではなくd(PV)/dtを用いる実務慣行もあり、測定雑音に対する頑健性を高めるためにフィルタ係数Nを持つ微分器(いわゆる“dirty derivative”)が広く使われる。

チューニング手法

PID制御のゲイン整定は性能を左右する。経験的にはZiegler-NicholsやCohen-Coon、λチューニング(IMC整定)がよく用いられ、近年はオートチューニング機能が一般化した。対象がデッドタイム優勢の場合は、Smith予測器との併用やIを弱めたPI主体の設計が有効である。制御目的(応答速度、オーバーシュート、外乱抑制、エネルギ効率)に応じて重みを変えるのが実務的である。

  • ステップ応答同定:一時遅れ+むだ時間(FOPDT)で近似しIMC整定。
  • 限界感度法:臨界ゲインKcと臨界周期PcからZ-N表で初期値取得。
  • 閉ループ整定:位相余裕・ゲイン余裕目標で反復調整。

安定性と周波数領域設計

ボード線図でクロスオーバ周波数と位相余裕を指標にすると、応答速度と安定性のトレードオフが可視化できる。P増加は帯域を広げるが位相余裕を縮め、Iは低周波ゲインを稼ぐ一方で位相を遅らせる。Dは位相を進め高周波ゲインを上げるため、センサ雑音を増幅しないよう微分フィルタが必須である。ノッチやリードラグ補償の併用も実務では一般的である。

実装上の注意点

アクチュエータ飽和時の“積分飽和”は大きなリスクであり、アンチワインドアップ(クランプ、バック計算、条件付積分)を必ず実装する。サンプリング周期は対象の主要ダイナミクスの1/10〜1/20程度を目安に選び、A/D分解能やセンサ雑音に応じてデジタルフィルタを設計する。配線遅延や演算遅延は等価むだ時間として利得余裕を圧迫するため、ゲインを控えめにするか予測補償で対応する。

応用分野

PID制御は温度炉、撹拌槽の流量・圧力、モータの速度・位置、搬送系の追従、半導体製造の薬液温調やガス流量制御などで標準的に使われる。機械系では締結部や軸受の剛性・摩擦が見かけのモデルに影響するため、ゲインは慣性・粘性を意識して設定する。例えば締結部の固有振動を避ける設計では、部材やボルト締結条件の見直しとDの適正化が効果的である。

拡張と実務的テクニック

フィードフォワードを併用すれば大外乱に対する先回り補償が可能で、モデル誤差はフィードバックが吸収する。多段カスケード(外側:速度、内側:電流)やデカップリングで多入力多出力系にも適用範囲が広がる。離散化ではTustin法が一般的で、ゼロ次保持の影響を考慮して帯域設計する。制御対象が非線形なら、ゲインスケジューリングやリミッタ、デッドバンドを組み合わせてロバスト性を確保する。

歴史と普及

産業界では空気圧式レギュレータの時代から比例・復元の概念が活用され、電子式を経てマイコン実装が主流になった。現在はドライブやDCS、PLCに標準機能として実装され、オートチューニング、制御モード切替(P/PI/PID)、ゲインスケジューリング、リミッタ群が一体化して提供されている。

設計フロー(実務例)

  1. 安全に配慮して手動運転で対象の入出力範囲と制約を把握する。
  2. 開ループ試験でFOPDT近似を取得し初期ゲインをIMC整定で算出する。
  3. 閉ループ化し、位相余裕≥45°、オーバーシュート目標以下に合わせる。
  4. 外乱試験でIを微調整、Dと微分フィルタで立上りと振動を整える。
  5. 飽和・非常時の挙動、アンチワインドアップ、フェイルセーフを確認する。

デジタル実装の注意(離散PID)

位置形は操作量の絶対値を計算するため直感的だが、飽和復帰時に大きく跳ねやすい。速度形は増分演算のため滑らかで、外部リミッタと相性が良い。固定小数点ではスケーリングとオーバーフロー対策を行い、演算遅延をむだ時間として見積もる。最終的には実プラントの安全限界内で段階的に利得を上げ、目標の帯域・ロバスト性に到達させるのが実務的アプローチである。