ボード線図
ボード線図(Bode plot)は、線形時不変(LTI)システムの周波数応答を対数周波数軸に対して表示する図であり、ゲイン(振幅)と位相の2枚のグラフから構成される。ゲインは通常デシベル[dB]で、横軸は10進対数の周波数で表すため、広い帯域の挙動を一望できる。ボード線図は極(pole)や零点(zero)の配置と直線近似(アシンポトート)を用いることで、設計段階でも運用・保守段階でも迅速に安定性・応答性の見通しを与える指標である。
基本構成と読み方
ボード線図は、(1)ゲイン特性と(2)位相特性からなる。ゲイン特性は|G(jω)|を20log10でdB化し、位相特性は∠G(jω)を度[°]で表す。横軸は周波数ω(またはf)の対数軸で、コーナー周波数(折れ点)を基準に傾きが変化する。低周波から高周波へ辿ることで、直流ゲイン、帯域幅、ゲイン交差周波数、位相交差周波数などの要点を読み取る。
伝達関数と周波数応答
LTIシステムの伝達関数G(s)にs=jωを代入すると周波数応答G(jω)が得られる。ボード線図はG(jω)の大きさと位相を分離して描くため、微分要素・積分要素、一次遅れ・二次遅れ、むだ時間など、各要素が周波数ごとに与える効果を個別に把握できる。結果として、制御対象とコントローラを直感的に合成する土台となる。
直線近似(アシンポトート)の活用
ボード線図では、各極・零点がコーナー周波数を境にゲイン傾きを±20dB/dec(一次)ずつ変化させる近似が有効である。位相も各コーナーの前後1デケード程度で±90°へ滑らかに遷移する。実線は厳密値、破線は直線近似とし、手計算や設計初期の見積りで役立つ。特に複素共役極ではピークやオーバーシュートが生じやすく、減衰係数ζが小さいほどゲインの盛り上がりが顕著になる。
安定余裕:ゲイン余裕と位相余裕
ボード線図からは安定余裕を定量化できる。ゲイン余裕は位相が−180°となる周波数でのゲインの余裕量[dB]、位相余裕はゲインが0dBとなる周波数での位相の余裕角[°]である。十分な余裕は外乱・モデル誤差・むだ時間に対する頑健性を与えるが、過度に大きいと応答が鈍化する。実務では位相余裕30〜60°、ゲイン余裕6〜12dB程度を一つの目安とし、用途に応じて最適化する。
設計手順の要点(PIDを例に)
- 目標帯域(ゲイン交差周波数)を設定し、ノイズ増幅やアクチュエータ制限と両立させる。
- Pゲインで0dB付近の傾きを整え、Iで低周波ゲインを持ち上げ定常偏差を除去、Dで高周波の位相を先行させ余裕を稼ぐ。
- 補償器の零点・極をコーナーに合わせ、ボード線図の直線近似で傾きと位相のバランスを調整する。
- 最終的にゲイン余裕・位相余裕、帯域幅、ロバスト性を総合評価する。
実験的な取得とモデル同定
実システムでは、正弦掃引(Sine sweep)や擬似ランダム信号からの周波数応答推定でボード線図を得る。測定時は入力振幅を小さく保ち非線形領域を避ける、センサ雑音と量子化ノイズへの配慮、温度・負荷など運転条件の固定が重要である。得られた応答から極零近似を行い、簡潔なG(s)へ落とし込むと設計・解析が容易になる。
ナイキスト・ニコルスとの関係
ナイキスト線図は複素平面上で周波数応答を極座標的に描き、ボード線図はデカルト的に分離して描く。両者は等価情報を異なる表現で示しており、安定判別や余裕の直観はナイキスト、帯域や傾きの整形はボード線図が得意である。ニコルス線図はゲインと位相を1枚に重ねた表示で、設計者の好みに応じて使い分ける。
むだ時間・共振・ノイズの影響
むだ時間は位相を線形的に遅らせ、特に高周波で位相余裕を急速に減少させる。共振モードは狭帯域でゲインが突出し、振動・騒音・疲労の源となる。高周波ノイズは微分要素で著しく増幅されやすく、ボード線図上では0dB越えや過度の位相先行として現れる。ローパス・ノッチ・リード/ラグ補償を適切に配置し、必要帯域のみを通す設計が肝要である。
設計上の実務的チェックリスト
- 交差周波数付近の傾きが−20dB/dec程度に収まっているか(過度な−40dB/decは位相余裕を削る)。
- 低周波ゲインは追従・外乱抑圧に十分か(I要素の入れ過ぎは位相余裕を悪化)。
- 高周波でのゲインはノイズ・量子化・アクチュエータ制限に対して抑えられているか。
- むだ時間・モデル不確かさに対してゲイン余裕・位相余裕が確保されているか。
一次・二次要素の典型パターン
一次遅れはコーナーより低周波で0dB傾き、以降−20dB/decと−90°へ遷移する。二次遅れは−40dB/decと−180°へ向かい、減衰が小さいほどゲインピークが生じる。リード補償の零点は交差周波数付近で位相を先行させ、ラグ補償の極は低周波ゲインを補う。これらの組合せをボード線図上で視覚的に整えると、所望の過渡特性とロバスト性の両立が図れる。
数値例とスケール設定の注意
周波数軸は必要帯域を中心に2〜3デケード余裕を持たせると折れ点・交差点が読みやすい。ゲイン軸は0dB近傍の解像度を確保し、位相軸は−180°近傍の余裕角が判別可能な範囲にする。数値例では、目標帯域を100rad/sとし、零点を10〜50rad/s、極を300〜1k rad/sに配置することで、ボード線図上の傾きと位相を滑らかに接続できる。
ソフトウェアと実装
解析・設計には数値計算環境や回路/制御用ツールが有効である。伝達関数モデルからボード線図を自動描画し、感度解析や最適化で余裕と帯域を同時に満たす解を探索できる。実装時は量子化周期、零次ホールドの位相遅れ、離散化による高周波挙動の変化をボード線図で再確認し、連続設計と乖離しないよう配慮する。