ハードウェア設計
工学製品の機能・性能・信頼性・コストを満たすために電子回路・機構・熱・電磁適合を統合的に作り込む活動をハードウェア設計と呼ぶ。対象はデジタル/アナログ回路、電源、プリント基板、センサ/アクチュエータ、筐体や放熱部材まで広がる。要求仕様からアーキテクチャを定義し、部品選定、回路図作成、SPICE系シミュレーション、PCBレイアウト、試作・評価、量産最適化へと段階的に進める。設計ではPI/SI、EMC/EMI、熱、信頼性、規格適合、DFM/DFTといった制約を同時に満たすことが要諦である。
設計プロセス
- 要求定義:機能、性能、環境条件、法規・規格、コストとスケジュールを定める。
- アーキテクチャ:MCU/SoC、FPGA、電源階層、クロック、インタフェース(I2C/SPI/UART/Ethernet/PCIe)を構成する。
- 部品選定:入手性、寿命、温度範囲、データシート保証、EOLリスクを精査する。
- 回路設計:回路図を作成し、DC/AC/遷移/モンテカルロで余裕度を評価する。
- PCB:層構成、インピーダンス、差動・等長、リターンパス、デカップリングを設計する。
- 試作・評価: bring-up、計測、EMIプリチェック、信頼性試験を実施する。
- 量産最適化:DFM/DFT、コストダウン、歩留まり改善、治具化を行う。
アーキテクチャ設計
システム分割はノイズ、熱、コストに直結する。高周波デジタルはアナログ/電源から物理分離し、クロックツリーはジッタとスキューを管理する。電源ツリーはPMICやDC/DCとLDOの組み合わせで効率とリップルを両立する。インタフェースは伝送距離・速度・耐雑音で選び、終端方式やプロトコル冗長性も設計初期に決める。筐体側では固定や熱経路のためのボルト配置、シールド構造、保守性を見込んだ分割が重要である。
回路設計とシミュレーション
アナログは基準源、オペアンプ利得帯域、位相余裕、ノイズ密度を押さえ、ループ安定化と発振回避を設計する。デジタルはタイミングマージンとセットアップ/ホールド、メタステを考慮する。電源は負荷過渡、ソフトスタート、保護(OCP/OVP/TSD)を設ける。SPICE等で最悪条件・公差を再現し、温度係数や部品ばらつきを織り込む。はんだ付け実装では合金系やプロファイルが信頼性を左右するため、材料特性ははんだ合金を参照して設計する。
プリント基板設計(PCB)
スタックアップは特性インピーダンスとリターンパスを最短にし、ループ面積を最小化する。差動は等長・等間隔でクーポリングを制御し、層間ビアはスタブ除去やバックドリルで反射を抑える。デカップリングは周波数帯域別に配置し、電源プレーンは分割に慎重である。アナログ周りはガードリングやKelvin接続を用い、熱密度の高い素子下にはサーマルビアで熱拡散を確保する。
電源・熱設計
電源では効率・リップル・トランジェント応答・位相余裕をバランスさせる。負荷ステップに対するコンデンサ容量とESR、ループ補償、レイアウト寄生成分の管理が鍵である。熱はθJA/θJC、放熱器、熱界面材、気流設計で支配され、環境条件は設備の空調機や周囲の相対湿度の影響を受ける。部品のディレーティングを設け、ホットスポットを初期段階で除去する。
EMC/EMI対策
伝導/放射エミッションと感受性をCISPRやFCC準拠で評価する。フィルタ(LC/π)、コモンモードチョーク、シールド、グラウンドの多点/単点接続を状況に応じて設計する。クロック源や高速エッジは拡散スペクトラムやドライバ調整で尖鋭度を抑え、リターンパスの切断を避ける。ESD/EFT/サージの保護素子は配置と帰還経路が効果を左右する。プリチェック段階で失敗が続く場合は、基板分割やケーブル取り回しを見直す。
信頼性・安全・規格
FMEAで故障モードと影響・検出性を評価し、MTBFやアレニウスで寿命を見積もる。安全規格(UL/IEC/CE)、化学規制(RoHS/REACH)、品質(ISO 9001)に適合させる。高電圧系は沿面/空間距離を確保し、樹脂材料のトラッキングや絶縁破壊を避ける。機械部品や接合の強度は環境ストレス下で低下するため、温度サイクルや振動試験を計画に組み込む。樹脂/金属の衝撃特性は用途で異なるため、必要に応じてアイゾッド衝撃試験で確認する。
試作・評価と量産設計
試作段階ではbring-up手順、計測点、ログ取得を整備する。計測はオシロスコープやロジックアナライザでタイミング/ジッタ/ノイズを可視化し、冪等な再現性を確保する。DFTとしてJTAG/ICT/FCTを設計に埋め込み、量産検査のタクトを短縮する。DFMではランド形状、スルーホール熱抜け、シルク/マスク、部品高さ制約、実装機の能力を考慮する。部品EOLや代替承認フローもBOM管理に織り込む。
代表的な評価指標
- SI/PI:インピーダンス偏差、リターンパス連続性、電源リップル、過渡応答
- タイミング:セットアップ/ホールド、スキュー、ジッタ、アイマージン
- 熱:熱抵抗、温度マージン、ホットスポット面積
- EMI:放射/伝導レベルと規格マージン、感受性イミュニティ
- 信頼性:寿命推定、故障率、はんだ接合健全性(例:リフロー後の微小割れ)
- 製造性:歩留まり、タクト、検査カバレッジ、コスト
よくある不具合と対処
- 起動不安定:ソフトスタートとシーケンス、プレロードで改善。
- 発振:位相余裕不足や寄生成分が原因。補償再設計とループ短縮。
- ノイズ結合:リターンパス断、GND分割、ケーブル放射。配線/シールド見直し。
- ESD破損:保護素子の位置と帰還経路が不適切。最短GND経路へ再配置。
- 過熱:放熱経路不良。サーマルビア追加と気流強化、材料見直し。
- 環境影響:湿度由来の漏れ電流や腐食。評価時は加湿器や除湿器を使い条件を制御し、試験では水蒸気量も併記する。
以上のようにハードウェア設計は、仕様達成に必要な多面的制約を同時満足させる体系的実践である。設計初期のアーキテクチャ決定と根拠ある解析、検証容易性を織り込んだDFM/DFT、環境・規格適合の計画性が、開発リードタイム短縮と品質・コストの最適解を導く。