アイゾッド衝撃試験
アイゾッド衝撃試験は、振子式の衝撃エネルギーをノッチ付き試験片に与え、破断に要した吸収エネルギーから材料の衝撃強さを評価する方法である。主に熱可塑性樹脂を中心に用いられ、規格としてはISO 180およびASTM D256が代表的である。試験片は垂直に片持ちはりとして固定し、打撃子(ストライカ)がノッチ位置の上部を一定速度で衝撃する。得られたエネルギー値を試験片寸法で規定した量に正規化し、衝撃強さとして報告する。シャルピー方式と混同しやすいため、支持条件・ノッチの向き・単位系の差異を理解しておくことが重要である。
試験の目的と位置づけ
アイゾッド衝撃試験は、落下や衝撃的荷重が想定される部品の材料選定、配合検討、品質管理に有効である。とりわけ樹脂は温度・ひずみ速度・ノッチ感受性の影響が大きく、短時間で比較評価できる本試験の有用性は高い。一方、線形弾性破壊力学の靭性値(KICなど)とは物理量が異なり、設計用の破壊靭性を直接与えるものではない。
試験原理(片持ちはり・ノッチ効果)
振子の位置エネルギー差から求めた衝撃エネルギーEが、ノッチ先端の応力集中と高速曲げにより破断に費やされる。供試体は垂直にクランプ固定された片持ちはりで、ノッチは一般に打撃側に向ける(ISO方式)。ノッチ先端半径や角度(例:Vノッチ45°、先端半径約0.25mm)が脆性・延性の遷移に影響し、加工状態や吸湿・配向などの因子も結果に大きく寄与する。
規格と報告単位(ISO 180とASTM D256)
- ISO 180(プラスチック):吸収エネルギーEを断面積で割った衝撃強さaISを用いることが多く、単位はkJ/m2が一般的である。
- ASTM D256(プラスチック):ノッチ下幅で割った指標(Izod impact, notched)としてJ/m(またはft·lb/in)が用いられることが多い。
- 両者は定義・試験片寸法・ノッチ形状・支配因子が部分的に異なるため、単純比較は避け、同一規格・同一条件で比較する。
試験片と代表寸法
代表例として、ASTMでは全長約63.5mm×幅12.7mm×厚さ3.2mmの棒状試験片にVノッチを付す。ISOでは全長約80mm×幅10mm×厚さ4mmが多く、ノッチ深さや先端半径が規定される。成形条件(射出方向、ゲート位置)や二次加工(乾燥、切削ノッチの刃先状態)が結果に及ぼす影響は大きいため、ロット間の比較では前処理条件を厳密に統一する。
試験手順(概要)
- 装置点検:振子質量、打撃速度、摩擦補正機構、チャック剛性を確認する。
- 試験片検査:寸法、ノッチ形状・先端半径、表面傷を検査し、規格外は除外する。
- 調整:温度23±2℃、相対湿度50±10%(例)など標準環境で所定時間コンディショニングする。
- 固定:試験片を片持ちで確実にクランプし、ノッチ向きを規格に従って設定する。
- 打撃:所定の振上げ角から解放し、破断後の上昇角から吸収エネルギーEを求める。
- 計算:Eを規格で定める寸法量で除し、衝撃強さとして記録する。
データの読み方と落とし穴
- ノッチ感受性:同一材料でもノッチ形状の違いで結果が大きく変わる。VノッチとUノッチの混在比較は避ける。
- 速度・温度依存:低温・高速度で脆性化しやすい。必要に応じて温度系列で評価する。
- 摩擦補正:軸受摩擦・空気抵抗を装置の補正機構で差し引かないと、Eが過小評価される。
- 成形配向:射出成形品は流動配向の影響を受け、ゲートからの採取位置で値が変動する。
- 統計性:多本数測定し、外れ値確認と信頼区間を示すと比較の妥当性が高まる。
シャルピー衝撃試験との違い
シャルピー衝撃試験は水平の両支持はりで、中央に衝撃を与える点が最大の相違である。支持条件の違いは破断様式とエネルギー配分に影響し、同一材料でも数値は一致しない。用途選択の目安として、樹脂の等級比較や配合開発にはアイゾッド衝撃試験が広く用いられ、金属材料の評価ではシャルピー方式(ISO 148など)が主流である。
設計・材料選定への活用
家電筐体、スナップフィット、薄肉ヒンジなど衝撃が懸念される部位では、成形流動方向や厚み遷移部のノッチ感受性をアイゾッド衝撃試験で相対比較しておくとよい。ABSやポリカーボネートなど代表樹脂はデータが豊富で、改質(ゴム粒子、充填材)による延性化・脆化傾向もトレンドとして把握できる。ただし部品の実働衝撃は拘束条件・曲率・応力三軸性の影響を受けるため、実体試験やCAEと併用する。
装置・校正と試験管理
ストライカの先端形状、支点剛性、クランプ圧、振子エネルギー段階の適合性は結果の再現性を左右する。ノッチ溝の刃先摩耗は見落としやすく、顕微鏡で先端半径を定期確認する。破断様式の観察(完全破断、部分破断、白化、ロールオーバー)を記録し、写真や動画で保存すると不整合データの原因追跡に有用である。
関連概念と基礎力学
衝撃応答の理解には材料力学の基礎が不可欠である。例えばヤング率は弾性変形の指標であり、延性・脆性の遷移や応力集中と密接に関係する。金属系では鋼種や熱処理により靭性が大きく異なり、締結部品のようなボルト設計でも、切欠きや加工傷への注意が必要である。
参考規格と記載例
代表規格はISO 180およびASTM D256である。報告時は規格番号、方法(ノッチ有無、ノッチ形状、試験片寸法)、温湿度、試験速度(振子周速度)を併記し、単位系(kJ/m2またはJ/m)を明記する。同一銘柄の異ロット比較では前処理とノッチ加工条件を必ずそろえる。