イオンゲージ
イオンゲージは高真空から超高真空域の圧力を電離電流で測定する真空計である。熱陰極から放出した電子が気体分子を電離し、その生成イオン電流が圧力に比例する性質を利用する。測定下限は設計や清浄度に依存するが、一般に10^-6~10^-9 Pa級の評価に用いられ、超高真空装置の基準計として広く普及している。一方でガス種ごとの感度差や電極からの脱離・汚染の影響を受けやすく、校正と運用管理が計測品質を左右する。
定義と用途
本計は真空容器内に小型電極系を露出設置し、電子と気体分子の衝突電離により得たイオン電流から圧力を推定する計器である。10^-3 Pa以下の高真空域、とりわけ超高真空の立上げ・到達圧力の判定に適する。表示単位は国際的にはPaが標準であり、換算の基礎にはパスカル(Pa)が用いられる。粗圧領域では感度・線形性が崩れるため、粗真空域では別種の真空計と併用する。
測定原理
熱陰極から放出した電子をメッシュ電極で加速・捕捉し、気体分子と衝突させてイオンを生成する。生成イオンはコレクタへ引き寄せられ、得られるイオン電流Iiは圧力pと電子電流Ieに概ね比例する(Ii=S·p·Ie)。比例係数Sはガス種依存で、窒素基準値に対し水素やヘリウムでは感度が異なる。したがって計測値は「指示圧力」であり、目的ガスの感度係数で換算するのが原則である。
ベイヤード・アルパート型(B-Aゲージ)
代表形式はBayard-Alpert gaugeで、細線コレクタをメッシュグリッドの中心に配置する。X線誘起電流を低減でき、10^-8 Pa級までの指示に向く。細線の被覆や電極の清浄度が下限を左右し、電子衝撃デガスを適切に行うことで低圧測定の再現性が向上する。
構造と電極配置
- 熱陰極(フィラメント):WやIr系を用い、加熱で電子放出を得る。
- グリッド(イオン化空間):数百V程度で電子を加速・トラップする。
- コレクタ(イオン電極):数V~数十Vでイオンを収集し微小電流を測定する。
- 支持部:絶縁体と金属フレームで高電圧・超高真空の両立を図る。
校正と感度係数
ガス種で感度が変わるため、基準計との比較校正が不可欠である。特に10^-1~10 Pa程度では高精度基準としてキャパシタンスマノメータを用いて感度を合わせ、そこから高真空域へ伝搬校正する。装置ごとに感度係数表を保持し、測定時に指示圧力へ換算する運用が望ましい。
誤差要因と注意点
- X線効果:グリッドで発生したX線がコレクタを光電効果で励起し、見かけのイオン電流を与える。B-A構造やシールドで低減する。
- 脱離・汚染:電子衝突や加熱で電極からガスが放出され、指示にオフセットが生じる。定期的なデガスで安定化させる。
- 局所ポンピング:電極表面での吸着やイオンの二次作用により局所圧が変化し、容器平均圧との乖離が起こる。設置位置を配管の主流路から少し外すなどの配慮が有効である。
- ガス種依存:H2やHeは窒素基準より低感度になりがちで、補正が必須である。
デガス(脱ガス)
グリッド加熱や電子衝撃により電極を昇温し、吸着種を意図的に放出してから排気する操作をデガスという。デガスは測定下限やドリフトに効くが、過度な実施はフィラメント寿命を縮める。運用マニュアルに従い、排気が十分進み安全圧力であることを確認してから実施する。
使い分けと比較
高真空域では本計、10^-1~10^3 Paでは熱伝導式、強磁場や低保守を優先する場面では冷陰極式がよく用いられる。例えば、熱伝導ゲージは中真空の連続監視に適し、冷陰極ゲージ(ペニングゲージ)は可動部がなく強磁場下でも動作する。一方、イオンゲージは最も低圧まで読めるが電極の清浄維持が必須である。
安全と運用の要点
- 圧力インターロック:1 Pa以上での点灯はフィラメント焼損や汚染の原因となるため、上限圧で自動消灯する。
- ベーキング:装置全体のベークと併せて実施し、測定再現性を確保する。
- 磁場・帯電:強磁場や帯電は電子軌道を乱し感度が変化する。磁場の影響を受けにくい位置に取り付ける。
- ベント時の消灯:大気導入やプロセスガス導入時は必ず消灯する。
代表的仕様の目安
- 測定範囲:10^-3~10^-9 Pa(B-A型の一例)
- 感度係数S(N2基準):おおむね8~25 1/Pa
- フィラメント材:W、Ir系(被覆型を含む)
- デガス機構:電子衝撃またはグリッド加熱内蔵
選定チェックリスト
- 必要圧力範囲と到達圧の余裕
- 主要ガス種と感度係数の有無
- 磁場・放射線など外乱環境
- 設置位置(配管流路、ポンプ近傍の影響)
- 校正手段(基準計やリーク標準の準備)
- 保守要件(デガス・交換周期、汚染耐性)
真空システムとの関係
排気系の構成は指示安定性に直結する。たとえば油拡散型の主ポンプ(拡散ポンプ)では油蒸気の逆拡散管理が重要で、トラップや高真空バルブの運用で電極汚染を抑制できる。測定点は主流から外し、遮蔽やオリフィスで圧力勾配の影響を軽減するのが望ましい。
関連と補足
圧力単位の整合には国際単位系(SI)の理解が有効である。用途に応じて計器を併用し、領域全体を連続的に監視することが高品位プロセスの鍵となる。高真空域の指示にはイオンゲージ、中真空には熱伝導式、粗圧監視には機械式など、役割分担を明確にするとよい。
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