固体レーザ|多様な産業を支える高出力レーザ技術

固体レーザ

固体レーザとは、結晶やガラスなど固体のレーザ媒質を用いて光を増幅・発振させるレーザである。気体レーザーや半導体レーザーと並ぶ主要なレーザの一種であり、代表例としてネオジム(Nd)を添加したYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)結晶を用いるNd:YAGレーザが挙げられる。高出力が得られつつビーム品質も良好であるため、切断や溶接、マイクロマシニング、医療分野など多様な応用分野を持つ。特に工業用途では、ステンレスアルミニウム合金などさまざまな金属材料に対して安定した加工特性を示す。また、ファイバーレーザが登場する以前は高出力の固体レーザが産業界の主力となっており、現在でも変調(パルス発振)やQスイッチ技術と組み合わせることで、微細加工や医療応用の分野を中心に活用されている。

原理と構造

固体レーザの動作原理は誘導放出を利用した光増幅にある。まずレーザ媒質を励起(ポンピング)することで、励起エネルギーレベルに電子を遷移させ、人口的に反転分布状態を作り出す。その後、共振器内で光が往復する過程で媒質を透過すると、光子が媒質中の励起電子を誘導放出させ、新たな光子が生成されて増幅が進行する。励起源としてはキセノンランプやLD(レーザダイオード)などが使われるが、近年は効率や寿命の面でLD励起方式が主流となりつつある。結晶やガラスなどを適切な濃度で希土類元素(ネオジム、イッテルビウム、エルビウムなど)でドープすることにより、さまざまな波長帯で発振させることが可能となる。

代表的な種類

  • Nd:YAGレーザ:波長1.06μmで発振。切断や溶接、医療用レーザなど用途が広い
  • Nd:Glassレーザ:大口径ガラスにNdをドープ。超高出力パルスレーザに利用される
  • Yb:YAGレーザ:波長1.03μm程度。ファイバーレーザの増幅用結晶としても用いられる
  • Ti:サファイアレーザ:可視から近赤外域の広帯域発振。超短パルスレーザ発生に活用

特徴と利点

固体レーザはガスレーザや半導体レーザに比べて高いピークパワーを得られる場合が多く、パルス発振技術を組み合わせることで微細な穴あけや表面処理に適した超短パルスを形成できる。さらに、結晶やガラスといった固体媒質は耐久性が高く装置寿命も長いため、産業用途で長時間連続稼働する場合にも有利である。一方で、熱負荷が大きい場合は媒質が歪んだり光学特性が変化したりする恐れがあり、レーザ結晶の冷却機構や励起光源の制御が重要となる。また、発振波長が限られるため、目的に合わせた適切なドープ材や結晶の選択が必要である。

産業用途

固体レーザは、自動車や航空宇宙、電子部品製造など数多くの産業領域で応用されている。切断や溶接では、ビーム品質とパルス制御を活かすことで高精度かつ深い溶込みを実現し、様々な金属材質に対応できる。また、電子基板への微細加工やドリリング(穴あけ)では、Qスイッチによるナノ秒パルス発振からフェムト秒オーダーの超短パルス発振まで幅広い時間スケールでの制御が可能であり、熱影響を最小化して微細かつ高速な加工を行える。こうした特性から、微細なスクライビングや刻印、電子部品への直接描画など、従来の機械的加工では難しかった領域への適用が進んでいる。

医療分野での応用

固体レーザは医療分野でも広く活用されている。例えば、美容皮膚科で用いられるレーザ脱毛機器や皮膚治療用のレーザは、YAG結晶に波長変換クリスタルを組み合わせることで532nmや755nmといった特定の波長を得るケースが多い。また、歯科用レーザや眼科手術用レーザ(白内障手術や視力矯正)などでも、固体レーザの安定性と精密制御性が活きている。さらに外科手術の分野では、硬組織や軟組織を選択的に切除できるようパラメータを調整したシステムが開発されており、従来のメスを用いた切開では難しい部位へのアプローチを実現している。

安全対策

固体レーザは高エネルギーを扱うため、安全管理が重要となる。レーザからの強力な光が目や皮膚に当たると重大な障害を引き起こす可能性があるため、適切な遮光メガネや防護スクリーンを用いてビームおよび反射光を管理する必要がある。また、高出力で連続発振させる場合には、レーザ媒質や光学部品に過度な熱ストレスがかからぬように冷却水系や温度モニタリングを装備し、発振の安定性を保つシステムを構築することが望ましい。ガスや粉塵が発生する加工現場では換気を十分に行い、万一の火災リスクや発生ガスによる健康被害を最小化する対策も重要である。