鉱物油|石油を精製して得る潤滑・絶縁用の油

鉱物油

鉱物油とは、原油を蒸留・精製して得られる炭化水素系の油の総称である。石油系油とも呼ばれ、動植物から採れる油脂や化学的に合成される合成油と区別される。主成分は炭素数20〜40程度のパラフィン、ナフテン、芳香族炭化水素で、工業用の潤滑油や作動油、変圧器の絶縁油、化粧品や医薬品に使う流動パラフィンなど、用途は幅広い。価格が安く入手しやすいことから、現在も工業用油剤の大部分を鉱物油系の基油が占めている。

石油産業とともに広がった歴史

鉱物油が工業材料として本格的に使われ始めたのは、1859年に米国ペンシルベニア州で機械掘りの油井が成功してからである。当初は灯油を取り出すための精製が主目的で、残った重質分の使い道は限られていた。ところが19世紀後半に蒸気機関や紡績機械が普及すると、それまで潤滑に使われていた鯨油や菜種油は量も価格も追いつかなくなる。重質留分を精製した鉱物油がその代わりに使われるようになり、20世紀には自動車エンジン油の需要が増えて生産量が急拡大した。日本でも明治期に新潟・秋田の油田で国産化が始まったが、戦後は輸入原油を国内の製油所で精製する形が主流となっている。

原油から基油ができるまで

潤滑油用の鉱物油は、常圧蒸留で軽質分を取り除いた残油をさらに減圧蒸留にかけて得る。圧力を数kPa程度まで下げることで、本来なら350℃を超えて熱分解してしまう重質分を、分解させずに沸点の範囲ごとに分けられる。こうして得た留分には硫黄分、窒素分、不安定な芳香族が多く含まれる。そのため溶剤抽出で芳香族を取り除き、溶剤脱ろうでワックス分を除いて低温でも流れやすくする。近年は、高温・高圧の水素の中で分子構造そのものを組み替える水素化分解や水素化異性化が主流になりつつある。この方法なら硫黄分をほぼゼロにでき、酸化安定性も大きく高まる。

パラフィン系とナフテン系の性質の差

同じ鉱物油でも、原料原油の産地によって分子の組成は大きく異なる。中東産原油から作られるパラフィン系は温度による粘度の変化が小さく、エンジン油や油圧作動油に向く。南米産や北海産の一部の原油から得られるナフテン系は、流動点が低く、ゴムや樹脂をよく溶かす性質を持つ。性質の違いを以下にまとめる。

項目 パラフィン系 ナフテン系
粘度指数 95〜105程度 40〜80程度
流動点 -10〜-15℃前後 -30℃以下も可能
溶解力(アニリン点) 低い(アニリン点が高い) 高い(アニリン点が低い)
主な用途 エンジン油、作動油、タービン油 絶縁油、ゴム配合油、冷凍機油

API基油分類との関係

米国石油協会(API)は基油を5つのグループに分けている。グループⅠは飽和分90%未満または硫黄分0.03%超で、粘度指数80〜120の溶剤精製油を指す。グループⅡは飽和分90%以上・硫黄分0.03%以下の水素化精製油、グループⅢは粘度指数120以上の高度水素化分解油である。ここまでが鉱物油に分類される。グループⅣのPAO(ポリアルファオレフィン)とグループⅤのエステルなどは合成油にあたる。ただしグループⅢ油を「合成油」と表示して販売することは、1999年の米国での判断以降、市場で認められている。

合成油と比べたときの強みと弱み

最大の強みは価格である。品番や購入量によって差はあるものの、PAO系の合成油はグループⅠ・Ⅱの鉱物油に比べて数倍の単価になることが多い。一般的な工場では、油圧ユニットや汎用ギヤボックスを鉱物油で運用し、高温になる部位や長期間交換しない部位だけを合成油にする使い分けが一般的である。弱みとしては、100℃を超える環境で酸化が進みやすいこと、低温で粘度が急に上がることが挙げられる。そのため酸化防止剤や流動点降下剤などの添加剤で性能を補うのが前提となる。シール材との相性については鉱物油のほうが扱いやすい。ニトリルゴム(NBR)は鉱物油を少し吸って膨らむ程度だが、エステル系合成油に切り替えると膨潤量が変わり、漏れの原因になる事例がある。

製造現場での主な用途

工場で使われる鉱物油は、粘度グレードと添加剤の組み合わせによって役割が分かれる。粘度は粘度グレードを定めたISO 3448(JIS K 2001)に基づき、40℃における動粘度で「ISO VG 32」「VG 46」「VG 68」などと表される。代表的な用途は次のとおりである。

  • 油圧作動油:射出成形機やプレス機の油圧回路に使い、VG 32〜68が中心となる
  • 切削油:不水溶性切削油の基油として使い、極圧剤を加えてねじ切りやブローチ加工に用いる
  • 絶縁油:変圧器やコンデンサの冷却と絶縁を兼ね、JIS C 2320で規格化されている
  • 防錆油:鋼板やベアリングの一時的な防錆に使い、溶剤で薄めたタイプも多い
  • プロセス油:タイヤやゴム製品の柔軟性を調整するための配合油
  • 流動パラフィン:高度に精製した無色の油で、日本薬局方に収載され化粧品や食品機械にも使われる

法規制と取り扱い上の注意

日本では、鉱物油系の潤滑油の多くが消防法の危険物第4類に該当する。引火点が70℃以上200℃未満なら第3石油類、200℃以上250℃未満なら第4石油類となり、指定数量はそれぞれ非水溶性で2,000L、6,000Lである。引火点が250℃以上のものは指定可燃物の可燃性液体類として、市町村の火災予防条例で管理される。現場で見落としやすいのが、同じ場所に保管している複数の油の量を合算するルールである。作動油のドラム缶(200L)を10本並べると第3石油類だけで指定数量に達し、危険物貯蔵所の許可が必要になる。労働安全衛生の面では、精製度の低い鉱物油は多環芳香族を含み、皮膚に長期間触れると健康への影響が指摘されてきた。現在はIP 346法でDMSO抽出分3%未満の基油が主流となり、リスクは大きく下がっている。

使用済み油の処理

交換後の使用済み鉱物油は、廃棄物処理法上の「廃油」として産業廃棄物の扱いになる。水分や切りくずが混ざった切削油は、引火点と含水率によって特別管理産業廃棄物に分類されることもあり、マニフェストを交付して許可業者に引き渡さなければならない。回収した油の多くは、再生重油としてボイラー燃料に使われるか、再精製されて基油に戻される。種類の違う油を同じタンクに混ぜて回収すると再生しにくくなり、処理費が上がることがあるため、油種ごとに分けて回収する工場が増えている。

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