被覆アーク溶接|電極と母材との間に電気アークを発生させ融解・接合する

被覆アーク溶接

被覆アーク溶接とは、溶接棒に被覆材を施した電極と母材との間に電気アークを発生させ、その熱によって金属を融解・接合する溶接法である。電源装置と溶接棒、アースクリップなどを比較的簡易な構成で運用できるため、建築や造船、自動車の補修など幅広い産業分野で活用されている。被覆材が溶融時にガスやスラグを形成し、溶融金属を大気から遮断するとともに接合強度を高める効果がある。

概要

被覆アーク溶接は、被覆アーク溶接棒と溶接される母材をアーク溶接電源に接続し、溶接棒先端と母材との間にアークを発生させる方法である。溶接棒の先端がアーク熱で溶融し、その溶融金属が母材と混ざり合うことでビードが形成される。溶接棒の心線は主に軟鋼などが用いられ、心線の周囲には被覆剤(フラックス)が塗布されている。被覆剤が溶融・分解する際に発生するガスがアークや溶融プールを外気から遮断するため、溶融金属の酸化や窒化を防ぐ効果がある。

被覆アーク溶接の用途

  1. 軟鋼・高張力鋼の溶接を扱う。
  2. 比較的溶接線の短い中・厚板の、下向き・立(たて)向き・横向き・上向きの全姿勢溶接が可能である。
  3. 自動・半自動溶接前の仮付け溶接に向いている。
  4. 硬化・肉盛溶接を行う

被覆アーク溶接の特徴

  1. 安価な設備で、手軽にアーク溶接作業を行うことができる。
  2. 使用目的に応じて、多くの種類の溶接棒がある。
  3. 溶接速度が遅く溶込みが浅いなど能率的でないが、自動・半自動溶接を用いるほどではない短い溶接線の溶接に適している。
  4. 薄板の溶接に不向きである。
  5. 溶接品質が作業者の技術に依存する。

被覆材の役割と種類

強固な溶接部を得るためには、溶接中の溶融金属を外気にさらさないことが重要である。被覆アーク溶接では、電極に施された被覆材が融解・気化し、アーク周辺に保護ガスを生成することで酸素や窒素などの有害成分の侵入を防ぐ。同時にスラグを形成して不純物を集め、溶接金属の酸化や窒化を抑制する。被覆材にはセルロース系、酸性系、酸化チタン系、低水素系などがあり、溶接部の強度や溶着特性、作業性などに応じて選択される。

使用される電源と極性

電源には交流(AC)と直流(DC)があり、被覆アーク溶接の特性や母材の種類によって使い分けられる。一般的には直流正極性(DC+)を用いると、電極側が高温となり溶加量が多く、深い溶け込みを得やすい。一方で直流逆極性(DC−)は母材側が高温になりやすい特徴がある。交流はトランス式溶接機を用いる場合に適しており、電源装置が比較的安価であるため、個人事業者や小規模工場でも利用されてきた。ただし、安定したアークを得るにはある程度の技能が必要となる。

作業性と適用範囲

被覆アーク溶接は、構造が比較的単純な装置で行えることから屋外工事や高所作業でも利用しやすい特徴がある。また、シールドガスのボンベが不要なため、持ち運びや機器の設置が容易である。ただし、被覆材が燃焼・蒸発して生じるガスや煙が作業環境を悪化させる可能性があり、防塵・換気対策が欠かせない。薄板の溶接にはやや不向きで、溶接部が過度に溶け落ちるおそれがあるため、板厚によっては他の溶接法を検討する必要がある。

スラグ除去の重要性

被覆材が溶けて形成されるスラグは、溶融金属を外気から守り、溶接部の冶金的特性を向上させる役割を果たす。しかし溶接後は冷却固化して接合部を覆うため、適切に除去しなければならない。スラグが残ったままでは仕上がり面に凹凸が残り、外観品質の低下や塗装工程におけるトラブルが生じる可能性がある。手作業でチッピングハンマーを用いて剥がす場合が多いが、作業工数を増やす要因となるため、連続大量生産には向かない場合がある。

関連する溶接法との比較

被覆アーク溶接は、TIG溶接MIG溶接MAG溶接などのシールドガス方式に比べると、準備コストや機器メンテナンスの負担が軽減される利点を有している。しかし、スパッタスラグ除去に手間がかかり、作業効率の面ではやや不利である。さらに、硬化速度や温度管理が難しく、特に高張力鋼ステンレス鋼などを溶接する場合には入熱制御が求められる。一方、屋外や狭所など厳しい環境でもアークを安定的に維持できる点は大きな利点であり、インフラの修繕工事や現地での機器補修などに活用されている。

半自動溶接との比較

近年では、ワイヤ送給が自動化された半自動溶接が溶接作業の主流となっている。半自動溶接は作業性や生産性が高く、ビード形成の安定性も得やすい。一方、被覆アーク溶接は溶接棒の交換やアーク長の制御などをすべて手動で行うため、連続作業はやや非効率的である。しかし、屋外や持ち運びを要する現場では、機材がシンプルな被覆アーク溶接が重宝される。応用範囲の広さや機器の低コスト性から、特に補修作業や狭所・高所での溶接に強みを持つ。

代表的な被覆アーク溶接棒の種類

  • セルロース系: 高い浸透力とトンネル状のアーク特性を持つ
  • 酸性系: スラグ除去が容易で、ビード外観が良好
  • 酸化チタン系: アークの安定性が高く、取り扱いが簡易
  • 低水素系: 割れ感受性の高い材料に適し、高靱性を得やすい

コメント(β版)