焼結ブッシュ|自己潤滑性を持つ含油軸受部品

焼結ブッシュ

焼結ブッシュとは、金属粉末を金型で圧縮成形し、融点以下の温度で加熱して焼き固めた多孔質の円筒形すべり部品である。内部に体積比で12〜30vol%程度の気孔を持ち、ここに潤滑油を含浸させたものは焼結含油軸受(オイルレスベアリング)と呼ばれる。軸が回転すると摩擦熱とポンプ作用によって気孔から油がにじみ出て摺動面に油膜を形成し、停止すると毛細管現象で再び内部へ吸収される。この自己潤滑機構により給油なしで長期間使用でき、小型モーターやOA機器、家電、自動車電装品の回転支持部に年間数十億個規模で採用されている。

ボールベアリングとの使い分け

回転部の支持には転がり軸受であるボールベアリングや深溝玉軸受を用いる方法と、焼結ブッシュのようなすべり軸受を用いる方法がある。選定の分かれ目はコスト、スペース、負荷条件である。焼結ブッシュは単一部品で構成されるため、玉・保持器・内外輪からなる転がり軸受に比べて部品単価が数分の一に抑えられる。寸法面でも有利であり、内径8mmの場合、玉軸受では外径12mm程度が下限となるのに対し、焼結ブッシュなら外径10mmで成立する。振動吸収性が高く静粛である点も、ファンモーターなど騒音が問題になる用途で好まれる理由となっている。ただし高速・重荷重・高温環境には向かず、レーザープリンターのポリゴンモーター用に60,000rpmで使われる特殊例はあるものの、一般には低速・軽荷重域が適用範囲である。高剛性が必要な精密主軸では油圧ベアリング、限られた径方向スペースで高荷重を受ける場合は針状ころ軸受が選択される。

材質と規格

焼結ブッシュの材料はJIS Z 2550(焼結金属材料)で規定されており、大別すると銅系、鉄系、鉄銅系の3系統がある。銅系は青銅(Cu-Sn)を主体としたなじみ性の良い標準材で、許容面圧はおおむね10MPa以下である。鉄系は材料費が安く強度が高い反面、相手軸への攻撃性がやや強い。鉄銅系は両者の中間的な性質を持ち、許容面圧15MPa程度まで対応できるため、コストと性能のバランスから採用例が多い。摺動特性を高める目的で黒鉛(グラファイト)や二硫化モリブデンを添加した材料も実用化されている。

系統 主成分 許容面圧の目安 特徴
銅系 Cu-Sn(青銅) 〜10MPa なじみ性・耐食性に優れる標準材
鉄系 Fe 中〜高 低コスト・高強度、軸攻撃性に注意
鉄銅系 Fe-Cu 〜15MPa 性能とコストのバランスが良い

製造工程

製造は粉末冶金法による。原料粉の混合、金型への充填とプレス成形、焼結、サイジング、真空含浸の順で進む。成形ではハンドプレスとは桁違いの圧力を出す粉末成形プレスにより上下パンチで圧縮し、圧粉体をつくる。焼結温度は材質で異なり、銅系合金で約750℃、鉄系合金で約1130℃が目安とされる。融点以下で粒子同士を拡散接合させる点が鋳造との本質的な違いであり、せん断加工や切削のような除去工程をほとんど介さずニアネットシェイプで量産できるため、材料歩留まりが高い。量産実績としては外径139mm・全長90mmクラスの大物から、内径0.4mm・外径1.2mmという極小品まで対応例がある。

サイジングの役割

焼結後の製品を再び金型(ダイ)に入れて圧縮し、寸法精度を高める工程がサイジングである。内径公差を数μm単位に追い込むと同時に、表面気孔の開口状態を整えて油のにじみ出し量を制御する意味を持つ。素材を仕上がりより大きく作って型にこすりつけるポジティブ法と、小さく作って型面に押し付けるネガティブ法があり、プレス抜きと同様に金型精度が製品品質を直接左右する。

潤滑寿命とPV値

設計上の基準となるのがPV値である。面圧P(MPa)とすべり速度V(m/min)の積で表され、材質ごとに定められた許容PV値以下で使用しなければならない。寿命の考え方も独特で、含浸させた油が運転により消耗し、含油量の50%を失うと軸受性能が急激に低下して焼付きに至るため、そこまでの時間を寿命とみなすのが一般的である。実務では軸の表面粗さと硬さの管理が寿命を大きく左右する。軸側はHRC50以上に焼入れ研磨した鋼軸を推奨するメーカーが多く、粗い軸をそのまま使うと油膜が破断して早期摩耗を招く。

取り扱いと圧入時の注意点

焼結ブッシュはハウジングへ圧入して使う場合が多いが、多孔質体ゆえに圧入代を大きく取ると内径が縮み、軸との隙間が消失して回転不良を起こす。このため圧入後に内径をゲージで確認するか、あらかじめ収縮量を見込んだ寸法設計を行う。ハブベアリングのような一体ユニット品と違い、洗浄油や有機溶剤に浸すと含浸油が抜けてしまう点も現場で見落とされやすい。組立時の脱脂洗浄は厳禁であり、超音波洗浄も油の流出を招く。追加工が必要な場合も切削は気孔を潰して自己潤滑性を損なうため、原則としてメーカー段階での対応に委ねるのが安全である。

コメント(β版)