プレス抜き
プレス抜きは、板材をパンチとダイ(金型)でせん断し、所定の外形や穴を高速・高精度で生成する加工である。外形を切り出す「打抜き(blanking)」と、板内に穴を開ける「穴あけ(piercing)」を総称することが多い。せん断面には「だれ(Rollover)」「光沢面(Burnished zone)」「破断面(Fracture zone)」が形成され、その割合は材料、板厚、クリアランス、刃先状態、潤滑条件で決まる。生産性と寸法再現性に優れ、量産の板金部品や電機・自動車部品で広く用いられる。
原理と特徴
プレス抜きは、パンチが板材に食い込み塑性せん断を起こしたのち、応力集中によるぜい性破断で分離が完了する。クリアランスが適正であれば光沢面が安定し、寸法精度とエッジ品質が向上する。一般に鋼板、ステンレス、アルミ、銅合金などが対象で、単発型・順送型・複合型・トランスファ型などで工程を構成する。高品位が必要な場合はファインブランキング(FB)を適用し、せん断面全周を光沢化して二次加工を省略することもある。
工程と金型構成
プレス抜きの金型は、パンチ、ダイ、ストリッパ、ガイドポスト、バックアッププレート、ダイセットなどで構成される。順送型ではコイル材を送り、案内穴・曲げ・抜き・切断を一体化してタクト短縮を図る。ストリップレイアウト(ネスティング)やキャリア幅の最適化により歩留まりを高め、スクラップ処理やスラグ排出経路の設計も合わせて行う。
クリアランス設計
クリアランスは板厚tに対する百分率で定義し、相対クリアランスc=C/t(%)で表す。一般的な目安は、低炭素鋼で6〜10%、ステンレスで4〜8%、アルミで10〜15%程度である。小さすぎると負荷と摩耗が増え、パンチ欠けや焼付きが起こりやすい。大きすぎるとバリ増大・寸法粗れ・だれ過多になる。微小部品や高精度が必要な場合は、微小クリアランス+シャービング(二次せん断)で仕上げる。
加工力の計算
プレス抜きの必要荷重FはおおよそF=周長L×板厚t×材料のせん断強さτsで見積もる。安全率1.2〜1.5を乗じてプレス機の定格トン数を選定する。例えば、t=1.0 mmのSPCC、輪郭周長L=120 mm、τs=300 MPaとすると、F≒36 kNであり、安全率1.3なら約47 kN(約5 tf)を要する。
品質(バリ・だれ・面粗さ)と対策
バリはクリアランス過大、刃先摩耗、板押え不足で増える。対策は刃先の再研磨・TD処理やPVD(TiN/TiCN/DLC)コーティング、適正クリアランス化、ストリッパ圧の最適化などである。だれの抑制にはエッジ支持の強化と刃先鋭利化が有効で、面粗さはシャービングやFBで改善できる。二次バリ除去にはバレル、ブラシ、電解バリ取り、ショット処理などを用いる。
材料・工具材と表面処理
パンチ・ダイにはSKD11などの冷間ダイス鋼、高速度鋼、超硬合金を用いる。耐摩耗・耐凝着には窒化やPVD/CVDコーティング(TiN、TiCN、CrN、DLC)が有効である。粘着性の高いアルミや銅系には潤滑油や微量の固体潤滑剤を併用し、転移物の付着(がみ)を抑制する。予防保全ではショット数・荷重・抜き音のモニタリングを行い、異常兆候での段取り替えを計画する。
生産技術(レイアウトと歩留まり)
ストリップレイアウトでは、ピッチ、送り方向、スクラップブリッジ、マイクロジョイントの設計が重要である。材料歩留まりを高めるにはネスティング最適化とコイル幅選定、共通化設計、微小Rの標準化が有効である。順送ではパイロットで位置決めし、送り誤差を吸収する。CAD/CAM/CAEの連携によりスプリングバックや板取りを検証し、段取り時間を短縮する。
設備選定と安全
プレス機はCフレームと門型(Hフレーム)があり、剛性・変形・占有面積で選定する。必要トン数、ストローク、スライド速度、シャットハイト、ボルスタ寸法、クランプ方式を確認し、送り装置・レベラ・スクラップコンベヤと統合する。安全面ではライトカーテン、両手操作、型内監視カメラ、カス上がり検知を実装し、JISおよびISOの安全規格に適合させる。
設計上の注意(公差・穴径・接合)
プレス抜きで生成する穴径の下限は板厚と材料で変わるが、一般には最小穴径d≳0.8t程度を目安とする。公差は金型精度と弾性回復の影響を見込み、重要穴はシャービングやリーマ仕上げで追い込む。後工程のかしめやボルト締結を考慮し、座面平坦度や面取り、バリ方向を製品機能側へ影響しないよう統一する。
関連加工との違い
シャーリングは直線切断に適し、レーザやウォータジェットは自由形状・厚板・難加工材に強い。一方プレス抜きは型費を要するが、量産域でのタクト・コスト・繰返し精度に優れる。要求仕様(精度、エッジ品質、数量、材質、板厚)で最適工法を選択することが重要である。
トラブル事例と対処
- スラグ詰まり:ダイ逃げと排出経路を拡大、エアブローやバキューム併用。
- パンチ欠け:コーナR付与、工具材格上げ、コーティング、荷重低減のためクリアランス最適化。
- カス上がり:ストリッパ圧調整、マイクロジョイント、静電除去、潤滑見直し。
- 寸法ばらつき:ガイド強化、型剛性向上、プレス機の熱変位管理、送り装置の校正。