流体力学|ナビエストークスと境界層の基礎

流体力学

工学・物理・化学で基礎となる流体力学は、液体と気体の運動と力学的相互作用を連続体仮定の下で扱う学問である。対象は配管内の水・油から航空機周りの空気、マイクロ流路内の溶液、海洋・大気にまで及ぶ。密度や粘性といった物性、圧力や速度場の分布、エネルギーの収支を方程式で記述し、設計では圧力損失低減、熱交換効率化、騒音・振動抑制、浮力や揚力の活用などを具体的な成果として結実させる。解析は理論・実験・数値計算を組み合わせ、スケールの異なる現象を無次元数で統一的に比較するのが特徴である。

流体の性質と状態量

基本状態量は密度ρ、圧力p、温度T、速度ベクトルuである。粘性係数μはせん断変形に対する抵抗を表し、ニュートン流体ではせん断応力が速度勾配に比例する。圧縮性の有無、表面張力σ、比熱や熱伝導率も挙動を左右する。気体は理想気体近似p=ρRTをよく用い、液体はほぼ非圧縮として扱うことが多い。

  • 連続体仮定:分子スケールの離散性を平均化して場の量として扱う。
  • ニュートン流体と非ニュートン流体:後者は粘度がせん断速度に依存する。
  • 等温・断熱などの熱的仮定:エネルギー式の簡略化に有効である。

支配方程式:連続の式とNavier–Stokes方程式

質量保存は∂ρ/∂t+∇・(ρu)=0、非圧縮では∇・u=0である。運動量保存はρ(∂u/∂t+u・∇u)=−∇p+μ∇²u+ρgで表され、境界条件として壁面のno-slip、入口の速度・乱れ、出口の圧力などを設定する。エネルギー式を加えれば熱流体場を統一的に扱える。

解析上の前提

  • 定常/非定常、圧縮性/非圧縮性の選択
  • 粘性支配/慣性支配の見極め
  • 一次元化・薄層近似・潤滑近似などのモデル化

層流と乱流

層流は秩序だった層状の流れで、粘性が卓越する。乱流は渦度の階層構造をもつ非定常・三次元の混合現象で、平均場上の変動により拡散が著しく増大する。設計ではRANS、LES、DNSといったモデル・解法の選択が解像度と計算資源のバランスを決める。

次元解析と無次元数

Buckingham π 定理に基づき、評価量を支配する無次元群を抽出して相似則を得る。これにより実験スケールから実機スケールへ法則を外挿できる。

  1. Reynolds数 Re=ρUL/μ:慣性/粘性の比。層流・乱流遷移の指標。
  2. Mach数 Ma=U/c:圧縮性効果の指標。Ma>0.3で圧縮性を考慮。
  3. Froude数 Fr=U/√(gL):重力波や開水路流の指標。
  4. Weber数 We=ρU²L/σ:表面張力の重要度。

静止流体と静水圧

静止流体ではp(z)=p₀+ρgzが成り立ち、浮力は排除体積に比例する(アルキメデスの原理)。圧力は等方的で、固体の応力とは異なる性質をもつ。U字管マノメータや差圧伝送器により圧力差を測定する。

管路・開水路の流れ

ベルヌーイの式に損失項hfを加えると、実在流体のエネルギー収支が記述できる。Darcy–Weisbach式hf=f(L/D)(U²/2g)で摩擦損失を見積もり、曲がり・絞り・拡大などの局所損失は係数Kで表す。開水路では常流・射流の判定にFrが有用である。

圧力損失の見積もり

  • 粗さとReに依存する摩擦係数fをMoody線図等で取得
  • 配管網では結合方程式を立てて流量配分を解く
  • キャビテーション回避のためNPSH評価を実施

境界層と物体周りの流れ

粘性によって壁面近傍に境界層が形成され、はく離が抗力増大や振動の起点となる。円柱・翼型・車体周りの流れでは剥離点制御、渦励振対策、表面粗さ・形状最適化が鍵である。配管内の部品や締結体(例:ボルト)も局所的なはく離・再付着を誘発し、損失や騒音源となりうる。

圧縮性流れと音速

Maが高い領域では密度変化と圧縮性波が支配的となる。ノズル流れではチョーク現象が生じ、衝撃波による急激な圧力・温度・密度の跳躍が現れる。等エントロピー関係式や正反射/斜め衝撃波の理論はガスタービンやロケット噴射の設計に不可欠である。

数値流体力学 CFD と実験計測

CFDはFVM/FDM/FEMで支配方程式を離散化し、空間メッシュと時間積分法で解を求める。乱流モデル(k-ε、k-ω、SST等)、壁面関数、格子品質、収束判定、格子依存性評価が信頼性を左右する。実験ではPIVやLDVで速度場を可視化し、圧力タップや熱電対で境界条件と検証データを取得する。

品質保証の観点

  • 検証(Verification)と妥当性確認(Validation)の区別
  • 感度解析と不確かさ評価
  • メッシュ独立性・時間刻み独立性の確認

熱と物質移動の結合

対流熱伝達はNu数、物質移動はSh数で特徴づけられ、Re・Pr・Scとの相関式が多数整備されている。熱交換器では圧力損失と伝熱性能のトレードオフを設計指標に落とし込み、伝熱促進リブやフィン形状を最適化する。

モデル化と限界

連続体仮定はKnudsen数が小さい範囲で妥当であり、微小スケールや希薄気体では分子気体論やBoltzmann方程式が必要となる。非ニュートン流体、二相流、相変化、反応を伴う流れでは追加方程式や構成式が不可欠である。