沸点|液体が気体へと変わる境目の温度

沸点

沸点は、液体の蒸気圧が周囲の圧力と等しくなり、液体の表面だけでなく内部からも気泡が生じて激しく気化し始める温度である。1気圧(101.325 kPa)のもとで水は約100 °C、エタノールは78.3 °Cで沸騰する。沸点は物質ごとに固有の値をとるため、物質の同定や純度の確認に使われる。蒸留や乾燥、蒸気による加熱、冷凍サイクルといった多くの工業プロセスも、この値をもとに設計されている。

沸点は圧力によって変わる

「水は100 °Cで沸騰する」という言い方は、周囲の圧力が1気圧のときにしか成り立たない。標高3,776 mの富士山頂では気圧がおよそ63 kPaまで下がり、水は87 °C前後で沸騰する。そのため、山頂で炊いた米は芯が残りやすい。反対に、圧力鍋は鍋の中を約200 kPa(絶対圧)まで高めることで、水の沸点を120 °C近くまで引き上げている。液体を加熱すると蒸気圧は少しずつ高くなり、外の圧力と等しくなった時点で沸騰が始まる。温度そのものよりも、圧力との釣り合いで決まる値と考えるとわかりやすい。

標準沸点の定義と温度目盛りの関係

圧力を101.325 kPaに固定して測った沸点を「標準沸点」(normal boiling point)と呼ぶ。1742年にアンデルス・セルシウスが考案した温度目盛りは、水の沸点と氷の融点を基準点としていた。当初は沸点を0度、融点を100度とする逆向きの目盛りであり、のちに現在の向きに改められている。現在の国際温度目盛ITS-90は水の沸点を基準点に使っておらず、標準大気圧における純水の沸点は99.974 °C前後とされる。理科の教科書に出てくる「100 °C」は、このわずかな差を丸めた値である。

主な物質の標準沸点

沸点は物質によって大きく異なる。工業分野でよく扱う物質の標準沸点を下の表にまとめた。

物質 化学式 標準沸点 主な用途
窒素 N2 −195.8 °C 凍結処理、不活性ガスによる置換
R32(ジフルオロメタン) CH2F2 −51.7 °C 家庭用エアコンの冷媒
アセトン C3H6O 56.1 °C 洗浄、脱脂
エタノール C2H5OH 78.3 °C 溶剤、消毒
水 H2O 100 °C 蒸気加熱、冷却
タングステン W 約5,555 °C 電球のフィラメント、電極

分子間力と沸点の関係

分子量がほぼ同じ物質どうしでも、沸点が大きく違うことがある。硫化水素(H2S)の沸点が約−60 °Cなのに対し、分子量のより小さい水は100 °Cで沸騰する。これは、水分子どうしが強い水素結合でつながっているためである。気化するにはこの分子間力を断ち切る必要があり、そのエネルギーにあたるのが気化熱(水では約2,257 kJ/kg)である。

クラウジウス・クラペイロンの式

ある圧力での沸点がわかっていれば、別の圧力での沸点を計算で見積もれる。そのとき使うのが、次のクラウジウス・クラペイロンの式である。

ln(P2 / P1) = −(ΔHvap / R) × (1 / T2 − 1 / T1)

ΔHvapはモル蒸発熱、Rは気体定数(8.314 J/(mol·K))、Tは絶対温度を表す。水のΔHvapを約40.7 kJ/molとしてこの式に当てはめると、富士山頂での沸点が87 °C前後になることを確かめられる。実際の装置設計では、温度範囲を広くとっても誤差の小さいアントワン式も使われる。

溶質を加えると沸点は上がる

不揮発性の物質を溶かした溶液は、溶かす前の液体よりも高い温度で沸騰する。この現象を沸点上昇と呼び、うすい溶液では次の式が成り立つ。

ΔTb = Kb × m

ここでmは質量モル濃度、Kbは溶媒ごとに決まるモル沸点上昇で、水の場合は0.515 K·kg/molである。海水の塩分を3.5 %とすると、海水の沸点は真水より約0.6 °C高くなる。上がる幅はわずかに見えるが、海水淡水化プラントの蒸発缶では、この差がそのまま必要な加熱温度の差となり、熱効率に影響する。

製造現場での沸点の使い方

工場では、沸点を「下げる」か「上げる」かを目的に合わせて使い分けている。代表的な例を挙げる。

  • 減圧蒸留:熱に弱い医薬品の中間体や香料は、数kPaまで減圧した状態で、本来の沸点より100 °C以上低い温度で分離する。そうすることで、熱による変質を防げる。
  • 蒸気加熱:ボイラーで0.7 MPa(ゲージ圧)の飽和蒸気をつくると、温度は約170 °Cになる。現場では、圧力計の値を見て加熱温度を管理するのが一般的である。
  • 冷凍サイクル:冷媒は、室温より低い沸点をもつものが選ばれる。冷媒は蒸発器の中で周囲から熱を奪いながら気化する。
  • 溶剤の回収:混合溶剤は共沸混合物をつくる場合がある。たとえばエタノールと水は78.2 °Cで共沸するため、通常の蒸留だけでは純度95.6 %ほどが限界となる。

真空乾燥機を導入するときは、到達できる真空度と真空ポンプの費用の兼ね合いがよく問題になる。たとえば水を40 °C前後で蒸発させるには、約7.4 kPaまで減圧すれば足りる。これより高い真空度を求めると、ポンプやシール部品の費用が急に増える。目標とする乾燥温度から逆算して、必要な真空度を決めるのが実務での進め方である。

沸点を測るときの注意点

石油製品の蒸留性状は、JIS K 2254に定められた方法で測定する。初留点から終点までの温度変化を記録することで、燃料の揮発性を評価する。実験室で液体を加熱すると、液体が沸点を超えても沸騰しないまま過熱され、ある瞬間に一気に沸き上がる「突沸」が起こることがある。これを防ぐには、沸騰石を入れたり、かき混ぜたりして気泡ができるきっかけをつくる。測定値は実験室の気圧で補正する必要があり、標高の高い工場では1 °C程度の補正が必要になる場合もある。熱交換器の性能試験でも、運転中の圧力から飽和温度を読み取る作業は欠かせない。

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