蒸留|沸点の差で混合物を分ける分離技術

蒸留

蒸留とは、液体の混合物を加熱して蒸発させ、生じた蒸気を冷やして再び液体として集めることで、成分を分離・精製する操作である。成分ごとの沸点や蒸気圧の違いを利用するため、薬品を加えなくても純度の高い物質を取り出せる。用途は石油精製、化学品製造、酒類の製造、分析用の純水づくりまで幅広い。化学工学の代表的な単位操作の一つでもある。

錬金術から工業プロセスへ

蒸留器の原型は、紀元1〜3世紀ごろのアレクサンドリアですでに使われていたとされる。8世紀以降になると、イスラム圏の錬金術師がアランビック(alembic)と呼ばれる器具を改良し、香油やアルコールをつくる技術が育った。この技術はやがてヨーロッパに伝わり、中世の修道院では薬用酒の製造に使われた。工業規模の連続式装置が登場したのは19世紀に入ってからである。1830年にアイルランドのイーニアス・コフィーが特許を取った連続式蒸留機により、スピリッツの大量生産が可能になった。

気液平衡が分離を生む仕組み

混合液を沸騰させると、蒸気には揮発しやすい成分が多く含まれる。この偏りを数量で表したのが気液平衡の関係である。理想溶液であれば、1887年にフランスの化学者ラウールが示したラウールの法則が成り立つ。成分Aの分圧をpA、液中のモル分率をxA、純粋なAの飽和蒸気圧をPA*とすると、次の式で表される。

pA = xA × PA*

相対揮発度と必要段数の関係

分離のしやすさは相対揮発度αで評価する。αが1に近いほど分離は難しくなる。全還流のときの最小理論段数Nminはフェンスケの式で見積もることができ、塔頂製品の純度を99%、缶出液に残る量を1%とした場合、α=2.0なら約13段で済むが、α=1.1では約96段が必要になる。わずかな揮発度の差が、塔の高さと建設費を大きく左右するのである。

Nmin = log[(xD / (1 − xD)) × ((1 − xW) / xW)] ÷ log α

方式による違い

一度の蒸発と凝縮だけで終える単蒸留から、多段の精留塔を使う精留、圧力を極端に下げる分子蒸留まで、方式は対象物の性質に応じて選ばれる。熱に弱い成分を扱う場合は、圧力を下げて沸点を引き下げるのが基本となる。

方式 操作圧力の目安 主な対象 特徴
単蒸留 常圧(101.3kPa) 実験室、本格焼酎 構造が簡単だが分離能は低い
精留 常圧〜加圧 石油化学品、溶剤回収 還流と多段接触により高純度化できる
減圧蒸留 数kPa〜数十kPa 重質油、医薬中間体 沸点を下げ、熱分解を防ぐ
水蒸気蒸留 常圧 精油、香料 水蒸気と一緒に100℃以下で留出させる
分子蒸留 0.1Pa程度以下 ビタミン、魚油 加熱面から凝縮面までの距離を極端に短くする

原油の常圧蒸留と減圧蒸留

製油所では、加熱炉で約350℃まで加熱した原油を常圧蒸留装置(トッパー)に送り込む。塔の上部からLPガスとナフサ、中段から灯油や軽油を抜き出し、塔の底には常圧残油が残る。この残油をさらに加熱すると、400℃前後で熱分解が始まってしまう。そのため次の減圧蒸留装置では、塔頂の圧力を数kPaまで下げて沸点を引き下げ、減圧軽油や潤滑油の原料となる留分を取り出す。石油製品の蒸留性状の試験方法は、JIS K 2254に定められている。

共沸という越えられない壁

段数をいくら増やしても、それ以上濃くできない組成がある。エタノールと水は1気圧のもと、エタノール約95.6質量%、温度約78.2℃で共沸混合物をつくり、蒸気と液の組成が同じになってしまう。無水エタノールを得るには、シクロヘキサンなどを加えて共沸点を変える共沸蒸留、エチレングリコールを溶剤に使う抽出蒸留、2本の塔の圧力を変えて共沸組成をずらす圧力スイング蒸留などが使われる。最近では、ゼオライト膜を使った浸透気化法を組み合わせ、塔の負荷を減らすプラントも増えている。

製造現場での設計・運転の勘所

化学・石油化学工業で使われるエネルギーのおよそ4割を蒸留が占めるともいわれ、運転コストの大半は塔底を加熱するリボイラーのスチーム代である。還流比を上げれば製品純度は高くなるが、スチームの使用量もほぼ比例して増える。そのため実際の設計では、最小還流比の1.2〜1.5倍程度に設定するのが一般的である。塔頂から出る蒸気の熱を熱交換器で原料の予熱に回したり、ヒートポンプ方式で蒸気を圧縮して再利用したりする改造も多い。こうした省エネ投資は、燃料価格と投資回収年数を比べながら判断されることがほとんどである。

トレイと充填物の使い分け

塔の内部で気体と液体を接触させる方法には、棚段(トレイ)と充填物の2種類がある。汚れやすい原料を扱う場合や塔の直径が大きい場合は、掃除がしやすく単価も安い棚段が選ばれやすい。一方で減圧系では、圧力損失の小さい規則充填物が有利になり、理論段1段あたりの圧力損失を0.1kPa程度以下に抑えられる。ただし、規則充填物の材料費は棚段の数倍になることもあり、更新工事の見積もりを見て驚く担当者は少なくない。減圧運転では真空ポンプの能力に加え、フランジから入る空気漏れの管理も製品品質を左右する。

酒類・純水づくりにおける蒸留

身近な例は焼酎やウイスキーである。日本の酒税法では、単式蒸留機でつくる単式蒸留焼酎はアルコール分45度以下、連続式蒸留焼酎は36度未満と区分されている。単式の装置は分離能が低い分、原料に由来する香りの成分が残りやすく、それが銘柄ごとの風味の個性になっている。実験室では、イオン交換と組み合わせてつくった蒸留水が分析に使われる。JIS K 0557では、試験に使う水の等級をA1〜A4の4段階に分けて定めている。

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