振動計
振動計は、機械・構造物・人体などに生じる振動を定量化する計測器である。対象や目的に応じて、加速度・速度・変位のいずれかを測定し、時間波形や周波数スペクトルへ変換して評価する。センサ、信号調整器、A/D、解析ソフトから成る測定チェーンを適切に設計することで、固有振動数、共振、減衰、アンバランス、ミスアライメント、ギヤメッシュなどの現象を把握できる。産業保全、品質管理、輸送試験、建築・土木、モーダル解析、騒音・振動評価など幅広い分野で用いられる。
基本原理と種類
測定量で分類すると、加速度型(圧電・ピエゾ抵抗・MEMS)、速度型(電磁ピックアップ・積分演算)、変位型(渦電流・レーザ変位・容量)に大別される。圧電型は広帯域・高剛性で回転機械の診断に適し、MEMSは小型・多点・低周波に強い。速度は振動エネルギ評価に有効で、変位は低周波の大振幅や構造応答の把握に有利である。選定は対象の周波数範囲、振幅、環境(温度・湿度・電磁ノイズ)、取付方法、必要精度を基準に行う。
レーザードップラー方式
非接触で微小変位・速度を高分解能に観測でき、薄板や微小部品の測定、接触が困難な高温・高加速度部位に有効である。光学アライメントと表面反射特性の管理が品質を左右する。
物理量と周波数特性
同一対象でも、加速度・速度・変位は周波数で相互に積分・微分関係にある。低周波では変位が直観的で、機械損傷の初期兆候には速度RMSが有効とされる場面が多い。評価帯域は構造固有値より十分広く設定し、センサの共振、ローパス/ハイパスのカットオフ、サンプリング周波数(Nyquist)を整合させる。ウインドウ関数、平均化、重畳平均(Order Tracking)により、FFTの漏れや回転同期成分を制御する。
センサと信号処理
圧電型は電荷出力もしくはIEPE(内蔵アンプ)で使用する。電荷型は電荷アンプでコンディショニングし、IEPEは定電流源と同軸ケーブルで長距離配線に適する。A/Dは分解能とダイナミックレンジが重要で、24bit級と適切なフルスケール設定により微小信号と過大入力の両立を図る。アンチエイリアスフィルタはカットオフをサンプリングの0.4〜0.45倍に置き、時間同期平均やエンベロープ解析で転がり軸受の早期異常を抽出する。
IEPEとは
IEPEはICPとも呼ばれ、一定電流を印加してセンサ内アンプを駆動する方式である。利点は低インピーダンス・耐ノイズ・扱いやすさ、留意点は温度依存と飽和・カップリングの管理である。
校正とトレーサビリティ
振動校正は参照標準加速度計を用いた比較法が一般的で、一次校正ではレーザ干渉計により加速度を絶対測定する。校正条件は周波数掃引、加速度レベル、取付トルク、環境温度を規定し、感度(mV/g 等)と位相遅れ、横感度を含めて結果を記録する。国際的にはISO 16063シリーズが参照され、定期校正と日常点検(感度チェック)でトレーサビリティを維持する。
測定手順と設置
取付剛性は周波数上限を支配する。ねじ固定が最良で、次いで接着、マグネットの順である。接触面は平滑・脱脂し、共振を避けるために配線のフローティングやケーブルのストレインリリーフを実施する。測点は荷重経路上や支持部近傍など、モード形状を意識して配置し、多点測定では基準チャンネルを常設する。データ品質はS/N、過渡の捕捉、温度ドリフト管理に依存する。
参考となる関連計測器
環境計測・設備点検の文脈では、音圧評価の騒音計、光量管理の照度計、温度監視の温度ロガー、対象温度別の接触温度計・非接触温度計、熱画像で状態監視を行うサーマルカメラが併用されることが多い。
指標と評価量
時間領域ではPeak、Peak-to-Peak、RMS、クリストファ係数、Kurtosisを用いる。周波数領域ではスペクトル、1/3オクターブ、オーダートラッキング、エンベロープが代表的である。装置健全度評価にはISO 10816/20816で定義される速度RMSのゾーニングが広く参照され、据付据え付け条件や機種別基準に留意する。人間暴露評価ではISO 2631が用いられる。
応用例
回転機械の予知保全では、軸受のBPFO/BPFI、歯車メッシュ周波数、アンバランスや芯ずれの一次成分をスペクトルで監視する。構造健全性では、加振器・インパクトハンマを用いたモーダル試験で固有振動数・減衰比・モード形状を同定し、モデル更新や補強設計に反映する。輸送試験ではプロファイルをPSDで規定し、耐久性を検証する。半導体・精密機器では微小振動のアイソレーション設計に活用される。
注意点と誤差要因
主な誤差は取付剛性不足、ケーブルの摩擦帯電、電源・接地ループ、温度ドリフト、クロスアクシス感度、センサ共振、ゲイン設定不適、エイリアシングである。対策として表面前処理、固定トルク管理、同軸配線の固定、適切なフィルタとサンプリング、感度校正、温度補償、三軸センサのアライメント確認を行う。データ解釈では運転条件(回転数・負荷)を同時記録して因果を切り分けることが肝要である。
機種選定の実務ポイント
- 対象帯域:上限周波数は注目成分の少なくとも2〜3倍を確保する。
- レンジ:最大加速度・速度・変位に対してヘッドルームを持たせ、クリップ防止を図る。
- 環境:温度範囲、湿気、油霧、電磁ノイズ、耐衝撃性を確認する。
- 取付:ねじ・接着・磁石の順に剛性を検討し、質量負荷の影響を見積もる。
- 運用:校正証明、点検手順、解析テンプレート、閾値設計、記録フォーマットを標準化する。