騒音計
騒音計は、音圧レベルを定量化して表示・記録する計測器である。環境騒音評価、労働安全衛生、建築音響、製造設備の保全、交通・工事現場の監視など、工学・物理・機械・化学の横断領域で用いられる。一般にマイクロホン(圧力型コンデンサマイク)で音圧を電圧に変換し、周波数重み付け(A/C/Z)と時間重み付け(Fast/Slow/Impulse)を適用したのち、対数演算によりdB表示する。精度や機能は規格により等級化され、データロガや1/3オクターブ分析機能を備えたモデルも多い。
測定原理と信号処理
基本構成は「マイクロホン→プリアンプ→フィルタ(周波数重み付け)→時間重み付け→RMS演算→表示・記録」である。人の聴感に近似するA特性(dB(A))のほか、C特性(低域をやや重視)、Z特性(無重み付け)が選べる。時間応答は、変動音の追従性を規定するもので、Fast(125 ms)とSlow(1 s)、衝撃音向けのImpulseが代表的である。これらの設定により、同一音でも読み値が変わるため、用途に応じた条件指定が不可欠である。
音響指標(dB表示と代表値)
- 等価騒音レベルLeq:観測時間Tにおけるエネルギー平均。変動騒音の代表値として広く用いられる。
- Lmax/Lmin:最大・最小の瞬時レベル。衝撃・通過騒音のピーク把握に有効。
- Lx(例:L10, L50, L90):累積分布に基づく百分位レベル。背景騒音や交通流の変動性評価に用いる。
- ピーク音圧レベル:CpeakやZpeakとして規定され、衝撃・爆発音評価に重要となる。
規格と等級
騒音計はIEC 61672-1に準拠し、許容差によりClass 1(精密)とClass 2(一般)に区分される。Class 1は周波数応答・直線性・指向性の厳格な要求を満たし、試験所や詳細評価に適する。Class 2は現地調査や日常管理に十分な性能を有し、携帯性とコストのバランスがよい。フィールドでの安定性確保のため、校正器・風防・三脚など付属品も併せて規定や推奨が存在する。
校正・トレーサビリティ
測定の信頼性は校正で担保する。現場ではアコースティックカリブレータ(典型値94 dB、1 kHz)で使用前後に感度確認を行い、ドリフトや装着ミスを検知する。定期的には試験所での校正(マイクロホン・本体・フィルタ・時間応答)により国家計量標準へトレーサブルな確度を保つ。校正履歴、環境条件、使用設定の記録は後日のトレーサビリティ証跡として重要である。
測定手順の要点
- 設置:風防を装着し、反射面から十分に離して三脚に固定する。屋外では風向・風速に注意し、雨滴・砂塵を避ける。
- 高さ・位置:受音点の代表性を考慮し、一般環境では地表1.2〜1.5 m程度が用いられることが多い。
- 設定条件:周波数重み付け(多くはA)、時間重み付け(Fast/Slow)、積分時間T、記録間隔、閾値(トリガ)を明示する。
- 現場校正:開始前後で感度差がないか確認し、差異があれば原因を特定して再測定する。
- 記録:Leq、Lmax、L10/L50/L90、スペクトル(1/3オクターブ)などを併録し、再解析に備える。
誤差要因と不確かさ
主な要因は、風雑音(低域の誤差増大)、温湿度変化による感度ドリフト、電磁ノイズ、マイク指向性と入射角、近接反射(床・壁・車体)である。さらに変動音では観測時間Tの選定が統計量に影響する。不確かさ評価では機器の等級・校正不確かさ・環境変動・設置ばらつきを合成し、報告書にレンジまたは標準不確かさとして明記するのが望ましい。
用途と事例
- 環境評価:道路・鉄道・空港・工場周辺の常時監視、工事騒音の苦情対応。
- 労働衛生:作業者の騒音ばく露評価(Leqやピーク)、保護具選定の基礎データ。
- 製造設備:プレス・コンプレッサ・ファンの状態監視、遮音・吸音対策の効果検証。
- 建築音響:室内騒音、遮音等級の測定補助、設備騒音の許容確認。
機能拡張とデータ活用
近年の騒音計は、ロガ機能、GPSタイムスタンプ、イベントトリガ記録、通信(USB/無線)、クラウド連携により、長期無人計測や遠隔監視を可能にする。1/1・1/3オクターブ分析、時間周波数解析、統計処理を組み合わせることで、支配周波数帯や発生源特定(音源探査)に寄与する。設備保全では、対策前後のLeq・スペクトル差を定量比較し、効果検証を明瞭化できる。
選定ポイント
- 等級:精密評価はClass 1、日常調査はClass 2が目安。
- 周波数・時間重み付け:A/C/ZとF/S/Iに対応しているか。
- レンジとダイナミックレンジ:対象音のLmaxやピークを飽和なく測れること。
- マイクロホン:交換可能性、耐候性、ノイズフロア。
- 電源と可搬性:バッテリ寿命、重量、屋外対応。
- 記録・解析:ロガ、オクターブ分析、外部出力、ソフト互換。
実務上の注意
報告書には、機器情報(メーカー・型式・等級・校正状態)、日時・場所・座標、設置高さ・周囲状況、設定条件(重み付け・時間応答・T・風防使用)、気象(気温・風速)、測定結果(Leq、Lx、Lmax、スペクトル)と不確かさを記す。再現性を確保するうえで、写真・スケッチ・バックグラウンドノイズの確認も有効である。これらを徹底することで、騒音計によるデータは意思決定に耐える工学的根拠となる。