国際標準化機構
国際標準化機構(International Organization for Standardization、略称ISO)は、工業製品や技術、管理手法などの国際規格を策定する非政府組織である。本部はスイスのジュネーブにあり、1947年2月23日に正式に発足した。加盟しているのは各国を代表する標準化機関で、1か国につき1機関のみが会員となる。日本からは日本産業標準調査会(JISC)が1952年に加盟した。発行した規格は25,000件を超え、ねじの寸法から経営の仕組みまで扱う範囲はきわめて広い。
設立までの経緯
前身となる組織は二つある。1926年に設立された万国規格統一協会(ISA)と、第二次世界大戦中の1944年に連合国側で発足した国際連合規格調整委員会(UNSCC)である。ISAは主に機械工学分野を扱っていたが、戦争の激化によって1942年に活動を停止した。戦後の1946年10月、25か国の代表がロンドンに集まり、新しい国際組織の設立に合意した。これが国際標準化機構の出発点となった。電気・電子分野だけは1906年設立の国際電気標準会議(IEC)がすでに担っており、両者は現在も役割を分けながら協力している。
「ISO」という略称の由来
英語ならIOS、フランス語ならOINとなり、言語ごとに略称が変わってしまう。そこでギリシャ語で「等しい」を意味するisosにちなみ、どの言語でも共通の「ISO」を採用した。公用語は英語、フランス語、ロシア語の3つである。
組織の仕組みと会員区分
会員は170を超える国の標準化機関で構成され、権限の違いから正会員(Member body)、通信会員、購読会員の3種類に分かれる。規格案の投票権を持つのは正会員のみ。実際の規格づくりは専門委員会(TC)とその下部の分科委員会(SC)、作業グループ(WG)が担当しており、TCの数は300前後にのぼる。情報技術の分野では、IECと共同で1987年に設置したISO/IEC JTC 1が活動している。各国の産業界から派遣された専門家が議論に加わるため、日本企業の技術者が国際会議で幹事や議長を務める例も少なくない。
規格ができるまでの段階
ひとつの国際規格が発行されるまでには、合意形成を重視した段階的な手続きを踏む。一般的な流れは次のとおりである。
- 新業務項目提案(NP):新しい規格の必要性を提案し、投票で採否を決める
- 作業原案(WD):作業グループが技術的な中身を検討する
- 委員会原案(CD):TCやSCの内部で合意を図る
- 国際規格案(DIS):全加盟機関に照会し、意見と投票を集める
- 最終国際規格案(FDIS):最終投票で賛成多数となれば承認される
- 国際規格(IS):正式に発行される
提案から発行まではおおむね3年程度が目安とされる。発行後も放置されるわけではなく、少なくとも5年ごとに定期見直しが行われ、確認・改訂・廃止のいずれかが決まる。
マネジメントシステム規格の広がり
一般に「ISOを取得した」と言うとき、その多くはマネジメントシステム規格の認証を指している。代表的な規格を以下に示す。
| 規格番号 | 対象 | 初版発行 | 対応するJIS |
|---|---|---|---|
| ISO 9001 | 品質マネジメントシステム | 1987年 | JIS Q 9001 |
| ISO 14001 | 環境マネジメントシステム | 1996年 | JIS Q 14001 |
| ISO 45001 | 労働安全衛生 | 2018年 | JIS Q 45001 |
| ISO/IEC 27001 | 情報セキュリティ | 2005年 | JIS Q 27001 |
ここで誤解されやすいのは、ISO自体は認証業務を行っていないという点である。審査と認証を行うのは民間の認証機関で、日本では日本適合性認定協会(JAB)などがその認証機関を認定する。つまり「規格をつくる組織」と「適合を審査する組織」と「審査機関を監督する組織」が分かれている。
製造現場から見た認証取得の実情
従業員50人規模の部品メーカーがISO 9001を新規取得する場合、審査費用だけで数十万円から100万円程度、コンサルタントに依頼すればさらに同程度の費用が上乗せされることが多い。取得後も毎年の維持審査と3年ごとの更新審査があり、文書管理の手間は想像以上に重い。それでも自動車や電機のサプライチェーンでは取引条件として認証が求められる場面が多く、受注維持のために取得する企業が大半を占める。形だけの運用に陥ると現場の負担が増えるだけなので、既存の作業標準書や検査記録を活かして仕組みを組み立てるのが実務上のコツである。
身近なところにあるISO規格
マネジメント規格以外にも、日常生活に溶け込んだ規格は多い。用紙サイズのA4(210mm×297mm)はISO 216で定められており、海上輸送に欠かせない輸送コンテナの寸法はISO 668に基づく。通貨コードの「JPY」や「USD」はISO 4217、国名コードの「JP」はISO 3166による。機械部品の分野ではメートルねじのピッチや公差がISO 68やISO 965で統一され、世界中どこで買ったボルトとナットでも組み合わせられるようになった。こうした互換性が、部品調達のグローバル化を下支えしてきた。
日本産業規格との関係
日本産業規格(JIS)は、ISO規格との整合を基本方針としている。背景にあるのは世界貿易機関(WTO)のTBT協定で、1995年の発効以降、加盟国は国際規格を国内規格の基礎として用いることが求められるようになった。ISO規格をそのまま翻訳したJISは「IDT(一致)」、一部を変えたものは「MOD(修正)」と表示される。ただし、日本の気候や体格、既存設備との互換性を理由に独自の数値を残している規格もあり、輸出向け製品を設計する際は、JISとISOのどちらに準拠するかを図面段階で明確にしておかないと、後工程で寸法や試験条件の食い違いが表面化しやすい。
国際競争と規格づくりの主導権
規格は中立的な技術文書に見えるが、実際には国や企業の利害がぶつかる場でもある。自国の技術が国際規格に採用されれば、その国の企業は設計変更なしで世界市場に参入できる。反対に、他国主導の規格が採用されれば、製造業は製品の作り直しを迫られかねない。近年は電気自動車の充電方式や水素関連技術、スマート製造などの分野で、欧州・米国・中国が委員会の幹事国ポストを積極的に獲得している。日本も経済産業省を中心に、国際標準化に携わる人材の育成や企業の提案活動の支援を進めている。
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