含油軸受
含油軸受は、多孔質の金属に潤滑油をしみ込ませ、外部から給油しなくても長時間運転できるようにしたすべり軸受である。金属粉末を圧縮成形し、焼結した素材を使うものが大半を占める。体積の15〜30%ほどある気孔に油をため込むのが特徴で、日本ではJIS B 1581「焼結含油軸受」が形状・寸法と公差を定めている。オイルレスベアリングとも呼ばれるが、油を使わない軸受というわけではない。給油作業がいらないという意味であり、内部には常に油が存在している。
粉末冶金とともに広がった歴史
実用化の起点は1930年代の米国にある。自動車メーカーのクライスラー社が「Oilite」の商品名で青銅系の焼結軸受を量産し、自動車の補機類に採用した。当時は粉末冶金そのものが新しい技術で、切削では作れない「意図的に穴だらけの金属」を作れる点が注目された。日本では戦後、1950〜60年代に扇風機や洗濯機などの家電が普及するのに合わせて生産量が増えた。小型モーターの量産と、ほぼ同時に成長してきた部品といえる。
油がにじみ出て戻る仕組み
軸が止まっているとき、油は毛細管現象によって気孔の中に保持されている。回転が始まると摩擦熱で温度が上がり、油が膨張する。鉱油の体積膨張係数は約7×10-4/Kで、青銅の線膨張係数(約1.8×10-5/K)と比べて桁違いに大きい。そのため油は逃げ場を求めて軸受の内面へ押し出される。軸の回転が生むポンプ作用もこれを後押しし、軸と軸受のすき間に油膜ができる。停止して温度が下がると、油は再び気孔へ吸い戻される。この循環があるため、少ない油でも何千時間も潤滑を保てる。
気孔率と含油率の関係
気孔を増やせば油は多く入る。ただし強度は落ちる。この兼ね合いから、一般的な製品の含油率は体積比で18%以上が目安とされ、高荷重用では気孔率を下げて密度を上げる。軸受の材料記号はJIS Z 2550で規定され、SBK(青銅系)やSBF(鉄系)などの記号で区別される。
材料系統ごとの違い
現在流通している含油軸受は、おおむね次の3系統に分けられる。数値はメーカーカタログに見られる代表的な目安であり、使用する油や条件によって変わる。
| 系統 | 主な組成 | 許容PV値の目安 | 許容周速の目安 | 向いている用途 |
|---|---|---|---|---|
| 青銅系 | Cu-Sn(Sn約10%) | 1.8 MPa·m/s | 〜6 m/s | 高速・低騒音の小型モーター |
| 鉄系 | Fe+Cu数%+C | 1.0 MPa·m/s | 〜2 m/s | 低速・高荷重の機構部品 |
| 鉄銅系 | Fe-Cu(Cu20〜50%) | 1.5 MPa·m/s | 〜4 m/s | 家電や自動車電装品の汎用品 |
青銅系はなじみが良く、静かに回る。そのかわり銅とスズの価格に左右されやすい。鉄系は安価で荷重に強いが、相手軸との焼付きには気を配る必要がある。鉄銅系はその中間に位置し、コストと性能のバランスから採用例が最も多い系統になっている。
設計で押さえる数値
選定の基準になるのはPV値である。面圧Pは荷重を「内径×軸受長さ」の投影面積で割った値で、これに周速Vを掛けて求める。
PV = P × V = ( W ÷ ( d × L ) ) × ( π × d × n ÷ 60000 )
W:荷重[N]、d:内径[mm]、L:長さ[mm]、n:回転数[min-1]
計算値がカタログの許容値を超えるなら、材料を変えるか寸法を見直す。長さと内径の比(L/d)は0.5〜1.5程度に収めるのが一般的で、長すぎると軸のたわみによる片当たりが起きやすい。使用温度は鉱油含浸品で−10〜80℃前後が標準となり、これを超える場合は合成油を含浸させた品種を選ぶ。油の粘度が高すぎると始動トルクが増え、低すぎると油膜が切れて摩擦係数が跳ね上がる。
圧入後の内径変化に注意
現場で最もトラブルになりやすいのが圧入である。ハウジングに押し込むと、締め代に近い量だけ内径が縮む。図面上の内径公差だけを見て軸径を決めると、組み立て後にすき間がなくなり回転不良を起こす。量産ラインでは、圧入時にサイジングピンを通して内径を整えるのが定石になっている。リーマや旋削で内径を追加工するのは避けたい。刃物が表面の気孔をつぶしてしまい、油の出入り口がふさがるためである。寸法が合わないときは、加工ではなく軸受メーカーに内径違いの品番を相談するほうが結果的に安く済む。
使われている場所
給油できない場所、給油したくない場所で重宝される。代表的な採用先は次のとおり。
- 扇風機・換気扇・エアコン室内機のファンモーター
- 自動車のパワーウインドウ、ワイパー、ドアミラー用モーター
- プリンタや複写機の紙送りローラ軸
- 電動工具、小型ポンプ、事務用シュレッダーの駆動部
- OA機器や家具の回転ヒンジ部
購買の立場から見ると、量産品なら1個数円〜数十円で手に入り、同じ内径の転がり軸受と比べて数分の1の価格で済むことが多い。部品点数も少なく、外輪・転動体・保持器といった構成部品がない分、小径化しやすい。ただし高速で高荷重がかかる箇所や、軸の振れ精度が厳しく求められる箇所では、転がり軸受に軍配が上がる。
寿命を縮める原因と対策
寿命の大半は油の残量で決まる。高温で長時間回すと潤滑油が酸化・蒸発し、気孔の中が空になっていく。含油量が初期の半分程度まで減ると、摩耗や異音が急に増える傾向がある。保守のつもりで別の油やグリースを外から塗るのは逆効果になりやすい。粘度の高いグリースが気孔の入口をふさぎ、内部の油が出てこなくなるからである。どうしても油を補いたい場合は、同系統の油に浸して減圧下で再含浸させる方法がとられる。粉じんの多い環境では、フェルトワッシャや油溜まりを併用して油切れと異物侵入の両方を抑える設計が採られている。
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