毛細管現象|細い管内で液面が上下する現象

毛細管現象

毛細管現象とは、細い管やすき間に液体が入り込み、重力に逆らって液面が上昇したり、逆に下降したりする現象である。原因は、液体が固体表面を濡らそうとする付着力と、液体分子同士が引き合う表面張力のつり合いにある。内径0.2 mmのガラス管を水に立てると、水はおよそ15 cmの高さまで上る。タオルが水を吸い上げる、ろうそくの芯を蝋が上っていくといった身近な例のほか、ろう付けや非破壊検査など、製造業の基礎技術にも深く関わっている。

ガラス管の実験から始まった研究史

細い管で液面が上がることは、ルネサンス期のレオナルド・ダ・ヴィンチがすでに書き残している。定量的な研究が進んだのは18世紀に入ってからで、英国王立協会のフランシス・ホークスビーは1700年代初めに、管の内径を変えながら上昇高さを測定した。その結果をもとに、医師で物理学者のジェームズ・ジュリンが1718年、「上昇高さは管の内径に反比例する」という経験則を発表している。この関係は現在でも「ジュリンの法則」と呼ばれる。理論的な裏付けはさらに時代が下り、1805年前後にトマス・ヤングとピエール=シモン・ラプラスがそれぞれ表面張力と曲面の圧力差の考え方を示したことで、現象全体が力学的に説明できるようになった。

液面が上がる理由と下がる理由

液面の上下を決めるのは、固体と液体の接触角である。水とガラスのように接触角が90°より小さい組み合わせでは、液体が壁面を這い上がろうとし、管内の液面は下に凸の曲面(メニスカス)になる。この曲面のふちに沿って表面張力が上向きに働き、液柱を持ち上げる。液柱の重さと引き上げる力がつり合った位置で上昇は止まる。

水銀とガラスでは逆のことが起きる。接触角はおよそ140°と大きく、液体はガラスを嫌うように縮こまる。メニスカスは上に凸となり、管内の液面は外側の液面より低くなる。つまり毛細管現象は「液体が上がる現象」というより、濡れ性の良し悪しによって上昇にも下降にもなる現象と捉えたほうが正確である。

ジュリンの式

上昇高さhは次の式で表される。

h = 2γ cosθ / (ρ g r)

ここでγは表面張力[N/m]、θは接触角、ρは液体の密度[kg/m3]、gは重力加速度(9.81 m/s2)、rは管の半径[m]である。分母にrがあるため、管を細くするほど液柱は高くなる。半径を1/10にすれば、高さは10倍になる計算である。

液体の種類で変わる上昇高さ

同じ半径0.1 mmのガラス管でも、液体によって結果は大きく異なる。20℃付近の代表的な値をジュリンの式に当てはめると、以下のようになる。

液体 表面張力(mN/m) ガラスとの接触角 密度(kg/m3) 液面の変化
水 72.8 ほぼ0° 998 約14.8 cm上昇
エタノール 22.3 ほぼ0° 789 約5.8 cm上昇
水銀 約485 約140° 13,546 約5.6 cm下降

エタノールは水より軽いのに上昇高さが小さい。表面張力が水の3割程度しかないためである。水に界面活性剤を加えると表面張力は30 mN/m前後まで下がるが、同時に接触角も小さくなるので、材料によっては浸透しやすくなる場合もある。高さと浸透性は必ずしも一致しない点に注意したい。

ものづくりで活かされる場面

製造現場では、この現象を積極的に利用している工程が少なくない。代表例がろう付けである。溶けたろう材は、母材同士のすき間に毛細管力で吸い込まれ、継手全体に行き渡る。銀ろうの場合、適正なクリアランスはおよそ0.05〜0.1 mmとされ、これより広いとろうが流れ込まずに空洞が残り、狭すぎるとフラックスやガスが逃げ場を失う。実務では、治具で寸法を管理できない試作品ほど不良が出やすい。量産時に「なぜか試作では問題がなかった継手が漏れる」というトラブルは、多くの場合、部品公差の積み上がりでクリアランスが0.2 mmを超えていたことが原因になっている。

はんだ付けでも事情は似ている。プリント基板のスルーホールにはんだが吸い上がるのは毛細管力によるもので、穴径とリード径の差が適切でないと、上面までフィレットが形成されない。

もう一つ見逃せないのが浸透探傷試験である。表面に開口した微細な割れに浸透液をしみ込ませ、現像剤で吸い出して欠陥を可視化する方法で、JIS Z 2343-1やISO 3452-1に手順が規定されている。標準的な試験温度は10〜50℃、浸透時間は材料や欠陥の種類に応じて5〜60分の範囲で設定する。幅数μmの疲労割れでも検出できるのは、すき間が狭いほど液を強く引き込むという性質のおかげである。磁粉探傷が使えない非磁性材料、たとえばアルミ鋳物やオーステナイト系ステンレスの非破壊検査では、コスト面でも第一候補になりやすい。

熱輸送の分野ではヒートパイプが知られている。内壁に焼結金属粉や細い溝(グルーブ)からなるウィックを設け、凝縮した作動液を毛細管力で加熱部へ送り返す。ポンプを持たないため可動部がなく、ノートPCのCPU冷却から人工衛星の熱制御まで使われている。

困った現象としての一面

便利な反面、望まない場所に液体を運んでしまうこともある。コンクリートの内部には直径数nm〜数μmの細孔が無数にあり、地面から水分が吸い上げられる。その水が表面で蒸発すると、溶けていた水酸化カルシウムなどが析出し、白い粉状の汚れ(エフロレッセンス)になる。鉄筋腐食や凍害の引き金にもなるため、防水層や撥水剤で吸水経路を断つ対策がとられる。

電気配線でも油断できない。より線の素線間のすき間は、まさに細い管の集まりである。端子の圧着部から水が入ると、被覆の内側を数十cm先まで伝っていくことがあり、自動車のワイヤーハーネスでは防水コネクタ内部の腐食原因として知られている。はんだ付けで素線にはんだが吸い上がりすぎる「はんだ上がり」も同じ仕組みで、被覆の奥まで硬化すると曲げ部で断線しやすくなる。

多孔質材料と吸水速度

紙、布、焼結体、土壌のような多孔質材料では、最終的な上昇高さだけでなく、どれだけ速くしみ込むかも問題になる。この速度を表すのがルーカス・ウォッシュバーンの式で、浸透距離は時間の平方根に比例する。液体の粘度が高いほど遅く、細孔が大きいほど速く進む。高さとは逆に、太い孔のほうが速度では有利になるわけで、ウィック設計ではこの二つの兼ね合いが腕の見せどころになる。含油軸受(オイルレスベアリング)が焼結体の気孔に潤滑油を保持し、運転時の発熱で油をにじみ出させる仕組みも、こうした細孔内の液体挙動を応用したものである。

植物が根から葉へ水を運ぶ過程にも毛細管現象は関わっている。ただし道管の直径は20〜200 μm程度であり、毛細管力だけでは高さ100 mを超える樹木の頂上まで水は届かない。実際には葉からの蒸散による引張力と、水分子の凝集力が主役を担っており、毛細管力はその補助として働いていると考えられている。

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